『沈黙の艦隊』中村倫也は監督の心のよりどころ プロデューサーが語るキャスティング秘話
日米が極秘裏に建造した最新鋭の原子力潜水艦で反乱逃亡し、核ミサイルをブラフに独立国「やまと」建国を宣言する。約30年前に描かれた、かわぐちかいじの傑作漫画「沈黙の艦隊」が、満を持して実写映画化された。『銀魂』『キングダム』『ゴールデンカムイ』など超話題作を次々手掛ける敏腕プロデューサーの松橋真三は、連載当時から愛する今作を、若手監督の吉野耕平に託している。さらに、キーとなるオリジナルキャラクターに中村倫也をキャスティング。その理由と意図を、松橋が語った。
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吉野監督は、大ヒット映画『君の名は。』にCGクリエイターとして参加後、2020年に脚本・監督・VFXを担当した中村倫也主演の『水曜日が消えた』で長編映画監督デビュー。松橋がその面白さに感服したという『ハケンアニメ!』は2022年の作品だ。大作エンターテインメントは今作が初めての挑戦となる。
それでも松橋は吉野監督に託した。「『ハケンアニメ!』は、人間ドラマとSFアクションアニメが1つの作品の中で融合している、そのバランス感覚が素晴らしかった。人間ドラマとCGの潜水艦アクションを面白く見せるという意味では、今作とアプローチとして通じるところがあるかも、と思いました」と語る。さらに「次世代を担う優秀な監督とは、積極的にご一緒したいと思っています。早いうちに吉野さんとつながっておかないと、ほかの方に取られてしまうと思いました」と冗談めかして笑いつつも、瞳は真剣だ。
信頼に違わず「監督の中にある設計図とプランはすごくしっかりしていました」というが、性格としては、声高にグイグイと前に出るタイプではないという。「現場では『用意、スタート』という声も小さくて、助監督が声を張り上げてフォローしないといけないんです(笑)。シャイな吉野監督の傍には、気心の知れた手練れの役者さんがいてほしいし、それは倫也さんしかいないと思いました」と語る。
独立を宣言する「やまと」艦長の海江田(大沢たかお)と、そのライバルで「たつなみ」の艦長・深町(玉木宏)の関係性をより際立たせるキーパーソンとなるのが、かつて2人とともに潜水艦「ゆうなみ」に乗艦していた、中村演じる潜水隊員・入江だ。「入江は、少ない登場シーンにおいて、観客に愛されて感情移入される人でなければならないんです。撮影期間が短い中、吉野監督の演出の狙いを的確にくみ取って芝居ができる俳優さんにお願いしたかった」という。「監督に安心していただくためにも連れてこなければと思っていたので(笑)、オファーを快諾してくださってよかったです」と松橋はほっとした様子を見せた。
中村は、吉野監督の作品に3回目の出演となる。主演の『水曜日が消えた』では7つの人格を見事に演じ分け、『ハケンアニメ!』では主人公が憧れる天才アニメ監督役で抜群の存在感を放っていた。松橋は「中村さんは監督の心のよりどころになっていたと思います」と語っているが、それもうなずける信頼度だろう。
吉野監督は、ほかの俳優たちからも現場での信頼は厚かったという。「この台詞はどんなトーンが相応しいか」「自分はこう演じたいと思っているが、どうだろうか」といった質問にも的確に返していたとか。「監督は穏やかな方なので、みなさん相談しやすかったんだと思います。『それならこういう風にしましょう』と素早くジャッジされているところを、何度もお見かけしました。色んなシーケンスやCGカットが複雑に切り替わる作品ですので、全体のビジョンがはっきりしていないと答えに窮するところだと思います。監督は、準備段階でコンテをきっちり書き上げてくださる方でした。スタッフ間でイメージが明確に共有されるので、撮影の進行もごくスムーズでした」と松橋は語る。
「完成品を観て監督への信頼はさらに高まったようでした」と、松橋は証言する。各潜水艦のパート、政治パートなど、撮影はバラバラに行われていたので全体像は見えなかった。CGと、音響や音楽が入り、つながった映像を見て「こんなふうになるとは思わなかった!」と皆驚いていたという。「特にユースケ(・サンタマリア/ソナーマン南波役)さんは『監督、天才じゃん!』と大興奮されてました」という。「そう簡単なことではありません。類まれな監督だと思います」と松橋は満足そう。監督の力量と作品の出来に、大きな自信を持っているということだ。(取材・文:早川あゆみ)