「ウルトラマンブレーザー」田口清隆監督のあふれるガヴァドン愛「絶対に自分が撮る」58年ぶり再登場の裏側
21日に放送された特撮ドラマ「ウルトラマンブレーザー」(テレビ東京系・毎週土曜午前9時~)の第15話「朝と夜の間に」では、二次元怪獣・ガヴァドンが、「ウルトラマン」第15話「恐怖の宇宙線」以来約58年ぶりにシリーズ再登場を果たした。同話と先週放送の第14話を手がけた本作のメイン監督・田口清隆がインタビューに応じ、令和で復活を果たしたガヴァドンへの愛、いまだ謎多きウルトラマンブレーザーの魅力を明かした。(以下、第15話までの内容に触れています)
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作品への確かな手応え
放送開始から数々の話題を呼び、好評を持って迎え入れられた「ウルトラマンブレーザー」。田口監督もまた反響を受け取っており、監督自身の周辺でも「業界視聴率が高い」と胸を張る。特にYouTubeで配信された第1話「ファースト・ウェイブ」の760万以上の再生回数(※本項執筆の9月時点)には、確かな手応えを感じたという。
田口監督は「内容としてはけっこう難しいことに挑戦していて、子供たちがちゃんとついて来てくれるかは一種の賭けだったし、放送中の今現在も気になっているところです」と前置きしつつ、「これまでも変化球をたくさん投げてきましたが、ニュージェネレーションウルトラマンシリーズも今年で11年目を迎え、もはや誰にでも楽しめる作品を、そのまま楽しんでもらうだけでは面白くないなと思ったんです。ニュースタンダードのつもりはなく、『こんな変化球もたまにはいいでしょ?』というフリをしつつ、実は王道だと思っています」と本作に隠された意図を明かす。
ウルトラマンブレーザーの解釈は自由
本作に登場するウルトラマンブレーザーは、シルバーを基調にDNAの二重螺旋構造を思わせる赤と青のラインをあしらったアシンメトリーな外観も特徴的である。この赤と青のラインはまるで後から付けられたように見えるが、なぜそういった処理がなされているのかは、設定されておらず、受け手が自由に想像を膨らませる余地を残している。
青く輝く頭部のクリスタルについても同様だ。「内側からエネルギーが放出しているイメージです。じゃあ、なぜこれが剥き出しかというと、これは僕の考えですが、例えばかつて強敵と戦った際に、負傷して放出したエネルギーが凝固したものではないか、とか」と田口監督は語るが、あくまで監督のひとつの見解に過ぎず、オフィシャルな設定ではない。設定を作り込まないことで、ウルトラマンブレーザーは劇中の登場人物のみならず、視聴者にとっても未知の存在であり続ける。
実際にウルトラマンブレーザーを演出する上でも、シリーズを通して約束事を設けず、自由な発想に基づき、数々の場面が生まれて行った。「アクションコーディネーターの寺井大介さんやウルトラマンブレーザーのスーツアクター・岩田栄慶くんと、この10年、色々なやりとりをしてきました。僕も含めて、それぞれに『やりたいけど、さすがにそこまではしてこなかった』と頭の片隅にあったもの、溜っていたものがあったと思うんです。今回は、それらを逆にギュッと詰め込んでやってもらったというか。ウルトラマンブレーザーは、いわば、そういった集合体のような存在です」
その際たるものが、舞いのようなポーズである。毎回、戦いの前もしくは戦いの後で見せるこのポーズは、ウルトラマンブレーザーのアイコンとして印象に残っている人も少なくない。これは事前に決められていたものではなく、第3話のオープン撮影のまさに本番直前、岩田と寺井の発案から生まれたものだという。「これを機に『面白いならどんどんやっちゃえ!』と、どんどんタガが外れて行った気がしています。体系化したい人にとっては、なかなか厄介な存在かもしれないけど(笑)、厄介だからこそやり甲斐がありました」
必殺技の「スパイラルバレード」もまたしかりで、投擲のフォームも決まっておらず、話数によってアンダースローやオーバースローがある他、さらには2本に折って使う(第5話)、体を大胆に捩じって投げる(第6話)など使い方は実に様々である。これには田口監督がメイン監督を務めた「ウルトラマンX」での経験が生かされた。ウルトラマンエックスが必殺技の「ザナディウム光線」を撃つシーンを、いかにカッコよく見せるか、各監督が競うように演出し、「ザナディウム大喜利」と評判になったのである。「『ウルトラマンブレーザー』の監督陣は、皆さん気心知れた戦友であり、きっと面白いことをやってくれるに違いないと、僕自身も毎回ブレーザーが何をするかを楽しみにしていました」とシリーズを担う監督陣への信頼のほどをうかがわせた。
ウルトラマンブレーザーのかつてないキャラクターは、映像のみならず、イベントにおいても予想外の反響を生み出している。ブレーザーは地球の言葉を話せない設定であり、どのような人格を持っているかも定かではない。田口監督は「お客さんに愛想を振り撒くキャラではありません。“塩対応ウルトラマン”も賭けだった」と語るが、「寺井さんから『今年のお客さんはまるで生き物を見に来ている感じだった』と聞いたんです。それこそ振り向いたり、手を挙げたり、一挙手一投足する度に『あ、動いたっ!』みたいな反響があるそうなんです」
こうした本作ならではの反響を、田口監督はハシビロコウに例える。「ハシビロコウは普段はじーっとして動かないけど、動いた瞬間、みんなバシバシ写真を撮ったりするでしょう。生き物としてのウルトラマンをみんなが見に来てくれて、喜んでもらえたのは、すごく嬉しく思います」
「生き物としてのウルトラマン」は造形面にも及んでいる。「毎年やっていてわかっていることなんですけど、撮影が進む度にスーツにしわが入って行くんです。造形を担当している円谷プロ造形部もデザイナーの後藤正行さんも長年一緒にやっているから、どこにしわが入るかはもちろん把握していて、逆にブレーザーは当初から、そういうしわが入っても当たり前になるようなデザイン&造型を目指しました。しわが入るのは普段なら嫌がられるところだけど、僕はしわもまたアリだと思っています。怪獣もそうですが、ぶよぶよしていたり、お腹がたるんでいるのが好きで、それがまた生物感に繋がる」と力説する。
ガヴァドンは絶対に撮る!58年ぶり再登場の裏側
田口監督は、しばしば初代ウルトラマン好きを公言しており、かねてより「ウルトラマン」に登場した2体の怪獣の新造を熱望していた。一体は「ウルトラマンZ」の第14話「四次元狂騒曲」で実現したブルトンで、残るもう一体がガヴァドン(A)であった。「『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』の頃に、ツブヤラストア限定のガヴァドン(A)のぬいぐるみが速攻で売り切れた話を聞いて、前々から人気があるはずだと言ってたじゃん! と思っていたんですよ(笑)。それこそ、抱き枕は絶対に出してほしい!」とガヴァドン愛を熱烈にアピール。
今回、新造形のガヴァドン(A)については「ちょうど『ウルトラマンブレーザー』の企画時に造形部の方から声をかけられて、スマホの写真を見せてもらったのですが、それが造形中のガヴァドン(A)だったんです」と田口監督のもとへ情報がもたらされた。造形部ではイベント展示やアトラクションでの使用を見越して、独自に往年の人気怪獣を新規に造形することがあるそうだ。これに興奮せずにはいられなかった田口監督は「縦軸回も真面目にやるから、ガヴァドンは絶対に自分が撮る!」と意気込み、シリーズ構成に目を通し、第15話でガヴァドン編を描くことを決めた。「絶対誰にも渡したくなかったし、『ウルトラマンブレーザー』でメイン監督をやっているタイミングで、ガヴァドン(A)の新造形が実現して本当に良かったです」
第15話は、いわばガヴァドンありきでスタートしたエピソード。そうなると次は脚本開発である。「ウルトラマンブレーザー」で田口監督が手がける回は、シリーズ構成&メインライターの小柳啓伍が担当しているが、本エピソードでは唯一例外として、「ウルトラマンギンガS」の第11話「ガンQの涙」でコンビを組み、「ウルトラマンオーブ」をメイン監督&メインライターとして成功に導いた盟友・中野貴雄が招聘された。
「当初、自分が考えたプロットはすごく暗い話で、ガヴァドンを描いた少年は事故に遭いもうこの世にはいなくて、その親友の男の子が絶対にガヴァドンを消させないと決意し、それに対してSKaRDはどう出るか? といった内容でした。それを子供たちとガヴァドンの交流を描いた心温まる物語にしたのは中野さんで、こちらのほうが断然面白いと思いました」
また、本エピソードの要となる子供たちの演出にも気を遣った。「ジュン役の岩川晴くんをはじめ、いい子役がたくさん集まってくれたんですけど、さすがに大人の俳優さんと同じように接するわけにはいかないですから(笑)」と語り、とにかく現場を盛り上げて、楽しそうな雰囲気を作るよう心掛けた。そうした努力は、完成した映像を通じて多くの視聴者に届いたことだろう。
さらに「このアイデアが実に面白いと思った」と語るのが、中野によって付け加えられたガヴァドンが段階を経て大きくなる描写で、これは初代にはなかったものである。しかしながら、昨今、新規に造形物を用意するハードルは高い。
「いわゆる2メートルサイズは、新造のキャラクタースーツを本編で使うことでクリアできるとして、困ったのはスケッチブックに描いた最初に登場する小サイズでした」。そこで思い付いたのが、前述したぬいぐるみだ。これを造形部に持ち込み、表面をキャラクタースーツと同様にラテックス処理することで撮影に用いられた。劇中、ヒルマ家のテレビで流れていたガヴァドンの目撃映像は、この改造したぬいぐるみを操演部が引っ張って走らせたもので、現場は大爆笑だったという。
念願叶ってガヴァドン編を撮り終えた田口監督は「思い入れがある分、『ああしたい』『こうしたい』がたくさんあるし、かといって撮影日数も限られているから、思っていた以上に大変でした」と語る一方、「第14話のシリアスな場面を撮り終えて、同じ日に第15話の子供たちとガヴァドンを撮る日もありましたが、その方がこっちも切り替えができるんですよ」と満足気な顔を見せていた。(取材・文:トヨタトモヒサ)