斬新すぎるアイデア!NHK「あれからどうした」5月の三人四脚の挑戦
香川照之主演の長編映画『宮松と山下』が海外でも高い評価を得て注目を浴びる、関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦の3人からなる監督集団「5月(ごがつ)」。本日(26日)より3夜連続で放送される「あれからどうした」(NHK総合・毎夜11:00~11:44)で、人間の表と裏を暴く斬新なドラマを作り出した。観る者に驚くべき映像体験を与える「5月」の面々が、ドラマの裏側を語った。
監督集団「5月」は、2012年に東京藝術大学大学院 佐藤雅彦研究室から生まれた「c-project」という活動を前身としている。当時、同研究室に所属していた関・平瀬を含む4名の学生と、教授である佐藤が、「カンヌ国際映画祭を目指そう」という目標を掲げて活動を開始。初の短編映画『八芳園』(2014)、黒木華主演の短編映画『どちらを』(2017)が、カンヌ国際映画祭短編コンペティション部門に出品。2020年、佐藤・関・平瀬の3人が監督集団「5月」を発足した。翌年、市川実日子が主演した短編映画『散髪』がフランスのクレルモン・フェラン短編映画祭に正式招待され、2022年には香川照之主演の長編映画『宮松と山下』が、スペインのサン・セバスティアン国際映画祭 New Director 部門に正式招待。「手法がテーマを担う」という独自のアプローチによって、斬新な映画・ドラマを生み出し続けている。
本日放送される新ドラマ「あれからどうした」は、第1話「虚実の社員食堂」、第2話「久保家の隠しごと」、第3話「制服を脱いだ警察官」という3話のオムニバス。職場の同僚や家族の面々が、それぞれ居酒屋や食卓で共に過ごしたのち、一人になってからのそれぞれの出来事を、後に「あれからどうした?」と聞き合うところから物語が始まる。話が進むにつれ、何食わぬ顔で嘘をつく者、部分的に嘘をつく者、正直に話す者までさまざまだが、登場人物の話すセリフ(音)と、実際の行動(映像)が食い違っているのがわかってくる。
企画が誕生した経緯について、佐藤は「常に我々は新しい映像手法を模索しています。本来映画作りというのは、例えば“貧困を描きたい”“差別を取り上げたい”といったテーマありきだと思うのですが、我々は“手法”こそ最も大切にする要素なんです」と前提を述べる。
今回の“手法”のアイデアは、音と映像の乖離。佐藤は「耳からの情報と、目からの情報が食い違っているということ。それが45分間続くというのは、なかなかない映像体験だと思うんです」とコンセプトを明かす。さらに「しかもそこには、なぜ人は嘘を必要とするのだろう……という人間の本質も垣間見える」と話し、手法から人間の心理に迫るという従来とは異なるアプローチでこのドラマが作られたことを強調する。
「5月」は、脚本・編集・演出をすべて3人で行う。関は「誰かが脚本・演出・編集というふうに役割分担しているわけではないんです」と言い、「3話あるので、それぞれ1人ずつ担当したのかと思われるかもしれませんが、例えば、脚本もGoogleドキュメントを共有して、3人が同時に書いたり、直したりしています」と制作過程を明かす。
現場での演出については、関が俳優へのディレクションをメインで担当しているが、佐藤も平瀬もモニターでチェックし、その都度思ったことは伝えているという。編集も3人がひとつの画面を見ながら、意見を出し合い、その場で編集作業を行っていく。
3人の共同作業において、意見が食い違うことはないのか。佐藤は「これこそ長年の蓄積というか、長らく佐藤研でさまざまな意見を出し合ってきたメンバーなので、下地があるんです」と語ると「カンヌ映画祭に出品した『八芳園』という作品でも、企画が決まるまでに100~200ぐらいの案が出ました。でも、最終的に決まった企画は、アイデアが出た瞬間に、皆が“それがいい”と一致した。良いものが出たとき、それを一瞬で良いと思える部分が共通している」と同一の感覚があることを強調する。
証券会社、家族、警察官という3つの物語の開発には、数時間にもおよぶ脚本会議が何十回も行われたが、手法ありきのドラマであるため、時には停滞してしまうこともざらだったという。そういう時には佐藤が考案した「3分企画」という手法(3分間で瞬発的にアイデアを考え、それぞれの案をみなで議論し、深めていく)でリフレッシュすることも。平瀬は「短い時間で瞬発的に考えるので、アイデアは未完成で当たり前。格好悪い自分をさらけ出すことを恐れず、各々の発想を共有できる自由な時間」と目を輝かせる。
物語の設定は、当初はすべて職業モノになる予定だったところ、変更になった経緯がある。平瀬は「登場人物がどんな職業がいいのか、議論しました。証券会社と警察官は比較的スムーズに決まり、最後のひとつを決めるために様々なアイデアを出しました。例えば動物園の飼育係やビールの売り子、小学校の先生など。しかし、撮影の規模が大きくなると制作費に収まらない事が分かり、悩んでいた時に、家族の話にしようというアイデアが出ました」と説明する。
脚本に落とし込む際、実際の職業人に取材することも欠かせなかった。平瀬は「証券会社や警察官については、その職業に従事している方に、普段どのような言葉遣いをするのか、職業に従事するうえでどのような問題が起きるのか、ということを入念に取材しています。例えば証券マンの『寄り付き』(証券取引所が開いたことを意味する専門用語)もそうですし、警察官の“勤務時間外でトラブルに遭遇したら、止めに入るのか?”といったことも、取材で得た知識は積極的に脚本に生かしています」と語っていた。
演出面においては基本的に脚本通りに進んでいったそうだが、その都度「自由度」も俳優に与えられていたという。なかでも第1話「虚実の社員食堂」に出演していた飯豊まりえの「作品のコンセプトを理解しつつのアドリブ」の軽やかさには脱帽したと一同、感心していた。
ちなみに、チーム名の「5月(ごがつ)」に関しては、1999年に空前のヒットを記録した楽曲「だんご3兄弟」の作詞や、日本電気(NEC)のキャンペーンCM「バザールでござーる」のキャッチコピーなどを手掛けてきた佐藤が「特に理由はないんです。敢えていうなら、僕は濁音に注目したコピーを多く作ってきたんですけど、“ご”と“が”が入っているから語感が強いのかも」と話していた。(取材・文:磯部正和)
12月26日夜11:00-11:44 第1話 「虚実の社員食堂」
12月27日夜11:00-11:44 第2話 「久保家の隠しごと」
12月28日夜11:00-11:44 第3話 「制服を脱いだ警察官」