吉高由里子「姫も大変」 平安時代にカルチャーギャップの連続
1月7日からスタートする大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で紫式部役として主演を務める吉高由里子。京都・平安神宮でクランクインしてから約半年の撮影を終えた段階で、役づくりや1,000年も前の平安時代で受けたカルチャーギャップ、大河ドラマならではの驚きの体験を振り返った。
大河ドラマ第63作となる本作は、平安中期の貴族社会を舞台に、のちに世界最古の女性文学といわれる「源氏物語」を生み出した紫式部の生涯を描く。大河ドラマとしては柴咲コウ主演の「おんな城主 直虎」(2017)以来となる、女性キャラクターを主人公にした物語となる。脚本は、大河ドラマ「功名が辻」(2006)や社会現象を巻き起こしたドラマ「セカンドバージン」(2010)などを手掛け、2020年放送の「知らなくていいコト」でも吉高と組んだ大石静が担当。演出に「秀吉」(1996)、「平清盛」(2012)などの大河ドラマに参加した中島由貴、制作統括に連続テレビ小説「ごちそうさん」(2013)や「スカーレット」(2019)などの内田ゆきと女性スタッフが集結した。
大河ドラマへの出演は2008年の「篤姫」(島津忠教の娘・於哲役)以来16年ぶりとなる吉高は、演じる紫式部の印象を「摩訶不思議な存在」だと話す。
「これだけ世界中の人に知られているのに、誰も彼女の何も知らないっていう摩訶不思議な存在だなと。当時の女性の記録が残っていないそうで、藤原道長の日記など残っている記録から推測する、想像するというか。ずるいですよね(笑)。残っていないからこそ想像してしまうので。亡くなって1,000年もたった今もなお、多くの人たちが紫式部はどんな人だったんだろうと想像を巡らせる。そういう意味で罪な女性だなとも思います(笑)。あと、よく周りから“光源氏役は誰なの?”って聞かれるんですけど、違うのと。このドラマは、「源氏物語」を生んだ女性の一生を描く話なので、そこは強めにお伝えしたいと思います(笑)」
長期に及ぶ撮影は、2014年の連続テレビ小説「花子とアン」で経験済みだが、2023年5月に平安神宮でクランクインしてから半年にわたる撮影を振り返り、「民放のドラマであれば2本目に入っている頃だと思うと、一つの作品にどれだけ長い期間をかけて臨んでいるのか、改めて実感する期間でした。スタッフ、キャストの人数も多いですし、こんなに長い期間かけて撮影する機会はないですからね。それはだいぶ違うなって。朝ドラの時も、みんな本当に仲良くて家族みたいになって、撮影が終わってしまうのが寂しすぎたんですけど、今回はもうおかしくなってしまうんじゃないかなと。あまり考えないようにしています(笑)。そのぐらい密度の濃い時間を過ごさせていただいています」
「人生でこんなに習い事をしたことはない」と話す吉高は、役づくりのために書道をはじめ、乗馬、琵琶と課題が山積み。「琵琶は初めてですし、乗馬も本格的にご指導いただくのは初めて。そこに所作も入るのでお嬢様になった気分です(笑)」と楽しそうだが、特に苦心したというのが書道で左利きから右利きに変えたこと。
「利き手と逆の手で小さいものを持つと手が震えますよね? そういう感覚と思っていただけたら。あとは筆と紙の距離感がつかみづらかったりします。そのシーンを撮影する前に30分ぐらい時間をいただいて練習してから本番に入るといった感じです。文字が主役ともいえるので、私生活でも練習を続けていますし、撮影も丁寧に行っています。右利きにはかなり慣れてきて、これまで左で書いてきた文字が私の知らない文字に思えてくるぐらい。上達していく楽しみがあります。文字に関しては、紫式部の文字は残っていないので、書道の先生に“まひろの癖はここに出そう”といったふうに作っていただいています」
本作では色鮮やかな衣装も見どころだが、吉高自身「着物は毎日着るたびになじんでいく革靴のようなところがあって、“着物を育てていく”日々が楽しい」とモチベーションになっているよう。ただしかつらに関しては、「とにかく重いです。ずっと後ろから髪の毛を固定されているような感覚。なので首と肩が凝ります。ロケなどでコンビニに行ったりすると店員さんがびっくりされるので、なかなかふらっとは行きづらいです(笑)」と苦労も。ちなみに、ヘアメイクにかける時間は「着物は10分、かつらは40分、メイクは最短7分ぐらい」だと言い、「かつらは土台を作ったり、その後の髪の毛の処理などに時間がかかるんですけど、意外にもメイクが“これでテレビに出ていいんだろうか”と思うぐらい早くて、驚きました(笑)」と裏側を明かした。
大河ドラマならではの大がかりなセットに魅了されたという吉高が最も驚いたのが、「セットに馬がいたこと」。「初めて見ました。馬を連れてきちゃうんだ、大河って大胆なのね! と。矢部さん(矢部太郎演じる従者の乙丸)が私(まひろ)を追いかけて走るシーンがあるんですけど、矢部さんが転んでしまったんです。馬は臆病なので大きな音がすると驚いて暴れちゃうんですけど、そのお馬さんは全く動じなくてプロフェッショナルだなあと……。あとはセットの中に池ができていたことにも驚きました」と生き生きとした表情で振り返る。
約半年にわたって、まひろとして平安時代を過ごした吉高は、多くのカルチャーギャップも体験した。「家に窓もドアもなくて隙間風だらけ。御簾1枚のプライバシーの環境は新鮮でしたね。あとは従者の乙丸がずーっと一緒にいること。好き勝手にどこにも行けるわけではないという、現在の常識と比べるとよくわからないルールもあって姫も大変だったんだなあと。でも庶民は比較的自由だったので、不自由な富裕層とどちらが幸せなんだろうと想像したりもしました。あと、占いや呪詛を当たり前に信じていた時代だったこと。この方角は運気が悪いからと遠回りして3日間かけて目的地に行くとか、今ではあまり考えられないと思うので」
驚きの連続の一方で、吉高は「現代よりも五感に敏感だった時代」という気付きもあったと思いを巡らせる。「見るもの、聞こえるもの、匂い。人の心を揺さぶるものが風景の中にいっぱいあるんだなと。それが歌になって、耳で楽しんで……と連鎖していく。今だったら見落としてしまうような小さな幸せをうまく活かして、それが作品として残ったりする。だから、映像が本当に楽しみなんですよね。着物は男性陣もすごくきれいなので、楽しんでいただけたらと思っています」と呼び掛けていた。(編集部・石井百合子)