『ハリー・ポッター』シリーズのゲイリー・オールドマンの現在は?
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』が19日、日本テレビ系「金曜ロードショー」(よる9時~)で放送される。『ハリー・ポッター』シリーズの人気キャラクターであり、ハリーの名付け親シリウス・ブラックを演じたゲイリー・オールドマンは今、何をしているのか。これまでのキャリアと現在に迫る。
1958年3月21日生まれのゲイリーは、現在65歳。今や『ハリー・ポッター』シリーズと『ダークナイト』シリーズで知られる人気スターで、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した名優だ。しかし、初期出演作では少々ユニークな役柄ばかり演じていた。
演技を学んだのは、ロンドンのローズ・ブラッフォード・カレッジ。その前に15歳で英国の名門演技学校、RADA(王立演劇アカデミー)のオーディションを受けたが、演技ではなく別のことをした方がいいと言われて落選。ゲイリーはこれについて2018年の米The Hollywood Reporterのインタビューで、自分のオーディションの出来が良くなかったんだろうが、アルバート・フィニーやアレック・ギネスら尊敬する俳優たちの出身校だから、本当に落ち込んだと語っている。
1979年から数々の舞台に出演し、1982年にコリン・クレッグ監督の映画『リメンバランス(原題)/Remenbrance』で映画デビュー。数本のテレビドラマ出演を経て、ゲイリーが注目を集めたのは、アレックス・コックス監督が実話を元に描いた映画『シド・アンド・ナンシー』(1986)。元セックス・ピストルズのベーシストでドラッグ依存症、恋人ナンシーを殺して逮捕されたシド・ヴィシャスという過激な役で主演した。その後も、スティーヴン・フリアーズ監督『プリック・アップ』(1987)では、同性愛の恋人に殺された実在の劇作家ジョー・オートン役、ニコラス・ローグ監督『トラック29』(1988)では、結婚倦怠期の女性の家に転がり込むヒッチハイクの青年役と、個性派監督とのタッグが続いた。
次第に人気監督の作品への出演が増えるが、役柄はいつも個性的。オリバー・ストーン監督の『JFK』(1991)ではケネディ大統領の暗殺犯オズワルド役、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』(1992)ではドラキュラ役、リュック・ベッソン監督の『レオン』(1994)ではすぐにキレるエキセントリックな汚職刑事役、リドリー・スコット監督『ハンニバル』(2001)では自分の顔をナイフで剥ぎ取る大富豪役など、ユニークすぎる役柄が多かった。
この間に監督業にも進出。自ら脚本も書いた初監督作『ニル・バイ・マウス』(1997)は、ゲイリー自身の自伝的作品で、ロンドンのサウスイースト地区の貧困と暴力の中で生きる、ある家族を描くもの。映画は高く評価され、カンヌ国際映画祭でパルムドールにノミネート。英国アカデミー賞BAFTAでは、オリジナル脚本賞、英国作品賞を受賞した。
そんなゲイリーが変化したのは、2000年代。大ヒットシリーズの第3作『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)で、ハリーの父親の親友シリウス・ブラック役を演じ、シリーズ最終作まで続投。また、クリストファー・ノーラン監督の大ヒット作『バットマン・ビギンズ』(2005)で、バットマンの盟友ゴードン警部補役にふんし、三部作全作に出演。映画ファンだけではなく、誰もが知る人気スターになった。
彼がこの2シリーズへ出演した理由ついては、昨年12月にThe Drew Barrymore Show で発言。当時、42歳の頃の彼は離婚したばかりで、まだ幼い2人の息子を育てるため、ブダペストやプラハなどで撮影する多数の作品を断らなくてはならなかったそう。しかし、この2作のおかげて、少ない仕事量で収入を得ることができて、子供たちと一緒に家にいることができたことを感謝していると語っている。この息子たちは、3番目の妻・元モデルで写真家のドーニャ・フィオレンティーノとの間の息子、ガリバーとチャーリー。
2001年に離婚しているが、息子たちとゲイリーの関係は良好で、離婚後かなりの時間を経た2018年に、母ドーニャがゲイリーの家庭内暴力を告発した時も、息子二人は父ゲイリーを擁護。20歳になったガリバーが、「両親の離婚後ずっと、自分たちが母親ではなく父親と暮らしてきたことが、父親の無実を証明している」という手紙を書き、それが裁判で読み上げられたのも話題を集めた。2人は成長し、現在25歳のガリバーは写真家になり、23歳のチャーリーはモデルとして活動している。
ここで振り返っておくと、ゲイリーの結婚歴は華やか。現在の妻、アートキュレーターのジゼル・シュミットとの2017年の結婚は5回目。その前に、1987~1990年は『ファントム・スレッド』の女優レスリー・マンヴィルと結婚。2人の間に1988年生まれた息子アルフィは現在34歳で、映画『裏切りのサーカス』などのカメラアシスタントをしていた。1990~1992年は『キル・ビル』のユマ・サーマン、1997~2001年は前述のドーニャ、2008~2015年はジャズシンガーのアレクサンドラ・エデンボローと結婚していた。
一方、知名度のアップと並行して、演技力への評価も高まり、アカデミー賞主演男優賞のノミネートは3回。トーマス・アルフレッドソンがジョン・ル・カレの名作スパイ小説を映画化した『裏切りのサーカス』(2011)年でノミネートされ、ジョー・ライト監督の実話映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)で受賞。そしてデヴィッド・フィンチャー監督が実在の脚本家を描いた『Mank/マンク』(2020)でもノミネートされている。
こうして人気も評価もトップクラスになったゲイリーだが、2022年には気になる発言があった。The Times 紙のロンドン版で、彼が主演する現在進行中のドラマ「窓際のスパイ」が、彼の最後の作品になってもいいと発言したのだ。「僕は来年65歳で、70歳はもうすぐだ。80歳になっても演技をしていたいとは思わない。『窓際のスパイ』で演じているジャクソン・ラムを最後に引退できれば、とても幸せで光栄で恵まれたことだと思う」。とはいえ「窓際のスパイ」は2023年にシーズン3が配信され、この1月にはシーズン5まで製作されることが発表された。また、ゲイリーは『グランドフィナーレ』のパオロ・ソレンディーノ監督の新作映画『パルテノぺ(原題)/Parthenope』にも出演し、こちらは現在ポストプロダクション中。まだまだ引退は先になりそうだ。(平沢薫)