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「性的同意」とはどういうことなのか?知っておきたい「同意の基本」を考える

ユネスコ編、訳=浅井春夫、艮香織、田代美江、福田和子、渡辺大輔『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(明石書店、2020年)
ユネスコ編、訳=浅井春夫、艮香織、田代美江、福田和子、渡辺大輔『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(明石書店、2020年)

 最近ワイドショーをはじめとするさまざまなメディアで、エンターテインメント業界における「同意」に関する話題が頻繁に取り上げられている。日本でも性的なシーンにおける撮影で少しずつ導入されてきているインティマシー・コーディネーターは、俳優の人権を尊重するために、この「同意」が重要であることを示している。また、監督と俳優、プロデューサーと俳優、俳優同士の先輩後輩、圧倒的な力関係においての「性的な同意」についても、ここ最近さまざまな問題が持ち上がっている。いったい「同意」とは、どういうことなのか。改めて学び直す必要があるのではないだろうか。コンセントエデュケーターとして老若男女問わず、「同意」を伝えてきた筆者が解説する。(森田真帆)

 ※コンセントエデュケーターとは、性的同意に関する教育を行う専門家。性的同意を得るためのコミュニケーション方法を教育を通じて伝える。また、インティマシー・コーディネーターとは映画、テレビ、劇場などのエンターテインメント業界で性的な内容や親密なシーンの撮影が行われる際に俳優の人権と安全、精神的・身体的な安心・快適さ(ウェルビーイング)を守る専門家。(編集部追記)

 性教育には国際的な到達点の一つとして、包括的に性を学ぶ、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(※1)がある。そのコンセプトの一つ<暴力と安全確保>には「同意、プライバシー、からだの保全」の項目がある。だが、残念ながら日本の性教育は、まだ追いついておらず、それどころかメディアに出ている人間すらその知識がないというケースが多い。

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 「同意」に関する議論は長年にわたって行われてきたが、多くの性教育で採用されている「同意」の基本は、2016年にアメリカの性教育団体「プランド・ペアレントフッド」がまとめた「F.R.I.E.S.」という5文字の頭文字でまとめられており、これが現在のコンセント教育で基本となっている。この基本的な「F.R.I.E.S.」のルールを一つ一つ解説していく。

 まずFは「Freely Given(自由な選択が与えられている)」で、同意は「はい」も「いいえ」も自由に選択できる環境にあることが大切だ。例えば、圧力(プレッシャー)を感じる環境だったり、強制的に言わせられたり、酩酊状態で意思表示ができなかったり、という環境ではなく、本人が冷静に判断できる状況で自由に選択できるかが重要になってくる。

 Rは「Reversible(可逆性)」のR、これはリバーシブルという言葉の通り、「はい」をいつでも「いいえ」にできる、つまり同意は常に変更可能であることを意味する。たとえ家に上がってベッドの中に入った後でも、キスの真っ最中であっても「やっぱり嫌だ」と言う権利はあり、言われた人間はそれを聞き入れなければならないということだ。「いや」と言われた時のリアクションとして「なんで?」と問い詰めたり、「いいじゃん、ここまできたんだし」「ふざけんなよ」と怒り出すのではなく、言うべき言葉は「伝えてくれてありがとう」の一言。相手からすれば「いや」という言葉を伝えることがいかに怖いか、不安か、そんな中で自分を信じて伝えてもらえたことに感謝をすることで信頼関係は深まっていく。

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 そしてIは「Informed(情報提供)」のI、これは情報をきちんと伝えておくということ。例えば「避妊するから」と言って、実際は避妊しない場合、虚偽の情報を伝えていたことになる。例えば、同意に基づいて力関係を楽しむBDSM(人間の嗜虐的な分野での性的嗜好)などの世界では、事前に情報を渡してきちんと相手の同意を得ることは極めて大切な行為だ。「首を絞める」「叩く」などもきちんとした情報を相手に与えないと暴力行為になるため、同意を学ばないと大変なことになってしまう。

 Eは「Enthusiastic(熱心な)」と言われていたが、最近では「EQUALITY(平等)」のEとして言われていることも多い。対等な関係であることがとても重要で、映画界であれば監督やプロデューサーなど力を持つ人間、有名人とファンなど明らかに立場が違う人間、彼氏と彼女の間でも彼女が「これを断ったら振られてしまうかもしれない」という状況で自分に無理してまで同意するのであれば、それは対等な関係ではない。つい最近、映画監督が逮捕される事件があったが、アメリカには「Quid pro Quo(この対価に対するこれ)」というラテン語をもとにした法律用語があり、セクハラ裁判などで使われる場合は権力を持つ立場にある人間が、利益と引き換えに性的な行為を求めることを指す。このような取引が行われないために、監督もプロデューサーも必ず正式なキャスティングプロセスを踏むなど、力を持つ人間は自分の影響力をちゃんと自覚することが大切だ。

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 Sは「Specific(特定)」。ひとつのことに「はい」と言っても、その他のすべてに「はい」と言ったわけではないということ。例えば、夫婦間での性行為一つとっても、毎回きちんと確認をとらないといけない。

 こういう話を私のクラスですると一部の人から「いちいち確認するのは野暮!」という声が上がる。そんな気持ちもわかるが、同意の取り方は、はっきりとした言葉を使わなくてもできる「ノンバーバルコミュニケーション=非言語コミュニケーション」を使うのもいい。きちんと相手の様子を観察することが大切だ。嫌そうな顔をしていないか、顔を背けていないか、俯いたり黙り込んだり、NOのサインは実はたくさん出されていたりする。そんなことをおかまいなしに物事を進めるのではなく、そんなサインを見たらすぐに行為をやめて、相手の状況を確認する。2人の間に思いやりや優しさがきちんとあれば、これらのコミュニケーションは実はそこまで難しくないはず。一方的な自分の欲望だけをぶつけるのではなく、相手の様子をきちんと確認して、声かけをしていって欲しい。

 また、同時に「人が外部からの影響や強制を受けることなく、自分の身体に起こることを管理・決定する権利」と呼ばれるボディ・オートノミー(体の自己決定権)についてもきちんと理解してもらいたい。自分の体も心も、自分が決める。どこを触られるのがいやで、どんなふうに触れられるのが嫌なのか。自分の心と体と対話しながら考える時間を一度とってもらいたい。男性も女性もそんな境界線はきっとある、知らない人に急に肩を組まれたくない、腕をぎゅっと掴まれるのが苦手、耳を触れられたくない、など自分の境界線を普段から決めて、伝える練習をしていけば、少しずつ、自分の心と体の状態に敏感になれるはずだ。それに「NO」と言われた時のリアクションの練習だって大切だ。

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 以前、とある番組を見ていると「女性が2人きりで男性の部屋に入ったら、それは性的同意があると伝えているのと同じ」と意見した人がいた。この記事で伝えた通り、同意はいつでも翻すことができる。たとえ部屋の中に入ったとしても、どんなに過激な服を着ていったとしても、「はい」から「いいえ」は翻せる。それでも日本には、「相手の家にいく」「ホテルに行く」ことが同意していることという思い込みが強い。同意している場面を録音したりするのが正義かと言う人もいる。でももし圧力をかけられていたら? 「いや」と言えない空気の中、仕方なくだったらどうだろう。「いやだ」という言葉は、自分が思っているよりもずっと口に出すのが難しい時があるはずだ。

  「同意」の話をすると、あからさまに嫌な顔をする人が多い。「同意」だけではなく、「インティマシー・コーディネーター」のポジションすら、映画業界では苦虫を噛み潰したような、まるで敵のような考え方をしている人は少なくない。わたしはハリウッドで活躍するコンセントエデュケーターが主催するクラスでこの概念を学んだが、学べば学ぶほど、視野は開かれていった。同時に、この教育プログラムを子供のみならず、大人にも広げていきたいと心から思い、エデュケーションプログラムとして伝えている。「同意」は、誰かをコントロールするためのものでもないし、誰かを断罪するための罰でもない。自分自身を知るための方法でもあり、相手との信頼関係を築いていける、最高のコミュニケーション手段で人の心と心をつなげていく考え方であることを多くの人に知ってほしい。相手の言葉を「聞く」、視線や態度を無意識の行動を「深く観察する」「同意を得る」ことの大切さ、自分が「いや」と言ったとき、「言いづらいことを言ってくれてありがとう」と返してくれたパートナーに人はどれだけ安心を得られるのか。「性的同意」だけではなく、現在子供から大人、さまざまな人の「同意」のクラスを受けもっているが、「同意」はめんどくさいものではなく、人間同士のコミュニケーションを円滑にするとっても素敵なものであることを多くの人に知ってもらいたい。まずは、何か行動する前に自分自身の心と体に語りかける「同意」をとる練習から始めてみてほしい。(森田真帆)

(※1)ユネスコ編、訳=浅井春夫、艮香織、田代美江、福田和子、渡辺大輔『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(明石書店、2020年)

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