役所広司、米アカデミー賞目前に緊張 カンヌから始まった旅の終わりに寂しさも
第96回アカデミー賞
第96回米アカデミー賞授賞式の前日となるアメリカ時間の3月9日、米ロサンゼルス市内の日本国総領事公邸で行われ、国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)受賞に期待がかかる『PERFECT DAYS』チームの記者会見が開かれた。参加したのは、ヴィム・ヴェンダース監督、主演の役所広司、柄本時生、麻生祐未の4名。それぞれが、本番直前の思いや授賞式での楽しみなどを語った。
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『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』などで、これまで3度アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされているヴェンダース監督。今回、日本映画の監督としてオスカーに参加することについて、「日本の監督の中で、私が最年長だと思います。今でもドイツのパスポートを持っていますが、私の心の中では、なぜかいつも日本文化や日本映画に近しいものを感じています。私の先生は小津安二郎です。私は、日本のアカデミー賞をもらってとても名誉に思っていますし、非常に嬉しく喜んでいます。もし明日何かが起きたとしたら、それはごほうびみたいなもの(ケーキのデコレーションのようなもの)と考えています」とコメント。
初めてのアカデミー賞となる役所は、本番ではどんなことを楽しみたいかと聞かれ、「本当に楽しめるかどうかわからないんですけど、おそらく監督の後ろで、にこにこ笑っているだけだと思います。授賞式をテレビで見ていると、いろんなパフォーマンスがあったり、有名な歌手の人が歌ったりするので、それは楽しみですね。また、受賞者の人たちが、世界の情勢に合わせていろんなスピーチをされるので、それも楽しみではあるんですけど、テレビで見ているのと違って、字幕スーパーがないので、その辺楽しめるかどうかわからないですね。でも今までスクリーンで観てきた人たちを見るのは楽しみです」と語った。
また、ヴェンダース監督は、昨年の第76回カンヌ国際映画祭から1年近い旅を振り返って「(役所が演じた)平山との旅は人生を変える旅でした。 撮影だけでなく、数か月間編集で毎日彼の姿を見て、役所さんが平山になりきる姿を見てきました。そして今でも間違えて、(役所を)平山と呼んでしまうくらいです。平山は実際に生きている人間のように作られていき、実際の人物のように私の人生に大きな影響を与えました。 そして、姪っ子とのシーンで、『今度は今度。今は今』という言葉を聞きました。それは今の人生の中でも毎日心に残っている言葉です」と語った。
いよいよ本番を明日に控えた心境については、「アメリカ人はよく賞のことをレースと呼んでいます。 実際、私たちは2か月間レースに参加していました。 しかし、私たちが一緒にいるときはいつでも、レースをしているようには感じませんでした。私たちは映画にとって良い仕事をしていると感じましたが、アメリカ人は常にレースについて言及します。 それで明日は、うちの馬がそのレースで競争力があるかどうかを確認することになります。我々は有力馬ではないし、本命でもないし、他の馬にもっと多くの賭けが集まっています。(でも)我々は非常に素晴らしい馬に乗っていると思うし、自分たちの馬が大好きです。 レースに勝てなかったら、この馬がもっと好きになるような気がします」と、自分の作品を誇りに感じていることを語った。
そして、ヴェンダース監督は、受賞の有無に関係なく、本作がすでに予想を遥かに上回る成功を収めていることを強調した。「みなさんがご存知のように、私たちはアクション映画を作ったわけではありませんし、平山はスーパーヒーローではありません。 彼は真の人生のヒーローです。真の人生のヒーローを描いた映画は、ブロックバスター作品ではありません。ですから、私たちの映画が現在、他の国で受け入れられており、すでに大成功を収め、多くの観客が見てくれたという事実は、まったく予期せぬことです。平山が人々の心に感動を与えたことに本当に圧倒されています。 つまり、この映画は私の最も途方もない夢をすべて超えたということです。世界中からメッセージがたくさん届きます。人々はこの映画が自分たちに与えた影響についてたくさん話しているので、これ以上嬉しいことはありません」
また、役所は「明日、どんなところに連れて行ってもらえるのか、ちょっと想像つかないんですけど、今まで見ていたアカデミー賞授賞式、レッドカーペットから授賞式の映像を見ていて、あそこに自分が行くっていうのは、なかなか想像しにくくて、ちょっと緊張していますね。先ほど、カンヌの映画祭から始まった監督との長い旅の話がありましたが、一応明日で旅の最後かなと思うと、ちょっと寂しいですね」と語った。
役所と共演した柄本は「会場の方に行くことは僕にはかなわないんですけど、もうとにかく、監督と役所さんがどこまで行くのかを、見届けさせていただけたらなと。こんな場所に来ることは本当にないので、思う存分楽しんで、記憶に残したいと思っています」とコメント。麻生も「本当に素晴らしい映画だと思うので、また人とのつながりだったり、旅をするという文化だったり、それは世界的に普遍的に受け入れられるものだと思っているんですが、もっともっとたくさんの人に観ていただきたい気持ちもあるので、是非素晴らしい瞬間が起こるといいなと思っています」と期待を寄せた。
今年の国際長編映画賞は、『PERFECT DAYS』以外に、アウシュビッツの悲劇を描いて昨年のカンヌでグランプリを受賞し、今年のオスカーでは作品賞にもノミネートされている『関心領域』、アンデスの雪山で起きた実際の飛行機事故をもとにした人間ドラマ『雪山の絆』、アフリカからイタリアを目指して命懸けの旅する少年を描く『イオ・カピターノ(原題) / Io Capitano』、中学校で起きた小さな事件が学校全体の秩序を崩壊させていくサスペンススリラー『ありふれた教室』など秀作揃いだ。たった15日間で撮影された低予算の『PERFECT DAYS』が、オスカーのノミネーションに入っただけで、ヴェンダース監督が言うようにすでに大成功なのは確かだが、ここまで来たら、『ドライブ・マイ・カー』以来、日本映画として2年ぶりの、国際長編映画賞受賞を期待したいものだ。(取材・文:細谷佳史/吉川優子:Yoshifumi Hosoya / Yuko Yoshikawa)