生きたまま焼かれた21歳の女性…実際に起きた事件を基にした『12日の殺人』は「リアル」と元刑事たちが評価
第48回セザール賞で最多となる6部門受賞(作品賞、監督賞、助演男優賞、有望若手男優賞、脚色賞、音響賞)を果たしたフランス映画『12日の殺人』(公開中)は「リアル」だと、日本の元刑事たちが評価している。
物語は、フランス南東の地方都市グルノーブルで10月12日の夜、帰宅途中の21歳の女子大生クララが何者かに火をつけられ、翌朝、焼死体という無惨な姿で発見されるところから始まる。地元警察ではヨアン(バスティアン・ブイヨン)を班長とする捜査班が結成され、容疑者は次々に浮かび上がるも決め手がなく、事件はいつしか迷宮入りとなってしまう。事件が頭から離れなくなってしまったヨアンは、この闇から抜け出すことはできるのだろうか? 『悪なき殺人』のドミニク・モル監督作だ。
本作は、2013年にフランスで起きた「モード・マレシャル殺人事件」について、ポーリーヌ・ゲナが1年にわたってベルサイユ司法警察を取材して書き上げたノンフィクション本を基にしている。「モード・マレシャル殺人事件」とは、当時21歳の女性、モード・マレシャルがガソリンをかけられ、生きたまま焼かれた残虐な事件だ。モードは近所のパーティー会場を後にしてから1時間後、焼けた遺体となって道路脇で発見された。
なお、実際の事件では有力な手がかりや容疑者は見つかっておらず、10年がたった現在も事件は未解決のままだ。そんな「モード・マレシャル殺人事件」について綿密な取材をしたノンフィクション本からアイデアを得ているからこそ、本作は警察関係者も認めるリアルな作品に仕上がったのだろう。元刑事や犯罪評論家のコメントは以下の通り。(編集部・市川遥)
コメント
■秋山 博康(元徳島県警捜査第一課警部/犯罪コメンテーター)
捜査とは、犯人と証拠を発見することです。事件は生き物と言われ、捜査中に多種多様のアクシデントが付きものです。必検を誓い捜査を展開しますが、捜査が長期化すると捜査士気が低迷化します。この映画で地道な捜査官の執念を観てほしいです。
■佐々木成三(犯罪評論家)
刑事の私生活、被害者感情、生じるバイアス。負のスパイラルが連鎖し、起こる未解決事件。刑事の異動時期に、何故か発生する大きな事件。場面一つのリアリティ性が高い! cold caseの原因になりえる要素が詰まった映画だと感じました。
■西村虎男(元石川県警特捜刑事)
なんともリアルな映画だ!
冒頭の焼死体の生々しさにドキッとしながら、殺人事件捜査に従事する刑事の心理状態の変化や仲間内でのやり取りなど、現実を見せられているのかと錯覚するほどの見事な描写。
ぜひともお勧めしたい作品だ。
■吉川祐二(元警視庁刑事・警察監修)
刑事のプライベートや葛藤を、とてもよく映しだしている映画。
本作を通して、刑事や警察官たちも、実はこうやって悩みながら仕事に従事しているんだという点について見ていただけたらうれしいです。本作に出てくる刑事たちの姿には、いい意味で飾りっ気がない。
そういった姿を知ってもらえたら、刑事を見る目が変わってくるかもしれません。