「光る君へ」柄本佑、道長の懺悔シーンで解釈に変化 「道長にとって初めての局面」
吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で平安貴族社会の最高権力者となる藤原道長を演じる柄本佑が、道長にとって人生の転換期とも言える第9回の悲劇を振り返った。
平安時代に1,000年の時を超えるベストセラーとなった「源氏物語」を生み出した紫式部(まひろ/吉高)の生涯を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)や社会現象を巻き起こした恋愛ドラマ「セカンドバージン」(2010)などの大石静によるオリジナル脚本で描く本作。柄本演じる道長は右大臣・藤原兼家(段田安則)の息子で、野心に燃える兄・道隆(井浦新)や道兼(玉置玲央)と対照的にのんびりとしたおおらかな性格。家の繁栄のためには手段を問わない父に抗ってきた道長だが、やがて変わらざるを得ない局面を迎える。そのきっかけとなるのが3月3日放送・第9回「遠くの国」で描かれた、散楽の一員だった直秀(毎熊克哉)の死だ。
直秀には、貴族の屋敷で金品を盗み出しては貧しき人々に分け与える義賊という別の顔があった。第8回のラストでは直秀一味が兼家の邸宅・東三条殿に潜入したところを捕らえられ、道長は直秀らの身を検非違使に渡すも、看督長(かどのおさ※検非違使庁に属する下級の役人。牢獄の管理や犯人の逮捕を行う※「光る君へ」公式HPより引用。用語集 大河ドラマ「光る君へ」第9回より)に心づけを渡し、処分を軽くするように交渉した。しかし、それがあだとなり、直秀らは皆殺しにされてしまった。鳥辺野で直秀らの無残な亡骸を目にした道長とまひろは言葉を失い、無言で土を掘り続け、彼らを埋葬するという展開だった。このシーンを、柄本はこう振り返る。
「ある意味、道長が新たな局面を迎える要になるシーンではあるなと思ってやらせていただいていました。演じているときには、理詰めでやっていることがあまりないので今思い返せば、ということではあるんですけれども、台本上では直秀たちを埋葬した後に『すまない』と言い始めて、彼らを殺したのは俺なんだっていうようなことをまひろに言ってるんですよね。だけど、撮影の前にまひろに懺悔するというよりは、目の前にいる、もう何も聞こえない、見えない仲間たちに対しての気持ちなんじゃないかと思って」とシーンの解釈が変わったことを明かす柄本。
さらに、その推移について「道長はぼんやりとしているように見えるけど、意外と周りのことを見ていて、ちょっと引いたようなところがあったりする。そんな彼が、あのシーンにおいてまひろに懺悔するというのは少しイメージが違う気がして。まひろにだけ本当の自分を見せていた道長が、不毛なことにまっすぐぶつかっていく初めての局面だったんじゃないかなと」と思い返しながら、この出来事が今後道長の人生に大きく影響していくことを示唆する。
「これから道長が偉くなっていくわけですけど、その過程ではきっとこの悲劇が根っこ、ベースにあるんじゃないかと思います。しかも、自分がよかれと思って行ったことで彼らを死なせてしまった。その事実も大きいんじゃないかと。道長にとって直秀の存在は大きく、道長が大人に変わっていくきっかけとなった人物ともいえると思います」
第9回のラスト、まひろは大学に向かう弟・藤原惟規(高杉真宙)を見送った後で、父・為時(岸谷五朗)に「男であったなら勉学にすこぶる励んで内裏に上がり、世を正します」と話していた。翌第10回「月夜の陰謀」では、まひろとの駆け落ちを決意した道長に対し、まひろは「道長さまは偉い人になって直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような、よりよき政をする使命があるのよ」と諭した。直秀の突然の死は多くの視聴者の涙を誘ったが、道長、そしてまひろにとっても喪失は大きく、その影響は計り知れない。(編集部・石井百合子)