「光る君へ」藤原道長は『ゴッドファーザー』アル・パチーノをイメージ 柄本佑、プレッシャーを明かす
吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で藤原道長を演じる柄本佑。ドラマでは、右大臣・藤原兼家の息子として生まれながら野心とは無縁だったのんびりやの彼が、やがて平安貴族社会の最高権力者に上り詰めていくさまが描かれる。柄本は本作の道長像について、脚本を手掛ける大石静からイメージとして提示されたのが映画『ゴッドファーザー』シリーズ(1972・1974・1990)でアル・パチーノが演じたマイケル・コルレオーネだったことにプレッシャーを感じたと話す。
平安時代に1,000年の時を超えるベストセラーとなった「源氏物語」を生み出した紫式部(まひろ/吉高)の生涯を追う本作。柄本にとって大河ドラマは「風林火山」(2007)、「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(2019)に続く3度目の出演。本作では準主役ともいえるポジションへの抜擢となった。主演の吉高、脚本の大石とは2020年放送のドラマ「知らなくていいコト」(日本テレビ系)以来のタッグとなり、道長役でオファーを受けた時の心境をこう振り返る。
「吉高さん、大石先生とは過去に1度同じ座組でご一緒させてもらったことがあったのですが、その現場がすごく楽しくて。僕にお話をいただく前にニュースなどでお二人で大河をやられると知って“ちぇっ、いいな……楽しそうだな”と寂しく思っていたので、その座組に入れる喜びがまずありました。道長に関しては、時の権力者としてのヒールっぽい感じ、家の繁栄のためには家族も利用するというようなイメージがあったのですが、大石先生と初めに打ち合わせをさせてもらった時に、そうではなく実はとても人間味があったんだと。末っ子で、のんびりやだった彼があれよあれよという間に頂点に上り詰めていく、『ゴッドファーザー』のアル・パチーノ(演じるマイケル)のような感じにしていきたいとおっしゃっていました。何がプレッシャーって、それが一番プレッシャーでした(笑)」
映画『ゴッドファーザー』は、アメリカの小説家マリオ・プーゾの同名小説をフランシス・フォード・コッポラ監督が映画化した家族の愛憎ドラマ。ニューヨークで権威をふるうイタリア系マフィアのドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)の三男として生まれた堅気のエリート・マイケル(アル・パチーノ)が血で血を洗う抗争に巻き込まれていくストーリーで、第45回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、脚色賞を受賞。続編となるPARTII、PARTIIIも制作された。
柄本は「その時ちょうど何の因果か、池袋の新文芸坐で『PARTII』を観たばかりだったんですよ。“あれかい!”と思って……」とくしくも、大石と打ち合わせをする直前に『ゴッドファーザー PARTII』を観たばかりだったと驚きを明かす。
「光る君へ」では右大臣(現在は摂政)・兼家(段田安則)が父で、兄の道隆(井浦新)と道兼(玉置玲央)、姉の詮子(吉田羊)という家族構成。一族がそろう画を目にしたときには「すごくきょうだいに見えるなと思って驚きました」と柄本。なかでも、手段を問わず出世していく兼家を演じる段田に「お芝居をご一緒させていただいてしびれました」と刺激を受けたようで、「新さんの柔らかいんだけどどんどん攻撃的になっていく様と、玲央さんの狂気。羊さんを含め周りのキャラが強すぎるので、初めのころはなるべく薄く居ようと、存在感をいかに消せるかみたいな感じで演じていました」という。しかし、決して兄たちの前を行こうとしなかった道長にも大きな変化が訪れる。
「道長もまたこれから、父や兄たちの遺志を受け継いで政治に向かっていく。本当の自分と、藤原を残していくためにトップに立つことのギャップみたいな部分が葛藤に繋がっていくのかなという風に思っています。明確にそのシーンもありますし。ゆくゆくは最高権力者になっていくわけですけど、演じるにあたって一番大事になるのは最高権力者であることを意識しないことなんじゃないかと。結局は1人の人間であるということ。当然、世の中のことを考えて帝を導き、采配をふるう立場にあるんだけれども、根っことしてあるのは第9回の道長。直秀ら散楽の人々が殺されたときに手で土を掘って埋葬し、彼らにまっすぐに謝る。さらにベースとなるのは、末っ子ののんびりやであったというところ。そのあたりは大事にしたいと思っています。そうでないと、ふわふわしたものになってしまうような気がするので」
なお、実生活では長男である柄本は末っ子に憧れがあったとも。「お兄ちゃんがいる人をうらやましく思っていたので、自分の思い描く末っ子像みたいなのは入っちゃっている気がします。だから、もしかしたら演じるうえでは実生活で兄貴が兄貴役を、弟が弟役をやるよりもいいのかもしれない、とも思います」と言いつつ、父親役には緊張があるとも。道長はのちに正室・源倫子(黒木華)や側室の源明子(瀧内公美)と子をもうけるが、柄本自身も一女の父だ。
「過去にお父さん役を初めて演じた時に、言い方が難しいんですけど、ものすごくお父さんしちゃったんですよ。だけど完成した作品を観たら全然お父さんに見えなくて。自分も実際父親になってみて、別に変わらないなというか。でも、周りからは“なんかお父さんらしくなってるよね”みたいなことを言われたりする。ということは、そういうのは周りが判断することで自分が思うことではないんだなとその時気が付いて。だから今でもお父さん役となると、ちょっときゅっと胸が締めつけられる瞬間があります。今、平安時代の役を演じていますが、普通でいること、2024年を生きている自分っていうものがものすごく大事な気がして、日々演じてます。平安だなんて思ったら即座に終わると思っているぐらいで」
ちなみに、現在はかつらをつけず地毛を結っているという柄本は「これが非常に助けになっている」と語る。「昨年の5月末ぐらいの頃はギリギリ足りているけど、もうちょっと伸びたらいいなっていう状態だったんですけど、今は少し伸びすぎて1回結ったら折りたたんでちょうどいい長さに調整しています。地毛だとセッティングに時間がかからないんですよね。それに横から撮った時とかにかつらだとどうしても二層ある感じになってしまう。準備時間をしっかりいただくことができて地毛で時代劇、平安時代を生きることができて、これは非常に助けになっていると思います。あと、触れるのもいいですね。かつらだと少し遠慮してしまうところがあったりするので」
これまで家のためには非道な手段もいとわない父や兄たちに抗ってきた道長だが、彼もまた同じ道をたどることになるのか。その変貌ぶりが楽しみでならない。(編集部・石井百合子)