ケビン・コスナー、2度の離婚を経て自腹で監督主演作を制作中
さる2024年2月16日、正式にケビン・コスナーとの妻クリスティーン・バウムガートナーの離婚が成立した。これで2回目の離婚である。1回目の離婚は1994年のこと。原因はコスナーの不倫で、彼が払った慰謝料は8,000万ドル日本円で(約120億円)に達したという。そして彼がそれまで築いてきた「清廉潔白で理想的なアメリカ人男性」というイメージも崩れ去った。まさに負のジェットコースター・ロマンスである。
今回の離婚では、さすがに100億円の慰謝料は発生せず、自宅や親権などの妥協点を見つける裁判は長引いたものの、結果的には平和的な離婚になったそうだ。とは言え御年69歳にしてヘビーな人生の選択をしたことに変わりはない。お疲れコスナーだが……実は今年、彼には一世一代の大ばくちが待っている。久々の監督主演作『ホライゾン:アメリカン・サーガ/Horizon: An American Saga(原題)』(2024年~)が公開されるのだ。しかも、この映画は全四部作を予定していて、今年Chapter 1、Chapter 2が連続公開され、Chapter 3はすでに撮っているという。まさに一大プロジェクトである。さらにコスナーは、この映画の予算を調達するために自腹を切ったそうだ。その額は2,000万ドル(日本円で約30億円)と言われている。
ちなみに離婚の原因も、一説にはコスナーが同作の制作にのめり込んで、ほとんど家にいなかったからだとも言われている。 ここでコスナーの経歴を振り返ってみよう。コスナーの最盛期は、恐らく80年代後半から90年代前半だ。『アンタッチャブル』(1987年)や『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)と言った名作で主演を飾り、監督・主演を兼任した『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)は世界中で興行/批評の両面で大成功し、アカデミー賞まで獲った。さらにホイットニー・ヒューストンが歌う「エンダァァァァァァ」こと「オールウェイズ・ラヴ・ユー(I Will Always Love You)」で有名な『ボディガード』(1992年)では、世界中の女性を魅了した。私自身、母に何度も『ボディーガード』を見せられ、「もう『ボディガード』は見たくねぇ」と少しだけ反抗期になったほどだ。私の家庭の事情はさておき、この頃のコスナーは飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
しかし、最初に書いた通り94年に不倫と1回目の離婚が起きる。清廉潔白なイメージが出来上がっていただけに、不倫スキャンダルのダメージは大きかった。そして不幸は重なるもので、コスナーのキャリアはとんでもない大失敗に襲われる。自身が製作も兼任し、鳴り物入りで主演した超大作『ウォーターワールド』(1995年)は、決して内容は悪くないものの、撮影にメチャクチャに金がかかったせいで大赤字を叩き出してしまった。SF映画『ポストマン』(1997年)も失敗に終わり、2000年代に入る頃にはコスナーは超大作の表舞台からは姿を消すが……彼は映画作りという仕事を諦めなかった。中規模作品で主演を続け、プレスリーのコスプレをして強盗をする極悪人を演じた『スコーピオン』(2001年)など、以前とは異なるテイストの作品でも頑張り続けた。
さらに監督/主演も続け、西部劇『ワイルド・レンジ 最後の銃撃』(2003年)は本国で大ヒット。助演でもイイ仕事をするようになり、たとえば『マン・オブ・スティール』(2013年)ではスーパーマンの地球での父親役を任され、わずかな出番ながら強烈な印象を残す。近年はテレビの仕事も積極的に受け、主演を務めた西部劇シリーズ「イエローストーン」(2018年~)がヒット。再びコスナーに追い風が吹き始めた。酸いも甘いもかみ分けて、まさに俳優として円熟期を迎えたわけだが……そこで再びの大ばくちである。
しかし、実はコスナーが大ばくちに出るのは、今回が初めてではない。コスナーの名声を不動のものにした『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)も、当初は資金が集まらず、結局はコスナーが1,800万ドル(日本円で約27億円)も自腹を切って出したのだ。そして蓋を開ければ大ヒットし、「一大叙事詩」「新世代の西部劇の傑作」だと高く評価された(インディアンについて考証の至らない点も多々あり、批判も多かったけれど)。コスナーが今回の『Horizon: An American Saga(原題)』で、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の再来を狙っているのは明らかだ。御年69歳、体力的にも西部劇で主演と監督を務めるのはそろそろ限界だろう。映画作りに魅了された男ケビン・コスナー。この男の人生を賭けた大ばくち、勝つか負けるか? その大一番の結果は1作目の公開日、2024年の6月28日に明らかになる。コスナーの大ばくちの行く末を引き続き注視していきたい。(加藤よしき)