『マッドマックス』ミラー監督、イモータン・ジョー代役案に当初は抵抗も「変身してのけた」
映画『マッドマックス:フュリオサ』(5月31日全国公開)を手掛けたジョージ・ミラー監督が、前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)で、絶対的支配者イモータン・ジョーを演じ、2020年に亡くなったヒュー・キース=バーンさんへの思いを語った。
本作は『怒りのデス・ロード』でイモータン・ジョーに反旗を翻した、義手の戦士フュリオサの若き日の物語。フュリオサ役はシャーリーズ・セロンから「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ・テイラー=ジョイに引き継がれ、クリス・ヘムズワースがウォーロード・ディメンタス将軍役で出演する。
ヒューさんは、1979年に公開された1作目『マッドマックス』に、暴走族のリーダー、トーカッター役で出演。それから36年を経てイモータン・ジョー役で復帰し、ファンの喝采を呼んだが、2020年に73歳でこの世を去った。
前日譚にあたる『マッドマックス:フュリオサ』にもイモータン・ジョーの存在は欠かせない。ミラー監督は「ヒューを失ったとき、その全てを『マッドマックス:フュリオサ』に引き継がなければならなかった。僕がやろうと決めたのは、ディープフェイクを使うことだった」と明かす。「ディープフェイクは、本質的な演技は、それをする人(出演者)がやる。その上に、いわばデジタルの複製をかぶせるんだ。演技を作り出すわけではない。それが当初のアプローチだった」
そんななかで自らジョー役に立候補したのが、ミラー監督と『アラビアンナイト 三千年の願い』で仕事をしたオーストラリア出身の俳優、ラッキー・ヒュームだった。「ヒュームが僕に『ジョージ、本当にディープフェイクが必要なの? 僕ならできると思うよ』と言ったんだ。『やらせてみて』と言う彼に、僕は抵抗し続けていた。しかしある日、挑戦してもらおう。どうなるか見てみようと思ったんだ」
「少なくとも10年以上前の若い頃のジョーを演じるわけだし、ヒュームはどんなことにも深く入り込める人物なのは知っていた。実際に彼は、ヒュー自身や『怒りのデス・ロード』にも深く入り込み、見事に変身してのけた。最初の数日間の撮影を経て、ディープフェイクを使うという僕の考えは完全に消え去ったと言わざるを得ない。そんなことをする必要はなかったんだ」
1作目を手掛けた当時を振り返り「僕にはあまり経験がなかった。特に演技についてはね。演技というものを全く理解していなかったんだ」と語るミラー監督。そんなミラー監督にとって、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと共にオーストラリアに移ってきたヒューさんの存在は大きかった。
「ヒューは、僕を心から驚かせるような方法で作品に取り組んでくれた。詳細は省くけれど、彼の演技にはとてつもない説得力があったんだ。『マッドマックス』のキャストには、オーストラリア国立演劇学院を卒業したばかりのメル・ギブソンもいたし、ソープオペラに出ている俳優たちもいた。ヒューは、それぞれ異なる訓練を積んだ俳優たちをまとめる方法を理解していた。ほとんど、彼自身の行動やひらめきでやってのけたんだ。そのことは僕に大きな影響を与えたし、重要なことを学んだ。そうしたヒューの歴史、僕たちの仕事のやり方もヒュームは知っていた。それが最も重要なことだったんだ」
「これまで一緒に仕事をしたなかには、ある意味、僕にとって最も偉大な師となった俳優が何人かいる。彼らからは、演技のプロセスやグループでの共同作業の仕方について、これまで読んだどんな本よりも多くのことを学んだよ」というミラー監督は「これまで培った全ての技術、全ての訓練、全ての練習(から得たもの)を駆使して、その瞬間に直感的に反応するのが俳優。純粋に直感的な反応が原動力なんだ。それが本当に面白いし、僕はそういう人たちに畏敬の念を抱く。ヒューは間違いなくその一人だったよ」と語った。
映画『マッドマックス:フュリオサ』は5月31日より全国公開