『ソウルフル・ワールド』にもある“共感”と“第三者目線” 心理学の専門家が語る映画で感動する理由
ディズニー&ピクサーの長編アニメーション『ソウルフル・ワールド』が、4月12日から初の劇場公開を迎える。イマジネーションあふれる、魂(ソウル)の世界を舞台に、人生における身近な幸せや大切な“きらめき”を描いた本作は、第93回アカデミー賞において長編アニメ映画賞を受賞した感動作。なぜ映画は人に感動をもたらすことができるのか。その理由について、東洋大学社会学部社会心理学科の戸梶亜紀彦教授が、“共感できること”と“第三者目線で観ることができること”という2つの要素によって、感動体験ができると解説している。
『ソウルフル・ワールド』は、生まれる前に「どんな自分になるか」を決める魂(ソウル)の世界に来てしまった音楽教師のジョーと、やりたいことがないソウルの女の子“22番”の物語。ジャズピアニストを夢見ながら音楽教師として働くジョーは、待望のチャンスをつかんだ矢先、マンホールに落ちてしまいソウルの世界へ。現世に戻るために“22番”と冒険を繰り広げるうちに、大切な“人生のきらめき”に気づいていく。
戸梶教授は、本作をはじめ、映画を観て人が感動するかどうかにおいて大事なポイントの一つ目は“共感できること”にあると明かす。「物事を理解するというのは理屈に納得するだけで、それを受け入れているかどうかは別なんです。共感は理解よりももっと上の段階で、理屈もわかるしその人の気持ちも受け入れられているということです。それを受け入れられるかというのがとても重要で、人は共感できないと感動できないんです」
また、二つ目のポイントという“第三者目線で見ることができること”について、戸梶教授は「自分自身のことじゃなくて、客体の話として観ているから状況が理解しやすいんです。自分のことだったら受け入れられずに否定したくなる気持ちやプライドが許せないことも出てきてしまいますが、映画のように客観的にみる時、自分と似たキャラクターの行動に対して『あ、自分もやってるかも』『こういう気持ちでこんな風にしてしまうかも』と、自分じゃないキャラクターの物語だからこそ気づけたり、自分自身を見直したりすることができるんです」と語っている。
夢を持ちながらも別の仕事に就いて日々を生きるジョーが、日常の素晴らしさと“人生のきらめき”に気づいていく姿。そして、「やりたいことがない」ことに悩んでいつまでも一歩が踏み出せない“22番”の姿には、共感できる観客も少なくないはず。さらに、そんな彼らを客観的に見ることで、まるで自分のことのように、人生における大切な“きらめき”を見出す体験を味わうことができそうだ。
シンプルで奥深いテーマに挑んだのは、ピクサーで『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』などの名作を手掛けたピート・ドクター監督。ドクター監督は、子どもの心の成長を、擬人化した“感情の世界”で描いた『インサイド・ヘッド』(2015)の続編『インサイド・ヘッド2』(製作総指揮として参加)の公開を8月1日に控えている。(西村重人)