【完全ネタバレ】『ゴジラxコング』東宝ゴジラシリーズへのあふれるオマージュ&類似シーン徹底解説
世界の怪獣王ゴジラとコングが激突するモンスター・ヴァース第5弾『ゴジラxコング 新たなる帝国』が公開中だ。前作『ゴジラvsコング』に続きメガホンを取ったアダム・ウィンガード監督は、子供の頃から大のゴジラファン。本作にも「東宝ゴジラのあれっぽい」描写がちりばめられている。そこで東宝ゴジラシリーズへのオマージュや、よく似た描写を紹介しよう。(以下、映画のネタバレを含みます)(文:神武団四郎)
キング・オブ・モンスターとして地上世界を制するゴジラ。本作のゴジラ初登場シーンは、カニのような脚を持つスキュラとの一騎打ちだ。ローマの街の真ん中で、ジャンプやボディープレスでぶつかり合う派手なバトルは、ゴジラが超翔竜メガギラスに立ち向かう『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000)のお台場決戦を彷彿とさせる。
スキュラがのし歩く時に、人々が逃げ惑う路上に鋭利な足が踏み下ろされ、アスファルトが盛り上がるカットが挿入される。臨場感あふれるビジュアルは『ゴジラ-1.0』(2023)へのオマージュだ。製作中に『ゴジラ-1.0』の予告編を見たウィンガードは、ゴジラが逃げる人々を踏み潰したり数寄屋橋が潰れる銀座襲撃シーンに衝撃を受け、山崎貴監督への敬意を表する気持ちで加えたと語っている。
核兵器のメタファーとして誕生したゴジラ。今作では怪獣=タイタンたちとの死闘に加え、フランスの原子力発電所に現れエネルギーを吸い取っていた。本家シリーズでも『ゴジラ』(1984)では井浜原子力発電所(静岡県・浜岡原発がモデル)を襲撃。炉心に頭を突っ込み放射能を吸い尽くす姿が描かれた。その際に背ビレが妖しい光を放つ様は、本作にも受け継がれている。『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』では茨城県の東海村原発がゴジラに襲われ、それを機に日本政府は原子力発電の永久放棄を決定する展開だった。ほかにもゴジラは『ゴジラvsデストロイア』(1995)で愛媛県の伊方原発を狙って豊後水道に出現。『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999)では東海村原発に向かったが、どちらも襲撃は回避された。
フランスで原発を襲った際、フランス軍兵士がガイガーカウンターで足跡の放射線量を計測する姿が見てとれる。ガイガーカウンターといえば、初代『ゴジラ』(1954)でゴジラの襲撃後に人体への影響をチェックしたり、ゴジラの痕跡をたどるため使われていたのを思い出す。モンスター・ヴァースでは第1作『GODZILLA ゴジラ』(2014)の雀路羅市潜入シーンで使われていた。
原発でエネルギーを充填した後、ゴジラは北極海に移動してマンダを思わせる海棲怪獣ティアマットに戦いを挑む。海中で激しい死闘の末その体を引きちぎったゴジラは、そのままティアマットの洞窟に向かい眠りについた。夏至になると太陽が沈まない北極にあるこの場所で、ゴジラはたっぷり太陽放射を吸収。エネルギーに満たされると、北極の氷を破って地上へと躍り出た。この流れは、氷塊で眠っていたゴジラが目を覚まし氷を破って出現する『キングコング対ゴジラ』(1962)そのもの。ゴジラの動向をモナークの潜水艦が監視している展開も、目ざめたゴジラが潜水艦を襲う『キングコング対ゴジラ』に準じている。
なお、エネルギーがあふれたゴジラの体が赤くなる“バーニング状態”は、マイケル・ドハティ監督の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)のキングギドラ戦に続いて2度目のこと。バーニングゴジラの元祖『ゴジラvsデストロイア』をフェイバリットにあげるウィンガード監督としては、赤いゴジラを描きたかったのだろう。赤といってもピンクに近いその色は、モンスター・ヴァース以外でもサイケな色彩設計を好んで使うウィンガード監督らしいチョイスだ。
今作のゴジラとコングは、それぞれのテリトリーである地上と地底で活動する。直接のバトルは、中盤のエジプトで描かれた。コングを目にして猛ダッシュしたゴジラは、タックルをかました直後、ブレーンバスターで相手の巨体を大地に沈めた。このあたりのプロレス技は、昭和ゴジラシリーズ後期で頻繁に目にした怪獣演出。昭和ゴジラや平成VSシリーズに心酔するウィングガード監督らしい展開といえる。ちなみにゴジラシリーズにおいて、プロレスを思わせるケレンミあふれるバトルを繰り広げた最初の作品は『キングコング対ゴジラ』だった。そういう意味でも、本作は伝統を受け継いだ作品といえるのだ。
コングもやられっぱなしではない。腕のアタッチメントでパワーアップしたコングは、メガトンパンチの連打でゴジラを失神KO。ゴジラの尻尾を背負ったコングは、破壊神の巨体を空洞世界に引きずっていく。ゴジラの尻尾をつかんで強引に投げ飛ばす『キングコング対ゴジラ』を思わせる。本家のコングは倒れたゴジラに馬乗りになって激しくパンチを打ち込むが、ウィンガード版ではすぐにゴジラが目を覚まし放射熱線で反撃。そのままコングに馬乗りになって、ボコボコに殴る様を見せている。
終わりなき怪獣王バトルに待ったをかけたのはモスラだった。コングと手話で話せる“小美人”ジアと共に彼らの前に現れたモスラは、ゴジラにコングとの共闘を呼びかける。このくだりはゴジラ、ラドン、モスラがキングギドラに挑む『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)と同じ。モスラは激しく戦うゴジラとラドンに、争いを止めみんなで力を合わせようと説得。三大怪獣が手を組んで、宇宙からの強敵に立ち向かった。
モスラの仲介で休戦したゴジラとコングは、空洞世界でスカーキング率いる極悪エイプ軍団に立ち向かう。そこでゴジラは、地球に氷河期を巻き起こした冷凍怪獣シーモと対峙する。四つ足の冷凍怪獣といえば、まず思い浮かぶのが『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966)のバルゴン。舌先から冷凍液を噴射したが、シーモも口から冷気を吐き周囲を凍結させている。しかし映像化はされなかったが、アンギラスも冷凍怪獣として登場する企画があった。『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)がそれで、初期シナリオ段階では、護国三聖獣の一体である氷結怪獣アンギラスがゴジラと戦うことになっていた。最終的にアンギラスは見送られたが、背中に氷柱状のトゲが生えてたマケットの写真とともに、バッケージソフトの特典で紹介されている。ゴジラ好きのウィンガード監督だけに、参考にした可能性も捨てきれない。
なおシーモによってゴジラは氷漬けになるが、『ゴジラvsデストロイア』でもゴジラが凍結させられた。伊方原発に向かったゴジラは、スーパーXIIIの冷凍弾を浴び海底へと沈んでいく。本家では6時間後に再び活動を再開したが、本作ではパワー全開であっという間に氷をけちらし、シーモと戦い続ける姿が描かれた。
人間たちのパートを最小限にとどめ、怪獣バトルで押しまくる重量級エンターテインメントとして完成した『ゴジラxコング 新たなる帝国』。ドラマ面はコングの比重が高めだが、“絶対ゴジラ派”ウィンガード監督らしく、ゴジラの強さやかっこよさを印象づける作品になっている。ここで触れた以外にも、東宝ゴジラを思わせるシーンやカットは少なくない。それが意図したものか偶然なのかはともかく、本作はさまざまなスタイルで70年にわたって生み出されてきた、ゴジラの奥深さや貫禄をあらためて思い知らされる作品である。