ADVERTISEMENT

ポール・ジアマッティ、『サイドウェイ』監督との19年ぶりタッグに「何でもやる」キャストが明かす撮影秘話

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ』
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ』 - Seacia Pavao / (c) 2024 FOCUS FEATURES LLC.

 『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペイン監督と主演男優ポール・ジアマッティが、約19年ぶりに再タッグを組んだ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。第96回アカデミー賞において作品賞をはじめ主要5部門でノミネートされ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞。笑って泣ける人間ドラマと多くの観客の共感を呼び、批評家にも高く評価された。賞レースに向けて開催されたスクリーニング後の質疑応答や記者会見でキャストのジアマッティ、ランドルフ、ドミニク・セッサが語った出演経緯やキャラクター作り、撮影裏話を紹介する。 (吉川優子 / Yuko Yoshikawa)

孤独な魂が寄り添い合う…『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』フォトギャラリー

 舞台は、1970年、ボストン近郊にある全寮制の名門男子校バートン。クリスマス休暇に家に帰れない生徒たちの子守りを押し付けられた古代史の教師ハナム(ジアマッティ)は、息子を亡くしたばかりの寮の料理長メアリー(ランドルフ)と、複雑な家庭事情のある生徒アンガス(セッサ)の3人でクリスマスを迎えることに。彼らは、少しずつお互いの意外な面を発見していき、そこに思いがけない絆が生まれる。

ADVERTISEMENT

 脚本賞候補にもなった脚本は、デヴィッド・ヘミングソンがペイン監督のアイデアを基に執筆。ペイン監督が最初から想定していたというだけあり、ハナムはジアマッティ以外には考えられないハマリ役で、主演男優賞にもノミネートされた。
 
 『サイドウェイ』の後、ペイン監督と友人になったジアマッティは、二人でいくつかの企画を話し合ったこともあったが実現に至らず、本作の話が来た時に「あなたがやりたいことなら何でもやります」と言ったという。「キャラクターが素晴らしかったんです。ストーリー、設定も素晴らしかった。作品にとても親しみを感じるところがあって、ワクワクしました。僕自身が全寮制男子校に通っていたことがあるからです。そこでは退屈していましたけど、僕はこういう人たちに囲まれて育った。たくさんの思い出からいろいろと(演技を)引き出すことができると思いました」と振り返るジアマッティ。周囲に嫌われている頑固なハナムを演じることを、とても楽しんだという。

 「彼は、最も手の込んだ侮辱を思いつくことに、格別の喜びを感じているのだと思いました。手の込んだ方法で誰かをおとしめることができるのは、彼にとって魂が解放されるようなことだったんです。そして自分の知性に満足し、知性をもてあそんでいる(笑)。大好きなキャラクターでした。彼は間違いなく、家にいる時にどのように(他人を)侮辱するか考え、リハーサルをして、クスクス笑っているんですよ(笑)」

ADVERTISEMENT
「彼は、最も手の込んだ侮辱を思いつくことに、格別の喜びを感じているのだと思いました」Seacia Pavao / (c) 2024 FOCUS FEATURES LLC.

 また、ペイン監督との再タッグについて尋ねられたジアマッティは、『サイドウェイ』の現場を思い出しながら、ペイン監督の演出がいかに特別なものかを語った。「普通、監督はモニターの辺りに座っていますが、『サイドウェイ』の現場にはモニターがなく、みんなが同じ場所で一緒になって仕事をしていて驚きました。そして、彼(ペイン)は、エキストラやトラック運転手など、すべての人に気を配っていました。そんなのは見たことがなかったんです。撮影現場はとても親密で、家族のようにフレンドリーな雰囲気でした。それは今作も同じ。まるで、みんなで一緒にぶらぶらしている間に映画を作っているような感じなんです。最高に温かく、安全で、柔軟な雰囲気でした。どんな失敗をしても構わない。本当に素晴らしかったです」。

ADVERTISEMENT

  人間味あふれる名作を生み出してきた名匠ペイン監督の作品作りの秘訣がわかるようなエピソードだが、そのペイン監督が『ルディ・レイ・ムーア』(エディ・マーフィ主演作)に出演していたランドルフを見て連絡してきた時、彼女は彼がどんな監督か知らなかったという。「彼から電話があって、この美しいキャラクターを説明してくれて、脚本を渡されました。最初のミーティングが終わったとき、『これはとてもクールですね。あなたのことをよく知るために、私に観てほしいあなたの作品はありますか?』って言ったんです(笑)」

ドミニク・セッサ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ポール・ジアマッティ

 ペイン監督が「ドラマの役にこそ、コメディができる俳優を使いたかったんです」と話していた通り、ランドルフの演技は、ドラマとコメディを絶妙のバランスで表現していて見事。コメディ作品で知られるダヴァインは、ジアマッティと同じく名門イエール大学の演劇部出身で、古典劇、特にドラマ作品で訓練を受けたといい「アーティストとして、ドラマとコメディには何の違いもありません」と語っていた。

ADVERTISEMENT

 息子をベトナム戦争で亡くした後、初めてのクリスマスを迎えるメアリーという役について、ランドルフは「彼女はそれ(息子の死)を受け入れて前に進もうとしています。誰かが亡くなると、その死の直前か直後、新しい赤ちゃんが家族に加わるものなんです。でも、それを受け入れるのは彼女にとって大きなことで、(妊娠中の)妹はそのことを理解しています。クリスマスを迎えるのは彼女には荷が重すぎました。彼女にはまだその心の準備ができていなかったんです」と激しく揺れ動く彼女の感情を分析する。

 800人以上の候補者のなかから、アンガス役に大抜擢されたセッサは、カメラの前に立つのは初めの新人。2人の大ベテランの名優にひけを取らない繊細な演技を披露し、大きな注目を浴びた。「僕が高校の最終学年だったとき、映画の関係者たちがロケ地を探していて、僕の学校にも来たんです。キャスティングの人たちも来ました。映画のオーディションを受けるってどんな感じなのか興味があったし、うまくいけばエキストラとして出演できて、セットとが見られるかもしれないって思ったんです。最終的にアレクサンダーに会うことができましたが、その時点では、僕をどれくらい気に入ってくれているのかよくわかりませんでした。でも、彼に直接会えて、そうした経験をするのは本当にクールなこと。オーディションは7、8回受けたと思います」と出演経緯を語る。
 
 ジアマッティとランドルフとの共に最初はおじけづいたというセッサだが、最高の経験になった。「僕にとって彼らはセレブみたいなもので、(撮影の合間に)トレーラーに戻ったりするのかもわかりませんでした(笑)。でも、初めて一緒にこの仕事をするのに、これ以上いい人たちはいなかった。みんなとても地に足が着いていて、自分の持ちこむもの(演技)に自信を持っていたし、僕が持ち込むものにも自信を持ってくれたんです。純粋に、僕のクリエイティブプロセスや芸術性を信頼してくれました。それこそ僕が求めていたすべてなんです」

ADVERTISEMENT

 撮影前の約3週は間、3人で台本読みや分析をして、さまざまなことに取り組んだといい、ジアマッティは「時々、3人で室内劇をやっているような感じがありました」と振り返る。また、1970年代のディテールをとらえた美術や衣装、そして実際のロケーションでの撮影は、演じるのにとても大きな助けになったと、3人とも口を揃えていた。

 劇中に登場する雪は全て本物だといい、不思議なことに、降ってほしいと思った時に、いつも降ってくれたそうだ。そんなことは滅多にあるはずがないが、ランドルフが言うように、「この映画には魔法があった」のかもしれない。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT