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「ウルトラマンアーク」辻本貴則、メイン監督で実現した“3分ノーカット”演出 ニュージェネと歩んだ紆余曲折の11年間

画像は「ウルトラマンアーク」第1話より
画像は「ウルトラマンアーク」第1話より - (c)円谷プロ (c)ウルトラマンアーク製作委員会・テレビ東京

 6日、「ウルトラマンギンガ」(2013)からはじまったニュージェネレーションウルトラマンシリーズの通算12作目となる、新テレビシリーズ「ウルトラマンアーク」が初回放送を迎えた。メイン監督を務めるのは、ケレン味ある演出、ミニチュア特撮へのこだわり、第二期ウルトラシリーズへのリスペクトでファンからも注目されている辻本貴則。放送開始にあわせてインタビューに応じた辻本監督が、ニュージェネ11年間の総括、「ウルトラマンアーク」の演出秘話を明かした。(以下、第1話の内容を含みます)

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シリーズ初参加「ウルトラマンX」で芽生えた“貪欲さ”

メイン監督を務める辻本貴則

 自主映画から商業映画に進出した辻本監督は、竹内力主演のビデオパッケージ作品『斬人 KIRIHITO』(2005)、水野美紀主演によるアクション映画『ハード・リベンジ、ミリー』『ハード・リベンジ、ミリー ブラッディバトル』二部作(2008、2009) 、フルCGアニメーション映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』(2017)など作品歴は多岐にわたり、とりわけアクション映画には強いこだわりを持ち続けている。

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 テレビ作品にも多数参加しており、EXILE TRIBEのメンバーを中心に据えた「HiGH&LOW Season2」(2016)、AKB48グループ出演の「キャバすか学園」(2016)、NHKによる異色の特撮ドラマ「超速パラヒーロー ガンディーン」(2021)などフリーランスの監督として、映画やテレビと様々な現場を渡り歩いてきた。そして、辻本監督のフィルモグラフィーに欠かせないのが、ウルトラマンシリーズである。

 「ウルトラマンX」(2015)を皮切りに、他の監督陣と共にローテーションを担ってきた辻本監督は「毎年続く中、監督陣は大きく変わることなく続けてきましたが、一作毎に内容や映像を進化させながら、ここまで辿り着いたような気がします」とニュージェネと共に歩んできた道のりを振り返る。

 また、長く仕事をする中で、個々の監督の仕事の流儀も垣間見えてきたという。「たとえば、一人の監督が新しい描写をやったら、“自分もやりたい”と思う監督もいれば、“自分のプライドとしてやらない”という監督がいたり、実にさまざま。別にそこに正解はないし、僕なんかは刺激を受けたらやりたくなるほうで、田口(清隆)さんに“あれと似たような表現やるわ”と普通に言ったりします(笑)。もちろん、アレンジや新しいアイデアは加えますけど。意見交換ができる環境もあるし、いい感じで人と人とが繋がり、歴史が紡がれていっているんじゃないかと思います」

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ウルトラマンアークに変身する主人公・飛世ユウマ(右端) - (c)円谷プロ (c)ウルトラマンアーク製作委員会・テレビ東京

 初参加となった「X」の頃は、どういった意識で監督していたのだろうか。「あの頃は、円谷プロの現場は初めてだったので、見様見真似と、皆さんの顔色をうかがいながらやっていたところがありました。作品を重ねる毎にそれがだんだん減り、“新しいことをやらなければ”という貪欲さが増していきました」

 シリーズが続き、助監督から監督に昇進する者もいれば、各話監督からメイン監督に抜てきされる者もいる。特にメイン監督は、キャラクターイメージや作品世界の構築など、作品の基本線を提示する重要な役割となり、注目度も高い。「ウルトラマンアーク」でも、4月6日の第一報で発表されたキャスト&スタッフは、主演の戸塚勇輝と他ならぬ辻本監督であった。ファンの間でも「次のウルトラマンのメイン監督は誰だ?」としばしば話題にあがる、いわば“花形職種”であるが、辻本監督がウルトラマンシリーズのメイン監督を意識するまでには、紆余曲折、そして葛藤もあった。

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 「僕は40代でウルトラマンに参加しているし、メイン監督の大変さもわかります。何より実力を発揮できなくて、次から呼ばれなくなる悲しい結果が待ち受けている可能性もあるわけです。それであれば、迂闊にも自分から『メイン監督をやりたい』なんて言い出さない方がいい。もちろんやりたいと言ってやれるものでもないけど、そう思っていた時期もありました」

 特にテレビシリーズの場合は、監督としてクリエイティビティーを発揮するのはもちろんのこと、決められたスケジュール通りに撮影を終えることが絶対条件となる。「僕は監督として、けっこう粘るタイプなんです。『ウルトラマンX』の時は最初だったこともあり、日数に収めるのがけっこう大変で、日没が迫る中、慌てて撮らなくちゃいけない、といったこともありました。当然、そういったカットには悔いが残るものなんです」と監督としての采配の拙さに忸怩(じくじ)たる思いをしたという。

「ウルトラマンR/B(ルーブ)」で見出した自身の方向性

 シリーズ自体は「X」の後、「ウルトラマンオーブ」(2016)、「ウルトラマンジード」(2017)と続くが、辻本監督は『バイオハザード:ヴェンデッタ』の制作に取り掛かっていたことから、この2作品には参加してない。その後、「ウルトラマンR/B(ルーブ)」(2018)で2年ぶりにウルトラの現場に戻って来た。「気付いたら呼ばれなくなっていたので(笑)、自分からチーフプロデュサーの北浦嗣巳さんに連絡して、ウルトラマンシリーズへの復帰が叶いました」と忌憚(きたん)なく事情を明かす。一度断ると仕事が続かなくなるのは、フリーランスである以上、どこにでもある話だ。

 その「R/B(ルーブ)」が、辻本監督にとって一つの転機になったという。「復帰した際に『X』での苦い経験もあったので、きちんと撮り切ることもテーマにしなければダメだなと。実はこの頃になると『X』よりも与えられた撮影日数が少なかったのですが、それでもちゃんとスケジュール通りに撮り終えることができた。そこで、やりようによってはやれるんだなと自信に繋がりました」

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 「R/B(ルーブ)」では、特撮演出においても自身の中で一つの方向性を見出すことができたと胸を張る。「ネロンガが登場した回(第16話『この瞬間が絆』)で、路地裏をネロンガが通過するカットを撮ったのですが、路地の手前に置いたゴミ袋やポリのゴミ箱が歩いた振動で揺れ、さらにパイプが破裂して蒸気が噴き出すというのを1カットでやったんです。そのときに自分の中に電撃が走り、『あ、俺がやりたかったのはこれだ!』と手応えを感じました」

メイン監督を意識した瞬間

メイン監督を意識し始めたのは「ウルトラマンタイガ」の頃

 続く「ウルトラマンタイガ」(2018)において、辻本監督は明確にメイン監督のポジションを意識し始める。「『タイガ』を撮影していた頃、田口さんが、次回作『ウルトラマンZ』の打ち合わせをしているのを見たことがあって、近くにいた村山和之プロデューサーから『辻本さんって、メイン監督やる気あるの?』と言われて、『あるっちゃありますよ』と答えて、1~2時間話したことがあったんです。やっぱり人と話すと、自分では気づいてないことに気付かされたりもするじゃないですか」。それこそが、初めて「自分が撮りたいウルトラマン」を意識した瞬間であったという。「『R/B(ルーブ)』で細かく飾ったミニチュアセットを丁寧に撮るという、自分の道を見つけることができたから、余計にそう思えるようになった気がします。今振り返ると、それまでは、ただ模倣しているだけというか、『特撮ってこうだよね』と漠然とやっていた自分がどこかにいましたね」

 辻本監督の場合、「オーブ」「ジード」と2作品間が空いているとはいえ、鮮度を落とさず、クオリティーを維持しながら、シリーズを撮り続けるのは多大な苦労を伴う。「毎年、これだと思えるアイデアが浮かんできた」という辻本監督だが、ここ数年は引き出しが枯渇しつつあるのを痛感していたという。「撮影方法などベーシックな部分は一緒で、その中でいろいろなアレンジを加えるんですけど、さすがにアレンジ力も効かなくなってきた」と心中を吐露する。そんな中、北浦プロデューサーからの指名で「ウルトラマンデッカー」(2022)の第6話「地底怪獣現わる!現わる!」では、LEDウォールを使った特撮に取り組んだ。多数の怪獣がひしめく地底世界を、一部合成を使いつつも、LEDウォールの背景を用いた一発撮りで描いて見せたが、これはNHK大河ドラマ「どうする家康」(2023年)や、東映特撮「王様戦隊キングオージャー」(2023~2024)に先駆けての挑戦であった。

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 「新しい発想の欠如に危機感を覚えつつも、新しい技術をやらせてもらうことで自分を保っていた」という数年を経て、依頼されたのが「ウルトラマンアーク」のメイン監督だった。「『やべぇ、どうしよう!』と思っている中で引き受けた感じ」と辻本監督は当時の心境を率直に振り返った。

リアルタイム&疑似1カットで描く「3分間」の戦い

科学の力で怪獣災害に対処する「SKIP」のメンバー - (c)円谷プロ (c)ウルトラマンアーク製作委員会・テレビ東京

 メイン監督を手掛ける上で、前作との差別化が求められるのは、ある意味必然である。「ちょうど『ウルトラマンブレーザー』の製作中にオファーを受けたのですが、僕自身、似たような傾向が続くのはあまり好きではないし、作風を大きくガラッと変えたいと思っていました」と語るが、オファーを受けた際にひとつフックになったのが、プロデューサーから「今回は防衛隊が登場しない内容にしましょう」と言われたことであった。

 ウルトラマンシリーズには欠かせない「防衛隊」。「Z」「トリガー」「デッカー」「ブレーザー」と、ここ数年は防衛隊に所属する主人公がウルトラマンに変身する従来のパターンが踏襲されてきたが、ニュージェネでは過去、「ギンガ」「オーブ」「ジード」「R/B(ルーブ)」「タイガ」と防衛隊が登場しない、もしくは、防衛隊が主人公たちのメインの舞台にはならない作品も製作されている。

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 「当初は警察官を主人公にする案もありましたが、最終的に科学の力で怪獣災害に対処する組織(怪獣防災科学調査所=SKIP)を舞台にすることが決まりました。ただ、ウルラマンの世界として、破壊活動を行う怪獣に対して人間が傍観者でいることはあり得ない」と防衛隊自体は作品の背景として設定されることとなった。

 第1話は、主人公・飛世ユウマがSKIPの一員として既に活動しており、ウルトラマンアークとも一体化している状況で幕を開けた。防衛隊から派遣された石堂シュウ(金田昇)の登場が描かれたほかは、単発回に近いテイストで、ある意味、安定した見心地感を抱かせる。そんな中、驚かされたのが、ウルトラマンアークの登場から怪獣・シャゴンを倒すまでの長回し風の疑似1カットだ。シュウがかざしたスマホ画面が捉えた変身直後のアークの姿から、アークアイソードを振りかざしてシャゴンを乗っ取っていた宇宙寄生生物ウーズ(巨大化バージョン)を撃退するまでのおよそ3分、一切カットを割らない体の演出で描き切った。その狙いを辻本監督は以下のように語る。

 「これは事前の取材では一切明かさず、とにかくリアルタイムで体感してほしかったところです。普通ならどこかでカットを割ると思うじゃないですか。それがアークとシャゴンの戦いを観続けていく中、皆さん、どこかのタイミングで『あっ、このまま最後までやるのか!?』と気づいてゾクゾク、ワクワクして欲しいなと」

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「ウルトラマンアーク」メインビジュアル - (c)円谷プロ (c)ウルトラマンアーク製作委員会・テレビ東京

 作品によって異なるが、ウルトラマンの活動限界時間が「3分」なのは、ファン以外にもよく知られている設定だ。但し、カットを紡いで時間を省略できる映像における時間の流れと実際の時間の流れは異なる。実際に3分間を提示して描いたのは、ウルトラマンシリーズの歴史を振り返っても初めての試みではないだろうか。

 「ウルトラマンは、毎回きっちり3分間戦っているわけではなく、長い回もあれば短い回もある。これは暗黙の了解だったと思うんです。今回、それを視聴者に体感してもらうためにはどうすればいいか? と考えた際に、ウルトラマンを中心にカットを割ってないような演出で描き切れば感じてもらえるんじゃないかなと。スポーツだとボクシングは1ラウンド3分だけど、やっぱりリアルタイムでしか描き得ない迫力がある」と力を込める。

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 このアイデア自体は数年前に思い浮かんでいたという。だが、撮影や準備に費やす時間に加え、合成もカロリーが高く、各話監督としては諦めざるを得なかった。「自分が第1話を撮ることができる、このタイミングだからこそ描くことができました。その3分の間に、スマホ画面や内引き(※ミニチュアの建物の中から覗いたアングル)だったり、少しずつ自分の味をいれていきました」とこれまで温めていた構想を実現できた喜びをあらわにした。(取材・文:トヨタトモヒサ)

「ウルトラマンアーク」毎週土曜午前9時~テレ東系6局ネットほかにて放送中

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