「もし徳」AI三英傑をCGで描かなかった理由 三者三様のダンス、衣装…武内英樹監督が裏側明かす
17万部を突破する大ヒットを記録する眞邊明人の同名小説を、『テルマエ・ロマエ』(2012)や『翔んで埼玉』シリーズなどのヒット作を生んできた武内英樹監督が実写化する映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』(公開中)。コロナ禍真っ只中の日本を舞台に、「歴史上の偉人達をAIで復活させ、内閣を作ったら?」というまさかの世界を描く本作では、徳川家康(野村萬斎)、豊臣秀吉(竹中直人)、織田信長(GACKT)の三英傑の思惑が絡み合っていく展開も大きな見どころだが、武内監督が三英傑の演出の裏側を明かした。
舞台はコロナ禍真っ只中の2020年の日本。首相官邸でクラスターが発生し、総理が急死したことから未曾有の危機に直面した政府は「歴史上の偉人達をAIで復活させ、最強内閣を作る」という一大プロジェクトを考案。内閣総理大臣に任命された徳川家康を筆頭とするAIの偉人内閣は、有言実行で瞬く間にコロナ禍の政策を推し進めていく。そんななか、テレビ局の新人記者・西村理沙(浜辺美波)はスクープをとるべく官房長官の坂本龍馬(赤楚衛二)に近づき、彼らの活躍の裏に隠された陰謀が浮かび上がっていく。
もしも家康が、秀吉が、信長が現代日本の政治家になったらどういう世の中になるのか? 奇想天外な設定の原作の魅力について、武内監督は「個人的には、後半の家康の語りがすごく響いて感銘を受けたし、考えさせられた。とても今の時代に意義のある物語だなと。全体としては設定がまず凄い。AIの偉人たちが復活して政を司るという設定はもちろん、彼らがひたすら英断を下して世の中を立て直していく話なのかと思いきや、その先に二転三転するミステリーが待ち受けている。その意表を突く展開が面白いですよね」と語る。
映画化に当たって最も悩んだのが、AIの偉人たちをどう映像化するのかということ。原作では「AIとホログラムで復活した最強内閣」とあり、記者の理沙が初めて会見で坂本龍馬の姿を目にしたときの描写として「幕末に撮られた写真の主が色鮮やかに、そして確かな実体をもって動いているのだ」「全体の輪郭が淡くぼけており、こころなしか透けているようにも思える」といった記述もある。
「映像にするにあたって「重量はあるのか?」「触った時にすり抜けていくのか」といった問題が浮上して。それはお客さんに考えさせちゃいけないなと思って。もともと台本には理沙と龍馬がすれ違ったときに体をすり抜けるといった記述があって、その撮影もして、CGも作っていたんだけど、そうすると見てくださる方はそこに目が行ってしまうのではないかと懸念が出てきた。SF映画のようなイメージは持ってもらいたくなくて、描きたかったのは“本物の家康が出てきてこんなことを言われたら現代人はどう感じるのか”ということ。従来の政治家には言えないことを彼らに言わせることが原作の強みだと思っていて、かなり悩んだのですが、そんな時に一人のスタッフが“そういう設定を全部ナシにして普通に登場させてみては?”と言いだして、“なるほど!”と目からうろこが落ちる思いでした」
三英傑を演じる萬斎、竹中、GACKTへの演出については「萬斎さんはとにかく最後の語りが1番大切。ただ萬斎さんがやってくださる以上、安心していましたし、響くお芝居をしてくださる方だと思っていたので特にこちらからお願いしたことはなくて。逆に萬斎さんの方から“どうしましょうか”と熱心に聞かれましたが、僕は最前列で萬斎さんのお芝居を見たい、そういうつもりでやっているから“自由にやってください”と。(経済産業大臣の)信長役のGACKTさんはトリッキーな役どころだったので“ビジュアル系にならないでね”って(笑)。とにかくかっこよく、ミステリアスに、狂気を感じさせてほしいとお話したら「任せてください、カッコいいのは得意です”とおっしゃっていました(笑)。(財務大臣の)秀吉役の竹中さんに関しては、国民に愛されるキャラという設定なので、TikTokとかSNSも駆使することでお茶目な雰囲気も出したいと考えて、どういうダンスをすればバズるのかなといろんなモデルを探して、“秀吉ダンス”を作ってテーマ曲も作りました」と語る。
劇中、三英傑が三者三様の舞を披露するところもお楽しみの一つで、信長と家康が同時に曲舞「敦盛」を舞う演出も映画オリジナル。もともと、萬斎が舞うシーンは台本になく、武内監督が撮影中に思いつき萬斎に相談したことから実現したという。
「萬斎さんに出ていただいているのだから舞を入れない手はないなと。そこでダメもとで“踊っていただけませんか?”とお話させていただいたらまんざらでもないご様子だったので、これは可能性あるなと。現代日本を憂う家康の神経が研ぎ澄まされて、悩み苦しんだ挙句、絞り出すかのように舞っているというようなイメージ。萬斎さんに踊っていただくことで芸術性を高められるし、そのほかにネタバレになるので詳細は伏せますが“ある重要な狙い”もあります。萬斎さん、とても真摯に取り組んでくださってGACKTさんの踊りについても“よろしければご指導しにいきましょうか?”とも言ってくださったんですけど、“逆にプレッシャーがかかりすぎるので遠慮します”とお答えしました(笑)」
偉人たちの華やかな衣装も目を引くが、扮装統括・人物デザイン監修を務めたのは武内監督と『翔んで埼玉』シリーズなどで組んできた柘植伊佐夫。柘植はドラマ「岸辺露伴は動かない」シリーズなどを手掛け、武内監督と同じく実写化困難な企画を多く手掛けてきた猛者であり、武内監督は「柘植さんがいないと僕の作品は成り立たない」と絶大な信頼を寄せる。
「その時代から抜け出てきたようにリアルなビジュアルにしたかったので、メイクもドーランを塗ったような綺麗なメイクじゃなくて、黒澤映画のようなちょっと汚したというか露骨なメイクにしたいとお話させていただきました。なので坂本龍馬も汚していますし、秀吉も少し古い感じのメイクにしています。秀吉の襟の立った金ぴかの衣装は、最初は正直やりすぎじゃないの? とも思ったんだけど、柘植さんが調べて史実にのっとって作ってくださった。家康は秀吉とは対照的に、色使いも含め少し渋めに。家康ってタヌキおやじのイメージがあるので、萬斎さんも最初は“僕、狐顔ですが大丈夫ですか?”と心配されていたんですけど、柘植さんの尽力もあって全然見えるなと。柘植さんとは毎回、二人で“どうする?”って頭を抱えていて、彼がいないと難題を乗り越えられない。次の『はたらく細胞』でもご一緒しているんですが、やはり“赤血球どうする? 白血球どうする?”と悩んでいました(笑)」
本作を通じて歴史を学び直し、260年もの間戦争がない世を築いた家康の偉大さをあらためて痛感したという武内監督。その思いが込めたのが家康と現代人の理沙が対峙するシーンで、武内監督は理沙を演じる浜辺に「歴史を学んでから家康とのシーンに臨んでほしい」とリクエスト。「原作での理沙自体もイマドキの女の子で、歴史をあまりわかっていない状態だったのが急に官房長官番をやることになって短い時間で猛勉するという設定になっている。だから浜辺さんにも理沙と同じように取り組んでほしいと思った。家康はもちろん秀吉、信長がやってきたことを理解してセリフを言わないと芝居が上滑りしてしまう気がしたし、徳川幕府がどうすごかったのかっていうのをわかった上でセリフを言ってほしいという思いがあったので」と意図を明かした。(取材・文:編集部 石井百合子)