ピート・ドクターが語るピクサーの現状と今後!『星つなぎのエリオ』に『トイ・ストーリー5』も
映画『インサイド・ヘッド2』のプロモーションのために来日したピクサー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)、ピート・ドクターがインタビューに応じ、ピクサーの現状と今後について語った。
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近年、苦戦を強いられていたピクサー。新型コロナウイルスで映画館が閉鎖となる直前に公開された『2分の1の魔法』は思うような成績を上げられず、コロナ禍の『ソウルフル・ワールド』『あの夏のルカ』『私ときどきレッサーパンダ』はストリーミングサービスDisney+(ディズニープラス)での配信、そしてコロナ明けの『バズ・ライトイヤー』が興行的な失敗に終わり、『マイ・エレメント』は最終的な世界興収は健闘したものの、米国内でのオープニング興収の低さが話題になった。今年5月にはレイオフ(企業の業績悪化を理由とする従業員の解雇)も行われている。
巨額の製作費を前提に、ふさわしいと思えるまで何度も推敲を重ねていくのが質の高さに定評があるピクサーの映画作りの秘訣だ。しかし『インサイド・ヘッド2』の公開前、ドクターは「もし本作が劇場公開でうまくいかなければ、このビジネスのやり方について抜本的に考え直さなくてはならなくなる」と結果によっては“良いものを作る”ことより“安く作る”ことを優先する体制に変えざるを得なくなりそうだとTimeに語っていた。
ピクサーの命運がかかった『インサイド・ヘッド2』だったが、ふたを開けてみればアニメーション映画史上最大の世界興行収入を上げる、これ以上ない大成功。現在までに世界興収15億2,388万9,769ドル(約2,286億円)を稼ぎ出しており、これは実写を含めても世界興収ランキング歴代10位に入る特大ヒットだ。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル150円計算)
ドクターはこの結果に歓喜するのではなく、「とてもほっとしている。心配し始めていたんだ。人々は今も映画館に映画を観に行きたいのだろうか? 家でストリーミングを観ている方がいいと思っているのかもしれない、と」と本音をこぼす。これでピクサーは安泰かとの問いには、「それはわからない。誰にも知りえないことじゃないかな。世界は常に変化しているから。だが、人々が観たい映画を作れば、彼らは今も映画館に行く、ということは感じられた」と楽観視はしていないが、希望は持てたよう。
「今までになくコンテンツが作られている現在であっても人々はまだ映画館で映画を観たいと思っているのだから、僕たちがやるべきことは“見つけること”。ピクサーがそれに対してどう具体的な答えを見つけるのか。どうすれば僕たちが作りたいクオリティーの映画を作り続けることができるのか。そうするためのお金を手にできるのかを、考えなくてはいけない」
ピクサーも一度はストリーミング寄りになったが、今はかつての劇場長編映画を作る形に戻ってきているという。「(親会社の)ディズニーはしばらくの間、僕たちにストリーミングのための企画をさせるのにすごく熱心だった。まだリリースされていないのだけど、2本やった。でも今のところは、僕たちは主要なビジネスとしての長編に戻ったといえる。それが今、僕たちがフォーカスしていることだ。続編とオリジナルのバランスを考えながら、長いフォーマットのストーリーテリングをやる。それが僕たちの強みだと思うから。ストリーミングのショーをやることで多くを学んだけどね。楽しかったよ。伝統的な三幕構成ではなくそれぞれ20分で関心を維持しないといけないというのは、間違いなく違った挑戦だったから」
ピクサーの劇場長編の次回作は、ドクターが「とても興奮している」と自信をのぞかせる『星つなぎのエリオ』だ。「宇宙人に拉致されることを夢見る少年の話だ。“孤独”について描いていて、『インサイド・ヘッド2』で扱った“不安”と同様にユニバーサルに語り掛けてくるものだと思う。孤独感は、今世界にまん延している。人に囲まれていたとしても、他人からちゃんと理解されているとは思えなかったり、深いレベルでのつながりはないと感じてしまったりする。これは、そのことについての映画なんだ」
もともと『星つなぎのエリオ』が『インサイド・ヘッド2』より先に公開される予定だったところを変更したのは、「ほとんど5作連続でオリジナルをやったから、バランスを取り直そうとした」からとのこと。続編とオリジナルはどちらかに寄りすぎるのではなくバランスが重要であり、続編をやる場合にも新しい要素で人々を驚かせたいというドクター。オリジナル作品の『星つなぎのエリオ』に続く『トイ・ストーリー』シリーズ第5弾についても、「彼ら(アンドリュー・スタントンら監督たち)は『トイ・ストーリー』のキャラクターたちとその世界で本当に楽しいことをするための新しい方法を見つけたと思う」と新たな驚きがある作品になっているようだ。
なお、『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』『インサイド・ヘッド』『ソウルフル・ワールド』の監督である自身の次回作については、「僕の映画?(笑) 今は企業の観点から解決しないといけないことがいくつかあるから……。でも何か提案できればいいなと思っている。具体的には決まっていないよ」と笑っていた。
ジョン・ラセターの退任後、CCOとしてピクサーを率いてきたドクターは自身の在任期間を振り返り、「ピクサーの最初の20作をみれば、ほとんど毎回5人の男のうちの誰かが監督しているという感じだった。だが、今は女性、海外出身の人をはじめ才能にあふれた多様な人々がいる。それでも共感できるテーマ、友達のような感じられるキャラクターたちといった、オリジナルの映画と同じものは維持し続けている。簡単なことではなかったけれど、そのことは誇りに思っているよ」と語っていた。(編集部・市川遥)