ダークすぎた『インサイド・ヘッド2』“恥”が出てくるバージョン「二度と観たくない」
ディズニー&ピクサー最新作『インサイド・ヘッド2』のケルシー・マン監督とプロデューサーのマーク・ニールセンが来日時にインタビューに応じ、一度は検討したという「Shame(恥)」が出てくるバージョンについて語った。
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前作『インサイド・ヘッド』でのライリーは11歳で、彼女の頭の中にいる感情はヨロコビ(喜び)、カナシミ(悲しみ)、イカリ(怒り)、ムカムカ(嫌悪)、ビビリ(恐れ)というシンプルな5人だけだった。しかし、本作のライリーは人生の転機を迎えるティーンエイジャーで、新たに現れた大人の感情であるシンパイ(不安)、イイナー(嫉妬)、ダリィ(倦怠)、ハズカシ(羞恥心)が彼女の中で嵐を巻き起こすことになる。
ピクサーでの映画作りは、さまざまなストーリーリール(脚本を基にストーリーボードを作り、編集して仮の音を付けたもの)を作って、語るべき物語を見つけていく形をとる。人間には27の感情があるともいわれており、マン監督とニールセンたちは実際にリールを作り、新たなキャラクターとしてシンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシ以外にも「本当にたくさん」の感情を検討したという。
ニールセンは「心理学の専門家たちとたくさん話をし、思春期に強い形で現れる感情にはどんなものがあるのかリサーチをした。制作過程で作ったたくさんのバージョンには他にもいろいろな感情がいたけれど、最終的にはティーンエイジャーが一番向き合わざるを得ず、手に余る感情、他人と比べてしまう気持ちといった“自意識”を取り上げるのがいいんじゃないかとなってね。そして、僕たちが愛せた感情たちが残ったんだ」と振り返る。
日の目を見ることはなかったが、超初期の段階でよく検討したのが「Shame(恥)」というキャラクターだったとマン監督は明かす。「思春期は自分にすごく厳しくなりがちで、“わたしは十分よくない”という考えが現れてくる。僕もそうだった。そして、それは常に対処しなくてはならないもので、大人になったら消え失せるというものではないよね。ティーンの頃より回数はずっと少なくなったし、対処するのもずっとうまくなったけれど、僕は今もそういう考えが浮かぶ時がある。だからこそ、僕たちはShameという感情を登場させるというアイデアをいじくりまわしていたんだ」
「だけどそれは、映画を信じられないくらいダークにしてしまった」とマン監督。「観るのがつらいんだ。Shameがスクリーンに出てくると、全然楽しめない。いい悪役に必要なのは、そのシーンを観たいと思わせること。でもShameはスクリーンに戻ってきてほしいと思えなかった。本当にひどい感情だ。マークと僕はエンターテインメントで、観るのが楽しい映画を作りたかった。もう1回観たいと思えるようなね。僕はそのバージョンは二度と観たくない(笑)。だけどShame、その“自分は足りていない”というフィーリングは今も映画の中に残っている。ダークなキャラクターとして表現してはいないけれどね」
本作の悪役的立ち位置となるのがシンパイだが、その感情は驚くほど優しく描かれている。マン監督は「僕はシンパイの描写の仕方をとても誇りに思っているよ。シンパイは悪役ではあるんだけど、彼女自身はそういう風には思っていない。『なぜ僕たちは不安という感情を持つのか』と専門家たちと話した時に、『それはあなたを本当に守ろうと、助けてあげようとしてそこにいる』と言われたんだ。その時に、ヨロコビとシンパイは両親みたいな感じだと初めて気付いた。何が子供にとって一番か、ということでただ争っている。どちらも愛ゆえであり、どちらもちょっと間違っているんだ」とほほ笑んだ。
そして本作には、シンパイがライリーを本当に守ろうと、助けてあげようとしてそこにいることが痛いほどわかる美しいシーンがある。マン監督は「あれは本当にラストで加えたもの。オリジナル版の脚本家のロニー・デル・カルメンのアイデアでね。彼とオリジナル版の編集者ケヴィン・ノルティングをコンサルタントとして招いたんだけど、ロニーは“両親が娘のためにただ最善を尽くそうと頑張っている”という僕たちがやっていることを観て、“だけどやりすぎてしまって後悔している”ことを示すこのアイデアを提案してくれたんだ。素晴らしいアイデアだと思ったよ。それこそ僕たちがあのキャラクターでやりたかったことだから」
「彼女はライリーを傷つけようとなんてしていない。ただ暴走してしまって、ライリーの人生で起こることに打ち負かされ、傷ついただけ。それは多くの人々が共感できることだと思う」とマン監督。「この映画を日本で公開することができてとても興奮しているよ。僕はこの映画を監督するにあたって自分の人間としての脆さについてたくさん話すことになったんだけど、ティーンエイジャーの時は“今こんなことを感じているのは自分だけ”だと思ってしまいがちだ。変だと思われたくないから、その思いを口にすることを恐れてしまう。だけど僕がそういう思いを口にするようになって気付いたのは、そうすれば他の人々も『わたしもそう! 怖くて言えなかったけど』と言うということ。どんな年齢でだってそうだけど、特にライリーの年齢では、自分は本当に独りぼっちだと感じがちだ。だからこそこの映画で“あなたは自分が考えるほど独りぼっちじゃない”と表明できたことを、とてもうれしく思っているよ」(編集部・市川遥)
映画『インサイド・ヘッド2』は公開中