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三谷幸喜監督、映画監督を続けるか否かの分かれ道を振り返る

『スオミの話をしよう』メイキングより三谷幸喜監督と、主演の長澤まさみ
『スオミの話をしよう』メイキングより三谷幸喜監督と、主演の長澤まさみ - (C)2024「スオミの話をしよう」製作委員会

 脚本家として第41回向田邦子賞を受賞した大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022)をはじめ、数々の名作を世に送り出してきた三谷幸喜。一方で映画監督としても最新作『スオミの話をしよう』(9月13日公開)で長編作品9本目というキャリアを築き上げた。過去の作品でも自身の脚本を監督する際のさまざまな思いを述べてきた三谷監督だが、第1作となる『ラヂオの時間』(1997)から27年という歳月を経たいま、改めて脚本家・三谷幸喜から見た、映画監督・三谷幸喜について語った。

長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李ら場面写真<20枚>

自分で演出するかどうかの決め手は「笑い」

 三谷と言えば脚本家、演出家、映画監督とさまざまな顔を持ち、作品へのかかわり方も役割によって変わる。脚本家としてかかわった大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では「脚本家は、物語の最初の部分を作る人間なので、どこかキャラクターの正解を持っていると思われている。そんな人間が現場に行くと、全能の神みたいな扱いになりがちなんです。物語は現場でスタッフ、キャストが試行錯誤しながら作ることで面白いものができると思うので、やっぱり行くべきではないと思っているんです」と持論を展開していた。

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 一方で、本作のように自身の脚本を自ら監督する場合もある。その違いについて三谷監督は「僕が演出までやろうと思うのは、主に笑いに関してなんです。笑いとは本当に人それぞれなので、僕が面白いと思って書いたセリフを演出家が面白いと思わなければ、俳優さんにも面白さを伝えることができない。そうすると僕は出来上がった作品にフラストレーションがたまるわけで。本当に自分が面白いと思って笑わせたいセリフやシーンがあるときは、自分で演出して、一方で人が演出するときはあまり笑いにはこだわらないようにしています」と語る。

 もう一つ、監督作で脚本を執筆する際には、ある程度の余白を持たせるという。「どう頑張っても頭の中で書いたシナリオより、現場で俳優さんたちと一緒に作っていったセリフの方が生き生きとしている。あと現場に入ってみないと分からない部分もあります。セットを見て、そのシチュエーションに合うように台本を変えることもあります。役を俳優さんに当て書きするみたいに、セットや衣装に当て書きすることもあります。そこは臨機応変にやっていきます」

脚本家として監督の自分を見つめたときに思うこと

『スオミの話をしよう』より小林隆、西島秀俊、遠藤憲一、坂東彌十郎、松坂桃李、瀬戸康史、戸塚純貴

 『スオミの話をしよう』は9本目の監督・脚本作品となる。脚本家・三谷幸喜から見た、監督・三谷幸喜はどのように映っているのだろうか。

 「脚本家として演出家の自分を見たとき思うのは『この人はそんなに演出が得意じゃないのかな……』ということ。だから余計なことをせず、脚本通りに撮ればいいんだよというつもりで書いています」

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 だからこそ、監督・三谷幸喜は「脚本家に言われるがままにやっている感じです」と笑う。映画監督としては常に「自分が監督をやっていいのだろうか……」と自問しながら作品を重ねてきたというが、大きな分岐点となったのが、映画『ザ・マジックアワー』(2008)だった。

 「あの映画で(主人公の三流役者役の)佐藤浩市さんがナイフを舐める場面がありますが、あのシーンは僕が脚本を書いているときに、すごく面白いシーンになると思っていました。(マフィア役の)西田敏行さんも脚本を読んで『あのシーンは早く撮りたいね』と仰ってくれたんです」

 実際にリハーサルでも佐藤はナイフを舐めるアイデアを複数提案し、非常に面白いシーンになる予感があったという。三谷監督自身も「このまま舞台でやっても絶対面白い」と自らの脚本に自信を深めた。

 しかし同時に「もしこのシーンを映像にしたとき面白くなくなってしまったら、僕が演出家をやる意味がないんじゃないかと思ったんです」と自らを追い込んだという。「映画監督の分かれ道に立ったような気がしました。もしもお客さんが笑ってくれなかったら、本当に演出家としての才能がないということになるので、もう映画監督を辞めようと思ったんです。脚本家としても、この演出家とはもう組まないと思うだろうと」

 そんなプレッシャーがありながら、撮影現場では「どうやったら生で見せる以上に面白くできるのか。悩んで撮ったシーンでした」と語ると「幸い、上映されたときも、劇場で皆さんが笑ってくださったようですし、いいのか悪いのかは別として、“ナイフ舐めと言えば佐藤浩市”というような声を聞きました。何とかクリアできたのかなと安堵したことを覚えています」と振り返っていた。(取材・文:磯部正和)

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