「光る君へ」恐ろしい女社会をサバイブするには?左衛門の内侍役・菅野莉央が学んだ処世術
吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で、中宮・彰子(見上愛)に仕える女房・左衛門の内侍(さえもんのないし)を演じる菅野莉央。劇中、まひろを敵視する役どころで注目を浴びているが、菅野が本作で描かれる女社会をサバイブする難しさや、演じることで感じた処世術について語った。
2歳のころから子役として活躍し、中田秀夫監督のホラー映画『仄暗い水の底から』(2002)や、『ジョゼと虎と魚たち』(2003)などで子役時代から活躍してきた菅野。大河ドラマへの出演は「風林火山」(2007)、「青天を衝け」(2021)に続いて3度目となる。「光る君へ」で演じる左衛門の内侍は、実在する女房で本名は橘隆子(たちばなのたかこ)。紫式部に「日本紀の御局」(学問に長けていることを鼻にかけているとの意)というあだ名をつけた人物とされている。
彰子の女房たちは、リーダー格の宮の宣旨(小林きな子)を筆頭に大納言の君(真下玲奈)、小少将の君(福井夏)、宰相の君(瀬戸さおり)、馬中将の君(羽惟)、第38回から藤壺に出仕した和泉式部(あかね/泉里香)らがいるが、左衛門の内侍はその中でどのようなポジションにいるのか。
「左衛門の内侍が他の女房と違っているのが、一条天皇にもお仕えしていること。中宮様と兼務している形なので、皆さんが寝起きしている部屋にもいないんです。その意味でもプライドがあるのだろうと思いますし、“あなたたちよりはちょっと格上なのよ”と思っている節はあるんだろうなと。あと出世欲、上昇志向も強いと思います。女房達の間で彰子さまが薄紅色を好むと認識されていたので(実際はあさぎ色を好んでいた)、左衛門の内侍も薄紅色の装束をまとっています。それぐらい彰子さまのことが大好きで忠誠心も強いというのもありますが、一方で彰子さまに気に入られたい、より上のポジションに行きたいというエゴの表れでもあるような気がしています」
女房装束については一人一人、基調となる色や柄が決まっているほか“マイ扇”もあるのだとか。「衣装合わせの時に“この人はこの組み合わせで”みたいな感じで、羽織るものも決められているんです。まるで制服のようで、キャストが“出勤”するとみな自分のカラーの装束のところに立って着付けしていただくんですけど、1枚1枚に綺麗な刺繍などが施されていて、それを踏んで歩くのがしのびないと思うほどで。お衣装のみならず調度品、枕周り、几帳にかかっているものなど“ここまで映るのかな”と思うような細部まで作り込まれているので、演じる側としては入り込みやすいですし、贅沢な場を用意していただいているなと実感しています。ちなみに左衛門の内侍の扇には鳥獣戯画のような柄が入っています。扇の大きさも役職、位が上がるにつれて大きくなっていて、リーダーの宮の宣旨さんの扇はものすごく大きくて、まひろさんは開き具合も狭くて小ぶりなサイズ感になっています(笑)」
劇中、左衛門の内侍は、藤壺にあがったまひろを早々から敵視。ほかの女房たちと違って身分が高くないにもかかわらず、帝(一条天皇/塩野瑛久)に献上する物語を執筆することを主な仕事とし、左大臣・道長(柄本佑)ら公卿たちがまひろを認識しているのも面白くない。宮中での生活に慣れず寝坊をしたまひろに嫌味を言ったり冷ややかな態度をとり、まひろが彰子に気に入られたことで嫉妬心がメラメラ。ある晩、まひろと道長が親密そうに話す様子を目撃した左衛門の内侍は、第36回で倫子(黒木華)と彰子のもとで働く女房の赤染衛門(凰稀かなめ)に、二人がただならぬ関係にあるようだと密告する。そうして負の感情にとらわれていく左衛門の内侍の心情を、菅野はこう分析する。
「ずっとこの狭い世界で生きてきて、自分の役割に固執している彼女にとって、まひろが入ってきたことで自分の座が脅かされることへの焦りとか警戒心みたいなものはあったと思います。実際に、自分が何年もかけて得たポジションを、この数日で入ってきたまひろにあっさり奪われてしまったわけなので。その悔しさが、突発的に告げ口という形で出てしまったんだろうなと。“怖い、これから先どうなっちゃうんだろう”と。でも、そういうことって昔も現代も同じなんだなって思いました」
今のところ左衛門の内侍はまひろの障害となる人物として描かれているが、総じて本作でどのような役割を担っているのか。
「まひろがこれまで会わなかったような種類の人物から洗礼を受ける、風当たりの強さを感じるきっかけになった人だろうなっていうのが最初にあって。そして、藤壺の中でこれまで培ってきたものや、みんなで築き上げてきたルールみたいなものが、まひろによって壊されていくというか、新しいものが生まれるために古いものが壊されていくわけですが、左衛門の内侍はその後者に当たる存在。台本から、まひろや和泉式部のように自己表現する人、自立した女性が台頭してくる女性像の変わり目のようなものがすごく感じられて、左衛門の内侍はまだ新しいものに抵抗を感じる側の象徴なのかなと思っています」
ところで、SNSでは閉ざされた世界で生きる女房たちの人間関係が「大変そう」だと注目を浴びているが、菅野も「私も多分まひろと同じで1週間ぐらいで帰りたくなると思います」と笑う。「プライベートがないことが一番辛いんじゃないかと思います。お部屋も几帳一つで区切られているだけ、という場合もありますし、常にお互いの動向が見えてしまう。みんなが何をしていたとか、どんな話をしていたとかも筒抜けですし。噂話みたいなものもあっという間に広まるだろうし、その中で生き抜くってすごい大変だし、気を使うだろうなと。かなり特殊なルールの集団生活という感じがしました」
そんなシビアな集団生活をサバイブするためには「したたかな鋼のメンタル」が必要だという菅野。撮影を通じて多くの学びもあったようだ。
「長いものに巻かれているフリをしつつ気にしないっていうしたたかさというか、賢さは必要なんじゃないかと思いました。職場として考えた時には己の職務を全うするっていうのが最もつけ込まれる点を作らない感じがしましたね。女性たちの間では余計なことを話さないっていうのもあると思います。軽く言ったつもりのことが、ものすごい尾ひれがついて人に伝わってしまったりして、大事につながりかねないので」と自分なりの処世術を展開した。(編集部・石井百合子)