「踊る大捜査線」をずっと作っていればよかった 『室井慎次』本広監督が抱いていた後悔
「踊るプロジェクト」12年ぶりの新作映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』のメガホンを取った本広克行監督が、27年の付き合いになる「踊る大捜査線」シリーズや、日本のエンターテインメントへの思いを語った。
当初、亀山千広プロデューサーと脚本の君塚良一から打診された『室井慎次』のオファーを断っていた本広監督は、「『踊る』をずっとやり続けていればよかったと思っています」と正直な気持ちを吐露。自身が求めるコメディー要素が『室井慎次』には少ないと思っただけで、「踊る」自体は「面白いんですよ。素晴らしい作品で、ほかになかなか無いです」と強調する。「いくらでも広げられますからね。室井(慎次/柳葉敏郎)さん1人でもこんなに面白くできたわけですから」
『敗れざる者』公開前、地上波でテレビシリーズ、スペシャルドラマ、劇場版シリーズが一挙再放送されていた。「思わず観ちゃうんです」と話す本広監督は、亀山プロデューサーとオンエアを観ながらチャットしていたそうで、「亀山さん、BSフジの社長さんなのに『確保だ!』って(笑)。必ず『本広、今日は観てないのか?』とLINEが来ましたから」と主要な製作スタッフである2人の深い「踊る」愛を明かした。
「踊る」シリーズがヒットしたことで、警察官志願者が増え、ドラマの作り方も変わった。刑事ドラマに“管理官”が登場し、警視庁と所轄の対立構造が描かれたりするようになったのは「踊る」以降だというのは、ほんの一例だ。「踊る」が世の中に与えた影響は非常に大きかった。本広監督は「続けたくても続けられないシリーズもあるのに、『踊る』はやれた。なのにやらなかったんです。もったいなかったな」と後悔をにじませた。
その後悔の大きな理由のひとつに、日本のエンターテインメントを収益面でも引き上げていきたいという、本広監督の思いがあった。「やはり、エンターテイメントを作るのに、賞をいただくのも大事ですけど、興行収入って大切です」と力説。「僕は『ゴジラ-1.0』の山崎(貴)監督と親しくさせていただいて、ほかにも何人か集まって『監督会』をやっているんです。興収に立ち向かっていく人たちが集まる場所なので、すごく楽しいんですよ。みんなで、『次こそ当てよう』って言ってます(笑)。そこに、僕らの目標である山田洋次監督も来てくださるんです」
「山田監督は、93歳になられたのに、もう次の作品を考えていらっしゃる。キャラクターの作り方も興行成績も、僕らはどうあがいても超えられません」と本広監督。山崎監督の『ゴジラ-1.0』は世界興収140億円超、本広監督の『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は邦画実写日本一の170億円超という驚くべき成績を持つ2人だが、山田監督が全50作を手がけてきた『男はつらいよ』シリーズは生半可なことでは超えられないだろう。「僕らが『監督会』でそういうことをご説明したら、山田さんはニヤニヤしてらっしゃいました(笑)」とハイレベルな集まりの高い目標について明かした。
邦画実写日本一というのは大記録ではあるが、あくまで「実写」であり、上位には幾本ものアニメ作品が連なる。「僕はいま、アニメの会社にいるんです。もともとアニメ志向ですから。『踊る』が当たったのは、アニメっぽい作り方と構図だったからです。『機動警察パトレイバー』であり、押井(守)イズムを引きづってますから。ファンの付き方も宣伝も、アニメの成功例を真似してるからこそ、ヒットしたんだと思っています」ときっぱり。かつては「踊る」をアニメにしたいと動いたこともあったそうで、「あんなに当たった作品はやりづらい。『無理です』とプロデューサーに言われました」と苦笑した。
ならば、『敗れざる者』『生き続ける者』をヒットさせ、その後にシリーズの主人公・青島俊作(織田裕二)、あるいはほかの人気キャラクターを主役に「踊る」シリーズを続けていけばいいのではないか? 本広監督は「そうですよねぇ。青島再登場なんていったら、(盛り上がりが)ヤバくないですか?(笑) それはもう、みなさんのお声が頼りです」と期待を込めた。(取材・文:早川あゆみ)
『室井慎次 敗れざる者』全国公開中
『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)全国公開