『ライオン・キング:ムファサ』オスカー監督が抱いた怖れ ジョン・ファヴローから継承する超実写版のDNA
ディズニー超実写版『ライオン・キング』(2019)の前日譚映画『ライオン・キング:ムファサ』を手がけたバリー・ジェンキンス監督が、「大きな責任」だったという本作の製作、超実写版における挑戦について語った。
超実写版『ライオン・キング』は、『アイアンマン』のジョン・ファヴロー監督が、アニメーションも実写も超えた新たな映像表現で主人公・シンバたちを活写した作品。前日譚となる最新作は、アカデミー賞作品賞含む3部門を獲得した『ムーンライト』(2016)のジェンキンス監督が、シンバの父・ムファサと後に悪役スカーとなる“タカ”の知られざる兄弟の絆を描き出す。
ジェンキンス監督は、スタッフ全員が『ライオン・キング』のキャラクターたちを深く愛していると前置きしながら、「僕が本当に納得しなければならなかったのは、『ライオン・キング』は、誰もが同じものを見て、同じことを感じ、同じことがわかる、世界で数少ないものの一つだということでした」と明かす。
「『ライオン・キング』はほとんど世界共通の言語のようなものなんです。もしあなたが赤ちゃんを高く持ち上げたら、世界のどこにいても、誰もが『ライオン・キング』について話していることがわかります。僕やこのプロジェクトに関わったすべての人が、そのことを認め、受け入れたことを知ってほしいです」
『ムーンライト』『ビール・ストリートの恋人たち』と実写映画のメガホンを取ってきたジェンキンス監督は、前作でファヴロー監督らが取り組んだ最先端のアニメーションを使用することに、怖れを抱いていた。「僕たちが実際の人間を使って制作した作品と同じレベルの表現や、1994年の2Dアニメーションを元にしたこの物語に人々が期待しているものを伝えるために、非常にリアルなレベルのアニメーションを使わないといけませんでした。それが最大の挑戦でした。それが、このプロジェクトを引き受けるにあたって、最も怖かったことです」
「僕たちの仕事で大事なのは、表現です。人間の顔です。人々はいつも人間の顔を見慣れています。いつも鏡の中の自分を見ています。いつも映画を見ています。TikTokをやっています。人間の顔がどういうことをできるかわかっています。筋肉が記憶しているんです。誰かが目をこすれば、顎が締まったら、歯を食いしばったら、それが何を意味するかわかります。でも、僕たちはこれらの動物の顔を見ることはほとんどありません。だから、その動きが何を意味するのかがわかる知的な引き金を持っていないんです。また、彼らの顔の筋肉の動きの限界にも慣れていません」
本作におけるジェンキンス監督の挑戦は、「動物たちの表情を引き出せるようにしなければいけない」ということだった。「ライオンをどのようにアニメートするか、彼らの顔の動かし方などです。怖かったですけど、(前作と)同じ職人たちと一緒に仕事をして『前作であなたたちが行った限界を超えなければならないけど、現実的な着地点はどこでしょう?』と言うのは、とても満足がいくことでした。というのも、本作はデジタル・アニメーションだからです。これらの動物の顔が、野生で実際にできることを模倣して作られています。でも、人間が彼らの顔の感情を認識できるようにする方法を、見つけなければならなかったんです」
また、『ライオン・キング』の素晴らしさは「物語形式のDNAにある」とジェンキンス監督。「『ライオン・キング』を作るのに、本当のトラウマ、本当の悲しみ、本当の喪失を扱わないわけにはいきません」と語り、「何かがやり過ぎだと感じられたら、1994年(のアニメーション版)を振り返り、『あなたたちがやったことを見て下さい。人々はこれを愛しています。あなたたちがやったことの奥深さを見てください。僕も同じようなことをしたいんです。僕にやらせてください』と言うんです。僕たちは時間をかけて、とてもバリー・ジェンキンス映画らしいと感じられるところにたどり着いたと思います」と自信をのぞかせた。(編集部・倉本拓弥)
『ライオン・キング:ムファサ』12月20日(金)全国劇場にて公開