『ドクターX』12年の歴史で意外な縁も…生みの親が語るキャスティングの妙
そうそうたる出演陣の演技合戦も見どころだった連続ドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」シリーズ(2012~)。完結編となる『劇場版ドクターX』(全国公開中)でもそれは健在だ。シリーズの生みの親である内山聖子(さとこ)エグゼクティブプロデューサーが、主演の米倉涼子をはじめとしたレギュラーキャスト、劇場版のゲストキャストについて語った。
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覚悟と責任が見える主役
誕生から12年、伝説のドラマがついに最後を迎える。内山は、大門未知子役の米倉とは2004年のドラマ「黒革の手帖」以来の付き合いだ。「いいことも悪いことも正直に言う人なので、私はとても信頼しています。未知子について彼女が語ったことで、気づかされたことも多いです」
「未知子は常に覚悟している、覚悟の刀をお腹に持っている。それはご本人の責任感だと思います。大げさな言い方かもしれないですけど、『これで仕事なんてやめてもいい』というくらいの思いを持って挑んでいるような感じです。だからこそ、未知子を作ってこられました」
未知子とのバディ感も見ごたえがある麻酔科医・城之内博美役の内田有紀は、内山とは今作が初顔合わせだった。
「未知子との、仲よしではないけど信頼しあっている、みたいなパートナー感がすごくいいなと思います。有紀ちゃんは、最初米倉さんともベタベタせず、私のところに来てキャラクターのイメージをしっかり伝えてくれました。有紀ちゃんにしたら初めての現場ですから、プロデューサーとしっかり話し合っておきたかったみたいで。この人も孤高の人なんだなと思いました。米倉さんとはタイプは違うけど、似ているところがあります。未知子と博美なら、絶対失敗しない手術になりますよね(笑)。そういう信頼感を持てるのが素晴らしいです」
未知子のルーツを探るのは森本しかいない
「立派な俳優になっていましたけど、新人で来たころと同じ扱いをしていました」と内山が笑いながら語るのは、森本光役の田中圭だ。今作で森本は、未知子の過去を尋ねて、広島・呉まで旅をする。「第1シリーズで最初に未知子を認めたのが光くんですから、未知子のルーツを探るのは彼しかいないと思いました。当時は、寝坊するし遅刻するし『やる気あるのか!』って言ったこともありましたが(笑)、いつの間にか大人になりました。主役とか何番手とか気にせず、喜んで出てくれましたし、あのバランス感覚のよさは圭くんの天性のものかなと思います」と紹介する。スタッフ・キャスト陣で食事に行った場合も「いい弟分をやってくれるので、ついつい使っちゃいます(笑)」と裏話を明かした。
故・西田敏行(蛭間重勝役)と、岸部一徳(神原晶役)は押しも押されぬ日本のトップ俳優で、映画の経験も豊富だ。「私たちは、テレビドラマはプロという自負がありますが、映画は知らない世界だったので、大丈夫かなと思っていました。西田さんが『テレビと映画は違うよ』と仰っていたので怖かったんですけど、完成したあとにご飯に行ったとき、目を潤ませながら『さとP(内山)、これはすごい映画だよ。あとはお客さまに観てもらうだけだよ。映画は観てもらって初めて完成するからね』と仰ってくれて。ものすごくうれしかったです。ただ、それが、西田さんとのほぼ最後(の会話)になってしまったのは、残念でなりません」と故人を偲んだ。
「岸部さんも田村(直己)監督に『ちゃんといい映画になっています。よくやりましたね』と仰っているのを聞いて。映画界のレジェンド2人に認めてもらえて、支えになりました。間違いないと思えましたし、もし間違っていても、もう思い残すことはないって(笑)」とほっとしたように打ち明けた。
予測不能な最大の敵
今作の“敵役”となる病院長と、医療機器メーカーCEOの双子を二役で演じるのは染谷将太だ。「私と田村監督が一緒にやったドラマ『生徒諸君!』に生徒役のオーディションで来て、群を抜いて上手かったので、出ていただいたのが最初です。あっという間にスターになって、同時期公開の別の映画に何本も出演しているので、『どこのキャンペーンに行くつもりですか?』って(笑)。カメレオンのような人です。憑依しちゃうんでしょうね。周りの俳優さんたちが『すごいね、あの俳優さん』ってみな驚いていました。芝居の予測がつかないんです。強烈な異物が入った感じが、最大の敵として面白いものになったと思います」と賛辞を贈った。
研修医役の西畑大吾(なにわ男子)も過去に内山がドラマで起用し、信頼している俳優の1人。「山田太一さん脚本の『五年目のひとり』に出演してもらいました。それが初めてお芝居するかどうかくらいだったんですけど、センスが抜群だったので、その後も何作もお願いしています」と明かした。
綾野剛は、キーパーソンとなる未知子の医学生時代の同期役だ。「短いシーンですけど、それだけで未知子の過去を体現しなければいけないので、そうとうに力のある俳優さんでなければいけない。私も田村監督も過去ご一緒していますし、米倉さんともNetflixドラマ『新聞記者』で共演していますから『僕でよければ』と快諾してくださいました」と喜びを表す。
「(綾野さんは、演じる河野明彦が)呉の人の役なので、『広島弁を覚えるのに時間を下さい』と仰られたときには頭を抱えました(笑)。そして次は『呉の空気を掴みたいので1週間くらい前乗り(撮影前に現地に滞在すること)させてください』って。ものすごく真面目で、やるとなったら命がけという俳優さんなんです」と続けた内山。「未知子のことをものすごく知っているように見えるでしょ? あれが彼のすごいところなんです。尊敬しています」と感謝を捧げた。
東西北北!? 縁を感じるキャスティング
キャスティングの豪華さ、見事さもシリーズの大きな魅力だ。「これは裏話ですけど」と前置きした内山は、「最初の敵は伊東四朗さんでした。シーズン2で西田敏行さんにお願いできて、シーズン3でこれ以上の敵を探さなきゃってときに、北大路欣也さんはどうだろうと思いついた。『あ! 東、西、北だ!』って(笑)。次にスペシャルドラマを作ることになって、米倉さんと戦ったことのない大物俳優を探していて、北野武さんが浮かんだとき、「方角に縁があるなあって(笑)」と歴代の敵役にまつわる面白エピソードを打ち明けた。
「この年(59歳)になると、過去にご一緒したお芝居も人間性も信頼できる俳優さんにお願いすることが多くなりますけど、はじめての方ともやってみたいですね」と語る内山。「テレビドラマに大切な時代性を知るためにも、できるだけ現場に出て、スタッフやキャストの顔を見るようにしています。取材もたくさんします。資料を読んだだけ、SNSで見ただけでは、やっぱりわからないので」。「ドクターX」も、そんなふうに作り上げられてきたのだ。(取材・文:早川あゆみ)