「光る君へ」紫式部が道長の子を産むオリジナル展開、なぜ?制作統括・内田ゆき、予想上回る反響を振り返る
吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で大きな話題となっているのが、まひろと藤原道長(柄本佑)の密やかな関係。24日放送・第45回ではまひろが初めて道長に、娘の賢子(南沙良)の実父が道長であることを告げる展開となったが、まひろが道長の子を産むドラマオリジナルの展開について、制作統括の内田ゆきがその理由を語った。
本作は、平安時代にのちに1000年の時を超えるベストセラーとなる「源氏物語」を執筆した紫式部(まひろ)の生涯を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)、ドラマ「セカンドバージン」(2010)などの大石静のオリジナル脚本で描いたストーリー。軸となるのが、まひろと、平安貴族社会の最高権力者として名を馳せた藤原道長との深い関係。二人は幼少期に出会って以来、身分の差を超えて惹かれ合い、やがてまひろは左大臣となった道長の依頼により中宮・彰子(見上愛)の女房となり、「源氏物語」を執筆する。
かつて、道長がまひろに駆け落ちを迫ることもあったが、道長は左大臣・源雅信(益岡徹)の娘である倫子(黒木華)と、まひろは父・為時(岸谷五朗)の友人である宣孝(佐々木蔵之介)と結婚した。それでも二人の愛が断ち切られることはなく、7月14日放送・第27回ではまひろが道長の子を出産。まひろはその事実を道長に隠していたが、11月24日放送・第45回では大宰府に発つことを道長に告げた際、「わたしは去りますが賢子がおります。賢子はあなた様の子でございます」と打ち明けた。そもそも、まひろが道長の子を身ごもる展開にした理由はどんなことだったのか?
「『源氏物語』が不義密通の文学とも言われていることです。史実では、賢子は宣孝の子なんですよね。でも大石さんともお話するなかで“道長の子ということもありうるのでは”といったことをお話していて。なぜ『源氏物語』で不義密通の話が描かれたのかというのは長年の研究において大きな謎らしいのですが、そんなことを考えたときに、作者の中にそうした経験があるというのは極めて自然なことではないかと。さらに重要な目的は、主人公のまひろに業を背負わせることです。不倫を描きたいというわけではなく、まひろの中にどうしても抱えていかねばならないものがあるという設定を作りたいと思ってあのような展開にしました。結果的には“宣孝がめっちゃかっこいい”という状態にもつながったので、良かったと思っています」
脚本づくりにおいて大石と最も頭を悩ませ議論を重ねたのも、まひろが道長の子を産む展開だったという。
「議論を重ねたところはたくさんあるんですけど、やはりそこが大きかった気がします。まひろの人生の緩急、そして道長の人間性をどう動かすかというのは、悩みながら進めていきました。というのも、歴史上で伝わる道長像、権力の頂に立った男性って、ある意味であまりリアリティがないんですよね。わたしたちは道長の少年時代から描いているので、その彼が権力の頂点に立つとは何なのか、息子に継承するというのはどういうことなのかといったところをうまく、なおかつまひろも絡めながら描いていくというのは難しいところではあったなと思います」
昨年12月に行われた本作の第一回の試写会で、内田が「1976年放送の(平将門を主人公にした)『風と雲と虹と』に次いで2番目に古い時代。なおかつ、貴族社会が中心で合戦がほとんどない物語は大河としては初めてになります。また、大河ドラマは男性の主人公が多いのですが、女性主役としては『おんな城主 直虎』以来7年ぶりです。ほぼ史料の残されていない主人公を描くという意味でも、非常にチャレンジングな題材」と話していた。放送開始後、まひろと道長のラブストーリー展開は予想を超える反響だったというが、内田はこの反響をどのように見ているのか。
「もともと“大きな合戦はないけど観てしまう”というのは狙っていたところではありますが、こういう風に見ていただけるといいなと思っていた通りになったといいますか、想像を超える反響があったように思います。我々が考えていた以上に大石さんが『源氏物語』のように多種多様なキャラクターを書き分けてくださったので、視聴者の方それぞれに“推し”というか、お気に入りの登場人物もいらっしゃるようですし、登場している期間が短かったとしても心を寄せていたら次も観てしまうと、 うまく繋いでいけているのかなと思います。あとは、平安はこれまでの大河ドラマでほとんど描いていない時代なので、そういったところも好意的に受け取っていただけたのかなと。宮中の女房たちの生活ですとか、美術チームが細部にわたって心を砕き、誰が何を言うでもなく積極的に勉強しているんですよね。登場人物の心情に視聴者がスムーズに入っていくためには、主人公が本当に平安の世を生きているように見えることがすごく大事なので、そうした陰の努力が結実した結果なのではないかと思っています」
第45回で、まひろに代わって娘の彰子に仕えることとなった娘の賢子を遠くから見て、苦悶の表情を見せた道長。まひろに別れを告げられ間もなく出家してしまったが、二人の愛はどのような終着点を迎えるのか……。(編集部・石井百合子)