「刀伊の入寇」の英雄・隆家のキーアイテムは竜!「光る君へ」大宰府編セット美術の裏側
吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)の24日放送・第45回より、主人公・まひろ(紫式部/吉高)が大宰府に向かうこととなり、そこでは大宰権帥(だざいのごんのそち)となった藤原隆家(竜星涼)との交流、そしてかつてまひろを裏切った宋の見習い医師・周明(松下洸平)との再会が描かれた。本ドラマの山内浩幹チーフデザイナーと、大宰府編のセットデザインを担当した枝茂川泰生デザイナーが、岩手県奥州市江刺にあるテーマパーク「歴史公園えさし藤原の郷」でのロケを交えたセットの裏側を語った。
「源氏物語」を娘の賢子に託し、旅に出たまひろ。第46回では、まひろが新たな人生を送るため「源氏物語」の中で描いた場所、そして筑前守・大宰少弐として亡き夫・宣孝(佐々木蔵之介)が暮らしていた大宰府を訪れる。そこでまひろが出会う人々の一人が、藤原隆家。目の病を治癒する目的のため大宰府に赴き、大宰権帥となった彼は、道長(柄本佑)の口添えあり、訳アリな様子のまひろを手厚くもてなす。
大宰府は、白村江の戦い以来、大陸に対する対外防備及び九州を総管するために筑前国筑紫郡に置かれた役所。隆家は、その権帥に任ぜられた。美術チームは政庁跡、大宰府展示館、九州国立博物館、鴻臚館跡など現地を取材。平安京に次ぐ西の都のスケールを表現するため、「歴史公園えさし藤原の郷」でのロケと、NHKスタジオの双方で撮影を行った。大宰府が中国との外交の窓口であったこと、そして大宰府を象徴する梅を連想させるとして、テーマカラーを赤に定めた。また、このドラマで初めて植栽にソテツを取り入れ、京との違いを表現している。
とりわけこだわったのが梅だと言い、枝茂川は「梅は菅原道真公がこよなく愛したとされていますし、花の咲かない季節でも造花を飾ってめでている、楽しんでいるというような表現をしました。造花に関しては造園スタッフが本物の梅の枝に赤と白の紐をそれぞれ300本ずつ、合計600本結ぶという作業が行われました」と話す。
隆家の執務室で目を引くのが「竜」をモチーフにした調度品。唐三彩の花器の取っ手、青磁の香炉、白磁の練り香入れ、印などさまざまなアイテムが「竜」仕様となっている。枝茂川は、その意図を「隆家の荒々しさを表現したかったこともありますが、竜といえば中国の皇帝のシンボルなので中国的要素を感じさせるものとしても竜がよいのではないか。また、四神(玄武・蒼龍・朱雀・白虎)の一つでもあるので」と語る。なお、執務室含め政庁全体がテーブル&椅子のスタイルとなっており、隆家のデスク周りには花氈(文様をあらわした羊毛製のフェルト敷物)が敷かれている。
そして、隆家といえば「刀伊の入寇」。1019年(寛仁3年)に起こった外国の海賊による九州地方への侵攻であり、当時、大宰権帥だった隆家が九州の豪族や武者を束ねて撃退。現地では、隆家は「英雄」と崇められている。本作で合戦シーンが描かれるのは初となり、海戦は伊豆下田ロケで、警固所は「えさし藤原の郷」のロケとスタジオセットで撮影された。
山内は前置きとして、日本に攻め入ってきた異国人たちについては「海賊」「国の軍隊」など諸説あることから、本作ではあえて国籍を定めずに描いたという。
「ある方は“寄せ集めの海賊ではこんな数の舟と人数は操れない、国家の作戦としてやってきた軍隊である”と。目的に関してはさまざまな見方があるので、ドラマではその点や国籍を限定せず、例えば舟は銅鑼やカラフルな吹き流しを飾ったり、一部赤い色を塗ったりして日本とは違う民族の舟がやってきたことを表現しています。ちなみに、舟は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(壇ノ浦の戦い)から一部流用しています」
また、戦の表現においてポイントとなるのが「武士の時代以前の戦い」であること。山内は「あえて強固な防御にはしませんでした。柵を飾ったり陣幕や旗などいわゆる戦国時代を思わせる飾りは一切していません。攻撃は弓を中心に、防御面では奈良時代から伝わる「隼人の盾」のデザインを参考に楯を作りました。また、警固所のセットには弓の名手・隆家の象徴として、鏑矢などを用いた衝立てを飾りました。この鏑矢は射ると音が出るのですが、敵がその音に驚いて逃げたという逸話もあるので、ぜひその鏑矢を印象的に取り入れたいと、隆家の背景に飾っています」と話す。
なお、隆家の鎧は黒が基調となっており、衣装や執務室の御簾なども同様。隆家が軍を率いて警固所にやってくるシーンは、「えさし藤原の郷」の城門を警固所の門に見立てて撮影された。
「歴史公園えさし藤原の郷」では、大河ドラマ「炎立つ」(1993)をはじめとする数々の大河ドラマの撮影が行われており、『映画刀剣乱舞-黎明-』『首』『陰陽師0』などの映画でも使用されている。(取材・文:編集部 石井百合子)