尾上右近&松田元太、魂をかけて挑んだ初声優 『ライオン・キング:ムファサ』で混ざり合う才能【インタビュー】
映画『ライオン・キング』のはじまりの物語を描くディズニー最新作『ライオン・キング:ムファサ』。超実写プレミアム吹替版で声優を担当したのは、歌舞伎界の若きプリンス・尾上右近(ムファサ役)と、Travis Japan としても活動する松田元太(タカ役)だ。お互いを「げんげん」「けんけん」と呼び合うほど息ぴったりな二人がインタビューに応じ、初挑戦となった声の演技に対する手応え、人生においてモットーにしていることを語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
【動画】『ライオン・キング:ムファサ』超実写プレミアム吹替版本予告
『ライオン・キング:ムファサ』は、『ライオン・キング』の主人公シンバを命がけで守ったムファサと、彼の命を奪ったスカーの若かりし頃の姿を描く物語。孤児から王へ運命を切り開くムファサと、彼の運命を変えるタカ(後のスカー)の血のつながりを超えた“兄弟”の絆に隠された、驚くべき秘密が明かされる。
大和田伸也のムファサは「すごく大きな存在」
Q:(右近さんへ)ムファサの吹替えは、大和田伸也さんが長年担当されてきました。字幕版でムファサ役を務めたアーロン・ピエールさんはアニメーション版や超実写版のムファサ(ジェームズ・アール・ジョーンズさん)をあえて意識せずに声を作ったそうですが、右近さんはムファサの声をどのように構築していったのでしょうか?
尾上右近(以降、右近):あえて意識することよりも、自然と(ムファサに)なっていく気がしました。というのも、初めての声優のお仕事であり、 シーン数も多かったので、ムファサを一生懸命演じようという気持ちでいっぱいいっぱいでした。何かを意識して、そこを目がけて狙っていくよりも、迫りくる課題に向き合ったことで辿り着いた結果です。
自分が身を置く歌舞伎界にも、風習みたいなものがあります。必ず何かの影響を受けて、0から1というよりは、何か一つに影響を受けて、自分なりに1から10にしたり、20にしたりとかする作業をしているので、本作でも(大和田さんの)影響はもちろん受けていると思います。
大和田さんのムファサは、僕にとってもすごく大きな存在です。本作は大和田さんが演じたムファサの遥か昔の物語ということで、あのムファサとは違うけれど、つながっているところはあります。収録では、本国の声優さんの声を聞きながら吹き込むので、トーンやニュアンス、 声の温もりは自ずと意識していたと思います。ですが、あえて自分から強く意識することではなく、それを自分のものにする余裕もなかったのが正直なところです。
Q:声を吹き込んでいく中で、ご自身が演じたムファサのイメージが確立した瞬間はどこでしたか?
右近:最終日に、ようやく自分なりの型みたいものが掴めた感覚がありました。「この感じでいけば全て整う」ような、自分の色が決まった瞬間を感じて、最初に収録したパートに戻って、リテイクをしたりしました。そこで、ようやく自分なりのムファサの声ができた気がしました。
自分がタカだという気持ちでトライ
Q:(松田さんへ)メガホンを取ったバリー・ジェンキンス監督は、この作品で「スカーの心の傷がどのようにして生まれたのか、その心の傷がどこから来たのかを探求する」と語っています。後にヴィランとなるタカの内面を声で表現するにあたり、松田さんはどんなことを意識されましたか?
松田元太(以降、松田):タカからスカーへと変わっていく瞬間は、難しさもありました。僕は人一倍タカに愛情を注いでいて、タカの感情、気持ち、彼が見る景色とかを自分の中で解釈しました。字幕版の声優さんの声色やトーンを聞いて、「この時のタカは悲しんでいて、声がかすれている」「ここは呆れているから声がかすれている」などさまざまバリエーションを勉強させていただきながら、自分がタカだという気持ちで真っ向勝負でトライしました。ディレクションしてくれるスタッフさんにも、「ここは(声のトーンを)少し上げた方がいい」「次の言葉は逆に下げた方がより感情が伝わる」といった的確なアドバイスをいただきながら、 魂をかけて挑みました。僕も、最初に録ったものより、後に録ったものの方がいい意味での慣れやナチュラルな感じがあったので、リテイクさせていただきながら収録しました。
Q:スカーはディズニー作品における名ヴィランとして知られていますが、彼にも魅力的なストーリーがあります。タカに声を当てて、改めてスカーの物語を観返した時、 松田さんの中でスカーの新たな魅力を発見できたりしましたか?
松田:タカの時代があったからこそ、スカーとのギャップがすごくて、 確かに悪いことはしたかもしれないんですが、ムファサとの兄弟の絆や愛は消えずにいて、スカーの傷ができる瞬間も痺れます。スカーはそんなに嫌なやつじゃないのかもしれないと、今も思って観ています。この作品で、ますますスカーが好きになりました!
尾上右近&松田元太の“モットー”とは?
Q:お二人が演じたムファサ、タカの好きなところ、またキャラクターのセリフや行動でご自身と重なる部分はありますか?
右近:子供の頃に両親と一緒に過ごしていた故郷の思い出が、香りで蘇るシーンが好きです。ムファサにも、埋まらない孤独があるんだということを思いました。僕もムファサの感覚がわかるんです。この仕事をさせていただく上で、中村獅童さんから「けんけんにしかわからない感情、けんけんにしか抱けない感覚が、表現の上で重要なものになる」というお言葉をいただいて。ムファサもその感覚を持っているので、そこは共感しました。孤独をぬぐうために、みんなの力を信じて、信じることによって力を引き上げて、円(サークル)の中心に立つことができるっていう能力が高い。それがムファサなんです。
松田:スカーになる前のタカは無邪気で、思いついたらすぐ言葉にしてしまう可愛らしい一面もありながら、少し身勝手な部分もあり、でも友情や愛、男としての大切さもしっかり持っています。タカにとってムファサの存在は大きいですし、兄弟という間柄ですが、タカ自身もムファサをリスペクトする部分はたくさんあります。僕も先輩方や同世代のメンバーを尊敬しているので、そういった部分と重ねてタカと向き合いました。自分と似ている部分があるので、タカがより好きになりました。
Q:『ライオン・キング』といえば、ティモンとプンバァが「ハクナ・マタタ」 (スワヒリ語で「どうにかなるさ」「くよくよするな」)をモットーに暮らしていますが、お二人も「ハクナ・マタタ」のようにモットーにしていることはありますか?
右近:「七転び八起き」というか“七転び八起きせざるを得ない”です(笑)。毎回(仕事で)落ち込んだりした時は、何度でも立ち上がって「やるぞ!」っていうより、立ち上がらざるを得ないという状態で生きています。やるべきこと次から次へと迫り来るので、切り替えというよりは、「一旦置いておいて」というイメージです。
松田:「っしゃぁ!」です。僕も切り替えられるタイミングと、できないタイミングはあります。落ち込むことはめちゃくちゃありますが、別に見せる必要もないといいますか、自分の中で「一旦置いておいて」とできたり、先輩などに「助けてください、どうしたらいいですか?」と相談できる時は、とにかくいろいろなことを聞いて、「当たって砕けろ!の精神でいます。恐れていてもダメなので、「とりあえずチャレンジしてみよう!」という気持ちで、ダメだったら「すみません! ダメでした!」と次に行きます。
『ライオン・キング:ムファサ』は全国公開中