ジェイソン・ステイサム主演『ビーキーパー』音響監督、ゆりやんの配役は「完璧」洋画吹替の魅力と難しさ
ジェイソン・ステイサム主演の最新アクション映画『ビーキーパー』(全国公開中)で同時上映される日本語吹替版の現場に参加。演出を担当した音響監督・高橋剛が、本作のゲスト声優への期待と共に、洋画吹き替えの魅力を語った。
【画像】これでもただの養蜂家です!『ビーキーパー』フォトギャラリー
『ビーキーパー』は、田舎町で養蜂家(ビーキーパー)として暮らす元特殊工作員、アダム・クレイ(ステイサム)が、恩人の全財産を奪った詐欺集団に鉄槌を下すリベンジアクション。ステイサム役でお馴染みの山路和弘をはじめ、白石涼子、木下浩之らが日本語吹き替え版で声優を務める。
洋画吹替の難しさ
劇場、ビデオ、DVD、機内放送、テレビ放送など、あらゆるメディア向けの吹替版を演出してきた高橋監督。山路をはじめ、数多くのベテランが活躍する洋画吹替について「お芝居を仕事にしている方でも、外画(洋画)のアテレコはすごく難しいといいます」と語る。
「やはり他人の芝居に声を当てるっていうのは非常に難しい。同時録音じゃなかった時代は、後から自分のセリフを入れることはありました。今も特撮番組ではやっていますけど、それも声を当てるのは自分の芝居です。だから、ドラマなどで活躍されている方をいきなりこの世界にもってきても、なかなかできるものではないと思います」
実際、この日は劇中でモブキャラクター(その他大勢)が発するセリフの収録を体験したが、たった一言のセリフを当てるだけでも相当に難しい。高橋監督から、一瞬画面に登場するだけのモブが置かれた具体的な状況やシチュエーションについての丁寧な説明があり、何とかOKをもらう。
「映像に合わせるのは基本なんですが、自分が演じるキャラクターがどんな表情をして、誰に向かって話しているのか、お互いの距離感はどのくらいなのか、どんなシチュエーションにいるのか……といった要素を意識しないといけない。体は(アフレコ)ブースの中にいますが、映画の世界に身を置かないといけないので、その中で芝居するっていうのはプロの俳優でも難しいと思います」
「特に劇場にかかる場合は大きいスクリーンに映るので、口の動きがかなり目立つんです。だから(劇中の俳優の)口の動きとしっかり合わせないと、ちょっと不自然に見えてしまう。テレビで観るソフト用の映像なんかであれば、そこまでシビアでなくとも気にならないんですけどね」
豪華声優共演!テレビの時代
テレビで放送される洋画では、吹替声優陣によるアドリブを楽しむファンも多かったが、高橋監督は 「それはテレビ番組としての使命感でやっていた部分があると思います」と語る。「テレビは基本的には1回きりのオンエアで、再放送まで何年もかかることがありますから、その時にやれる面白いことを全部やってしまおうというスタイルが主流でした。『ポリスアカデミー』や『Mr.BOO!ミスター・ブー』のようなコメディー映画でも、チャンネルを変えさせないために『どうやったら面白くできるか』を第一に考えるんです」
「今はテレビでも劇場版として制作されたものを放送することが増えました。先ほどのリップシンクのこともありますし、字幕との整合性を取る必要もあるんでしょう。『原音にないことは入れない』『原音と違うセリフにしない』ことが増えましたね」
また、テレビ放送では、ベテラン声優同士の共演も楽しみのひとつだ。高橋監督も 「クリント・イーストウッドの『スペース カウボーイ』を日本テレビでやった時なんか、もう、レジェンド級の声優を総動員しました。イーストウッドやトミー・リー・ジョーンズといった大物俳優たちが出演する作品だったので、それに見合う声優陣を揃えたんです。山田康雄さんはもう亡くなられていたので、イーストウッドに野沢那智さんをお呼びして、菅生隆之さん、広川太一郎さん、青野武さんにお願いして。本当に50年前のスタジオのような面子(笑)。和やかな雰囲気で進行して、本当に楽しい現場でした」と当時を振り返る。
ゲスト声優に期待!
一方、昨今は芸能界からゲスト声優が起用されることも多い。声優ではなくても声がマッチするゲストについて、高橋監督は「たぶん、人の芝居に合わせることに対する拒否反応がない方なんでしょう。経験のある方でも、それが難しいという方はいるんです。中には、芸が荒れると拒否反応を示す方までいます」と語る。
「すごく真摯に向き合ってくださる方もいます。オファーを受けた直後から、吹替台本になる前の段階から台本を読み込んでセリフも全部覚えて、移動中もずっとDVDを観て研究されて。収録では台本がいらない状態にしてきた。セリフもいっさいかまないので、その方のために2日分のスケジュールを取ってたんですが、1日もせず終わったこともありました」
『ビーキーパー』では、Netflixシリーズ「極悪女王」の演技が絶賛された、ゆりやんレトリィバァが、ステイサム演じるクレイの後任ビーキーパー・アニセットの声を担当。メタリックなピンクコートに身を包み、クレイを襲撃する戦闘狂というキャラクターで、高橋監督は 「ああいうワンシーンの助っ人的なポイントでゆりやんさんが登場するというのは、個人的にすごく楽しみです。『極悪女王』も面白かったですし、あのノリでやってくれたら最高。メインの役だともっと大変な部分があったかもしれませんが、僕にとっても希望通りの、ぴったりな役をアテていただきます。ゆりやんさんならきっと完璧にやり遂げてくれると思います」(アフレコ収録前に取材)と期待をかける。(編集部・入倉功一)