2024年後半の成功作・失敗作…期待のヒーロー映画で残酷なほど明暗
2024年もいよいよ終わり。昨年の俳優と脚本家のダブルストライキの影響をもろに受けた今年の映画興行だったが、盛り上げてくれる大ヒットもあった。その一方で、大きな期待にそぐわずファンをがっかりさせた作品も。今年7月から12月までに北米で公開された作品の、現地での成績表を見てみることにしよう。(数字は27日時点の Box Office Mojo 調べ、1ドル155円計算)(文:猿渡由紀)
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アメリカで今年ボックスオフィスの首位を飾ったのは、ピクサーの『インサイド・ヘッド2』。だが、これは6月公開作品なので、前半扱い。後半での最大ヒットは、今年2位の『デッドプール&ウルヴァリン』だ。
製作費は2億ドル(約310億円)、北米興収は6億3,600万ドル(約986億円)、全世界興収は13億ドル(約2015億円)。ピクサー同様、マーベルもここのところ期待を下回る作品が続いていたので、6月と7月、立て続けにこれらの作品が成功したのは、ディズニーにとって素晴らしいニュースだった。『デッドプール&ウルヴァリン』は北米ではメル・ギブソン監督の『パッション』(2004)を抜き、R指定映画で史上最大のヒット作となった(※インフレ調整なし)。
ディズニーは、『モアナと伝説の海2』でも満足のいく結果を得た。製作費は1億5,000万ドル(約233億円)、全世界興収は今のところ8億ドル(約1,240億円)だが、クリスマスから年末年始にかけてのかきいれ時にもっと数字を上げるのは確実。喜びはますます膨らむことだろう。
ユニバーサルは、『ウィキッド ふたりの魔女』と『野生の島のロズ』を成功させた。前者はブロードウェイミュージカルの映画化作品。製作費は1億5,000万ドル(約233億円)、全世界興収は今のところ5億8,600万ドル(約908億円)。これからのホリデーシーズン、そして来年3月に公開を控える日本で、どこまで数字を伸ばしていくか注目される。2部作のパート1で、上映時間は2時間41分もあるが、観客、批評家ともに満足度は抜群で、オスカーでも大健闘しそう。アニメーション映画『野生の島のロズ』は7,800万ドル(約121億円)の予算に対し、これまでに全世界で3億2,400万ドル(約502億円)を売り上げ、すでに続編にゴーサインが出ている。賞レースでも健闘中だ。
パラマウント作品では『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』と『スマイル2(原題) / Smile 2』、ワーナー作品では『ビートルジュース ビートルジュース』がヒット。『ビートルジュース~』は、日本を含む海外ではそうでもなかったのだが、北米では大歓迎を受け、3億ドル(約465億円)近くを稼いでいる。製作費は1億ドル(約155億円)、全世界興収は4億5,000万ドル(約698億円)だ。
ソニー配給作品では、『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』が予想を上回るヒットとなった。ロマンチックコメディーのように始まるが、物語はやがてDVという暗いテーマに移行していく。製作費は2,500万ドル(約39億円)、世界興収は3億5,000万ドル(約543億円)。原作がもう1作あるので、普通ならばすぐさま続編をとなるところながら、公開時からあった主演のブレイク・ライヴリーと監督兼共演者のジャスティン・バルドーニの不仲説が今や訴訟沙汰にまでなってしまい、その希望は絶たれた。この舞台裏の話は壮絶すぎて、映画そのものより興味深い。
さて、次にがっかりだった作品を見てみよう。最初に挙げられるのは、やはり『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』だろう。2019年の『ジョーカー』は、5,500万ドル(約85億円)というスーパーヒーローものとしては低い予算で作られ、R指定のハードルがあったにもかかわらず、10億ドル(約1,550億円)を売り上げてみせた。オスカーにも作品賞を含む11部門で候補入りし、主演男優賞と作曲賞を受賞している。しかし、この続編は1億9,000万ドル(約295億円)の予算に対し、全世界で2億ドル(約310億円)しか売り上げなかった。宣伝費などを考慮すると、完全な赤字。賞レースにおいても期待できない。
スーパーヒーローものでは、ソニーの『クレイヴン・ザ・ハンター』も大コケだった。製作費は1億1,000万ドル(約171億円)、全世界興収は現在までにわずか4,400万ドル(約68億円)。アーロン・テイラー=ジョンソン、ラッセル・クロウ、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の悪役として光ったフレッド・ヘッキンジャーなどキャストは豪華なだけに、なんとも残念だ。
名監督の野心作にも、思ったようにいかなかったものがある。その一つは、フランシス・フォード・コッポラ監督の『メガロポリス(原題) / Megalopolis』。アダム・ドライヴァーをはじめとする素晴らしいキャストを揃え、カンヌ国際映画祭という華やかな場でお披露目されたが、製作費1億2,000万ドル(約186億円)に対し、世界興収はなんと1,300万ドル(約20億円)という驚くほど低い数字にとどまった。
また、ジェイソン・ライトマン監督の『サタデー・ナイト(原題) / Saturday Night』も、製作費3,000万ドル(約47億円)に対し、全世界興収980万ドル(約15億円)とかなり厳しい。今年50周年を迎えた大人気コメディー番組「Saturday Night Live」の初回の舞台裏を描くもので、この番組に愛着があるアメリカ以外では難しいかもしれないことはわかっており、賞レースに絡むかどうかが決め手だったのだが、今のところそこでも苦戦。評価自体は悪くないが、日本公開の希望は薄れていっているように思われる。
ほかには、イーライ・ロス監督の『ボーダーランズ』が、ケイト・ブランシェット、ケヴィン・ハート、ジェイミー・リー・カーティス、ジャック・ブラック、エドガー・ラミレスという豪華キャストを誇るにもかかわらず、撃沈した。製作費は1億1,500万ドル(約178億円)、全世界興収は現在までに3,200万ドル(約50億円)。
大失敗とは言えないながら、もうちょっと行ってくれると思われたのにという、中途半端な作品もある。たとえば、『ライオン・キング:ムファサ』。公開されたばかりなのでまだ最終の数字はわからないが、製作費2億ドル(約310億円)に対し現在の全世界興収1億9,700万ドル(約305億円)というのは、かなり遅いペースだ。1994年のオリジナルアニメーション『ライオン・キング』とジョン・ファヴローが監督した2019年の超実写版は全世界でそれぞれ9億8,100万ドル(約1,520億円)、16億6200万ドル(約2,576億円)を売り上げたが、そこに到達するとは到底思えない。
やはり人気シリーズの新作である『トランスフォーマー/ONE』も、大きなファンの支持を得られなかった。アニメーション版である本作の製作費は7,500万ドル(約116億円)とそう高くなく、全世界興収は1億2,900万ドル(約200億円)なのでコケたとも言えないのだが、賞レースからも完全に離れてしまっており、フランチャイズの拡大には至らなかった。
そして、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』。全世界で4億ドル(約620億円)の売り上げを出しているのは十分立派ながら、製作費が2億5,000万ドル(約388億円)もかかっているためあまり利益は出ていない。リドリー・スコット監督は3作目にも意欲を示しているが、果たして実現するのか。スコット監督はもう87歳。今すぐの決断が待たれる。