ティルダ・スウィントンが語る女友達の重要性「常に自分のシスターズを探していた」
第81回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を受賞した映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』のティルダ・スウィントンが来日時にインタビューに応じ、親友役のジュリアン・ムーアとの共演から、本作でも描かれるシスターフッドの重要性までたっぷり語った。
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が手掛けた『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、病魔に侵されて安楽死への段取りを進めるマーサ(ティルダ)と、彼女と久々に再会したかつての親友イングリッド(ジュリア)が過ごすかけがえのない最期の日々を描いた人間ドラマだ。死を前にさまざまな記憶がよみがえって言葉があふれ出すマーサと、それを受け止めるイングリッド。ティルダとジュリアンという演技派が演じているだけに、2人の対話シーンには観客を引き込む力がある。
相手役が素晴らしい演技をすることで、自分の演技もどんどん良くなっていくものなのか? との問いに、ティルダは「ジュリアンは素晴らしい役者ですよね。それはなぜなのか、わたしが答えるとすれば、彼女は共演者と上手にダンスをすることができ、相手に完全に注意を払っているからです。だからうまくいくんですよね。本作に出演しているジョン・タトゥーロもそうですし、もしかしたらそれはわたしにも当てはまるかもしれません。だから、“より良い演技”になるかというのはちょっとわからないのですが、少なくとも相手に対する反応はより敏感なものになります」と切り出した。
「それはつまるところ、“相手とプレイできる”という意味でもあります。なので、レベルがどうこうっていうことではなく、コミュニケーションなんだと思います。一緒に仕事をし、互いの言葉に耳を傾け、互いの言動に反応し合い、互いとダンスをする。ジュリー(ジュリアン)との仕事はおそらく毎回非常に興味深いものになると思いますが、特に今回は大きな喜びがありました。なぜかというと、ペドロ(・アルモドバル監督)は撮影のスピードがものすごく速かったんです。でもわたしとジュリアンはもう少しゆっくりしてほしい、もっとテイクを撮ってほしい、もっと遊びたい、プレイしたいという風に思っていました」
「しかも、結構ドラマチックな長回しのシーンもありました。例えば、わたしが6分間話さなければいけないシーンがあっても、多分ペドロはあとワンテイクぐらいしかさせてくれないだろうなと感じることがあったり。なので、ジュリーとわたしは、まるで船が沈没してしまって、最後に浮かんでいる木片にすがりつく残りの2人のような状況で、必死にしがみついていました。即興をずっとしていたかのような感覚でしたね。だからこそ、互いに支え合っていました。本当にそれは素敵なことでした。他の誰かがイングリッドを演じているところは全く想像できないし、ペドロに『誰がイングリッドを演じたらうれしい?』と聞かれた時に、頭の中にはジュリーのことしかなかったんです。だから、彼女が受けてくれて本当にうれしかったんです」
本作の核には、女性同士の美しい友情がある。4人きょうだいで自分が唯一の女性だというティルダにとって、シスターフッドは昔から重要なものだった。「わたしは常に自分のシスターズを探していましたし、実際、女性の友達は、わたしの人生においてとても重要な存在なんです。それは多くの人にとってもそうなのではないでしょうか。血のつながりも超越して、シスターにしか分かち合えないことがあると思うんです。特に人生ある程度生きるとね」
「ちなみにこれはジュリアンとわたしで大分話し合った部分でもあったのですが、人生のあるステージになると、多分多くの方が経験しているんじゃないかと思うのですが、若い頃の知り合いと再会することがあります。20年くらい会っていなかった人と、あらためて繋がることができたりする。そして、その絆ってものすごく美しいものなんです。もしかしたら、その空白の期間は毎日会っていた期間よりも美しいかもしれない。なぜなら、自分の若かった頃とあらためて繋がっているように感じるから」
「ここ数年一緒に仕事もしているジョアンナ・ホッグ(イギリスの映画監督、脚本家)はわたしの大親友の1人ですが、出会いはわたしが10歳、彼女が11歳の時。この絆は、他の何物とも比べられないものです。互いをジャッジするようなことが全くなく、2人が完全に自由でいられて、相手が永遠に自分のためにいてくれて、自分が何をしようとそれは変わらないということがわかっているから、ありのままの自分を見せられる。結婚も子供たちも、仕事も、住んでいる国とかあるいは住んでいた国とかも、そういったものは関係ないんですよね。そういったものって、ほんの些細なものだと思います」
「でもこうした絆は真に永遠のもの。特にマーサがイングリッドに思いを告げる瞬間ではそうです。イングリッドは死を恐れているにもかかわらず、互いに影響を与え合う──それがこの物語の最も美しいところの一つだと思います。イングリッドは死への恐怖に関するベストセラー本を出したばかりで(何よりも死を恐れているのにもかかわらず)、マーサに『自分が死ぬ時に隣の部屋にいてほしい』と頼まれます。マーサもおそらく自分1人きりでは実行できないのでは? と思っているはずです。でも、自分ができないと思っていることを実行する力を、互いが互いに与え合う。それこそ本当の愛であり、無条件の愛を形にしたものだと思うんです」(編集部・市川遥)
映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は1月31日より公開