三山凌輝を主演に起用した理由は?『誰よりもつよく抱きしめて』内田英治監督が素顔を明かす

ダンス&ボーカルグループ、BE:FIRSTのメンバー・RYOKIとしてカリスマ的な人気を博しながら、連続テレビ小説「虎に翼」などで俳優として頭角を現していく三山凌輝。彼にとって7本目の映画で、久保史緒里(乃木坂46)とダブル主演を務めたラブストーリー『誰よりもつよく抱きしめて』が公開中だ。本作で自らの希望により三山を主演に迎えた内田英治監督が、キャスティングの理由や俳優としての魅力を語った(※一部ネタバレあり)。
本作は新堂冬樹の同名小説に基づき、愛する人と触れ合うことができない男女3人を追うストーリー。三山が演じるのは、強迫性障害による潔癖症から常にビニール手袋を着用して生活する絵本作家・水島良城。彼は高校時代に出会った恋人・桐本月菜(久保)と同棲中だが、彼女の手すら触れられずにいる。高校生にして作家デビューを果たした彼だが、今はスランプに陥り八方ふさがりだ。そんなある日、月菜の前に一人の青年ジェホン(2PMファン・チャンソン)が現れたことによって、かろうじて保ってきた日常が破綻していく。
BE:FIRSTのRYOKIとしてステージ上で爆発的なパフォーマンス力を誇る三山にとって、良城は「真逆のキャラクター」だと語る内田監督。なぜ三山だったのか? キャスティングの経緯をこう語る。
「三山くんとは韓国でお会いして、最初の印象はめちゃめちゃ野性的な方だなと。赤毛だったので、まるで『SLUM DUNK』の桜木花道みたいだなと。線も太いし、ライブを観に行ったらラップもダンスも野獣のように力強い。よし君(良城)は線が細くて自信なさげなので、そんな三山くんのイメージとは真逆だと感じたんですけど、彼と会ったら線が太めなよし君であってもいいのかなと思ったんです。映画ではコロナ禍にも触れていますが、コロナ禍では今まで問題なく生きてきた人たちであっても心が折れていた。だから三山くんと出会った瞬間に、彼のような健康な人が心が折れてしまう方がリアルなのではないかと感じて。実際に、映画の出来上がりを見ても、センシティブな雰囲気が強調されてよかったなと。それに、一緒に仕事をしてみて三山くんは繊細な心を持つ優しい方だなとも思いました」
衣装をはじめ、ビジュアル面では「サブカル青年」をイメージして構築していったという。
「そんなにおしゃれでもないけど、適当なわけでもない。スウェット姿でだらだら歩いているイメージじゃなくて、比較的きちっとしている。アパートにレコードプレイヤーがあるんですけど、ちょっとサブカルチックな文系青年。対して月菜はJポップのトップ10なんかを聴くような感じ。彼氏のサブカル的な部分を立てているようなイメージでしたね」

なお、良城が強迫性障害による潔癖症を抱える描写については、原作にはないオリジナルのシーンも加えられている。
「良城がネギを食器用洗剤で洗う場面は、専門家に取材をして伺ったお話を取り入れました。それと、彼がまな板に並んだネギとゴボウを少し離れたところから見て、再び洗い始めるくだりは、自分を反映しているところもあります。誰しも強迫観念ってあると思うのですが、例えば家を出ると1回戻らないと気が済まないとか。自分のそういった体験を思い出して入れたのかもしれません。実は入れるか迷ったんですよね。ともすればコミカルに見えてしまうかもしれないので。ただ、重い症状について話してはいけないような雰囲気は良くないと思ったので、最終的にはあえて入れました」
三山本人の提案により加えられたシーンもあるといい、内田監督は「良城がやや猫背になっているのはおそらくご本人が意識してやられていること。あと終盤で月菜との溝が決定的になった良城が“月ちゃんごめん、月ちゃんごめん”とつぶやきながら一人歩くシーン。あれは、脚本になくて現場でやろうと決めたシーンだったと思います。元々用意していない、自然に出てきたセリフだったからすごくいい雰囲気になっていたのかもしれません」と思い返す。

そんな三山のベストシーンについては、主に二つのシーンを挙げる内田監督。「いくつかあるんですけど、個人的には冒頭の良城が海を歩くところの虚無な表情。撮影の順でも割と初期に撮ったと思います。あとは、終盤の方で良城が千春のアパートを訪ねるシーン。ずぶ濡れの彼がコンコンとドアをたたく。ここは映画オリジナルのシーンでもありますが、穂志(もえか)さんとの絶妙なフィーリングが生まれた芝居になっていて、すごく好きです」
ちなみに劇中に登場する良城の絵本「空をしらないモジャ」のイラストは、映画オリジナル。茶の羽毛で覆われた丸みを帯びた、不思議でかわいらしい鳥のデザインに仕上がったが、内田監督はこのイラストに込めた想いをこう語る。
「一番大事なのは、よし君とリンクする“はぐれ者”であるところ。でも、本来はぐれ者である必要はないわけで。世の中がそれを必要としている風潮があるので、絵本に投影できればいいなと思い、その点はデザイナーのサンタさんにもリクエストしました。いろいろなパターンを描いていただいて、最終的にあの形に落ち着いた。実際に絵本として出版できるぐらいのキャラクターに仕上げてくださったと思います」
主題歌は、BE:FIRST初の日本語タイトル楽曲となった「誰よりも」。三山がSKY-HIと作詞に参加しており、映画本編ともリンクする歌詞が胸に刺さること必至だ。(編集部・石井百合子)