浅野忠信、「SHOGUN 将軍」撮影遅延で主演映画を一年延期 「叫びながら撮影していた」

浅野忠信が12日、千代田区丸の内で行われた主演映画『レイブンズ』(3月28日公開)の日本外国特派員記者試写会の会見に瀧内公美、マーク・ギル監督とともに出席。エミー賞やゴールデン・グローブ賞などで日本初の快挙に沸いたドラマ「SHOGUN 将軍」の撮影時から、本作の役づくりを温めてきたことを明かした。
伝説の写真家・深瀬昌久の波乱に満ちた生涯を、実話とフィクションを交えて描き出した本作。ゴールデン・グローブ賞で日本人として初めて助演男優賞(ドラマシリーズ部門)を受賞した浅野は、司会者からのハイテンションな「ゴールデン・グローブ賞を受賞した浅野さんです!」と紹介されると、同賞の授賞式を彷彿とさせるようなガッツポーズで応えて会場は大盛り上がり。
浅野によると、実は本作は「SHOGUN 将軍」の直後に撮る予定だったという。「本当だったら『SHOGUN 将軍』を撮り終わって、その年の6月から『レイブンズ』の撮影に入るはずだったんですけど、『SHOGUN 将軍』の撮影が押してしまって。撮影も1年先に延期してもらったんです。だから僕も現場では取り乱してしまって。俺は早く帰らなきゃいけないんだと叫びながら撮影をしていたんですけど、まさかゴールデン・グローブ賞を取ることができるなんて」と冗談めかしつつも、「でも僕は深瀬さんの役づくりを『SHOGUN 将軍』の撮影の時から温めてきたので、皆さんに映画を観てもらうことができて、こういう場を設けていただいてうれしく思います」と笑顔を見せた。
主演を務めた浅野について、若い時代にイギリスで浅野の主演作『殺し屋1』(2001)を観てひと目ぼれだったというギル監督。「当時はフィルムメーカーではなかったんですが、それからずっと浅野さんのキャリアを追ってきた。それでこの映画をつくることになって、希望の俳優をリストアップしてくださいと言われた時に、名前はひとつだけ。浅野さんと言いました」と念願かなってのキャスティングだったことを明かす。
一方、瀧内のキャスティングについては「キャスティングディレクターから『火口のふたり』(2019)を送っていただいたんですが、英語字幕がなかったので、公美さんの演技を感じながら観ました。洋子という役は特別な女優さんでなくては駄目だと思っていたので、パーフェクトな方を見つけ出した」と満足げな顔を見せた。
浅野は「監督は本当に優しくて。話しやすいですし、気遣ってくれた、日本語が分からなくても、僕らの繊細な動きを本当に見てくれたし、その中で新しい演出をつけてくれた。監督の優しさに救われました」と撮影を述懐。瀧内も「浅野さんがおっしゃったとおり、本当に監督は優しい方。わたしはこの仕事を始める前から浅野さんへのあこがれがあって。ものすごく緊張してナーバスになっていたのですが、監督がわたしの近くに来て『公美ちゃん、自分を信じて。僕は君を信じているよ』といつも言ってくれて。彼の優しさと、あふれ出るジョークに助けられました」と続けた。
深瀬昌久という役柄について、「実はまだどこかにいるというか。大体は演じた後にはその役はいなくなるものなんですが、なぜか深瀬に関してはまだいるというか。常に自分のことを見ているような気がする」と浅野が語れば、瀧内も「日に日に浅野さんなのか、深瀬さんなのか分からなくなっていくような感覚があって。わたしも俳優人生がそれほど長いわけではないですが、そういう経験をしたのは初めてでした」と明かした。
ギル監督はミュージシャンとして活動した経験もあることから、本作の劇中でもヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコや、ザ・キュアーなどの楽曲が印象的に使用されている。そのことについて質問されたギル監督は「僕の場合、脚本を書くときにはプレイリストをつくって、映画の世界に入っていくというプロセスなんですけど、曲のセレクションについては脚本の執筆時からあった。最後のザ・キュアーの『Pictures of You』を入れることができたのは本当に光栄だった。実はバンドのメンバーが僕の最初の映画に投資をしてくれたことがある、というつながりもあったんです」と話す。
物語とリンクした歌詞が印象的な楽曲だが、浅野も「やはり映画の最後にザ・キュアーの『Pictures of You』が流れた時に、僕が表現しきれなかった気持ちが流れてきたので、それは感動しました」とコメント。瀧内も「台本の時点で『Pictures of You』が流れますということは書いてあったので、わたしにとってもこの曲がテーマソングだという気持ちはあります」と付け加えた。
本作に登場する「猫」「(妻の)ヨーコ」というキーワードから、写真家の荒木経惟の共通性を指摘し、「写真家を題材とした映画は?」と質問されたギル監督は、「もともと写真家には興味があって。森山大道、荒木経惟、東松照明、石内都さんなども尊敬している写真家です。ただ荒木さんのアプローチの仕方はちょっと自分には合わないかも」と返答。一方の浅野は「僕は荒木さんの役をやろうと思えばできますよ!」と笑顔で返答し、会場を大いに沸かせた。(取材・文:壬生智裕)