13歳の少年に殺人容疑…Netflix「アドレセンス」記録的ヒットのワケは?

13歳の少年が殺人の罪に問われ、その真相に迫るNetflixのドラマ「アドレセンス」(全4話)が、配信から11日で視聴回数6,630万回を記録し、Netflixのリミテッド・シリーズ(1シーズンで完結のドラマ)で歴代1位を獲得した。本作が世界に衝撃を与えているワケを分析してみた(以下、本編の内容に触れています)。
イギリスのとある町に住む13歳の少年ジェイミーが、同じ学校に通う少女ケイティを殺害した容疑で逮捕されることから物語は始まる。犯行を否定するジェイミー、動機を追求する警察、ジェイミーの深層心理を探る心理療法士、気丈に振る舞うジェイミーの家族……それぞれの視点から、さまざまな真実が浮かび上がってくる。
「アドレセンス=思春期」かつ、SNSネイティブ世代(※1990年代半ばから2010年代前半に生まれた世代)の問題をシビアに描く本作。ジェイミーは、家の壁に家族写真が並ぶ家庭で育ち、自身の部屋の壁紙は天体がモチーフで、一見、温かい家庭で育ったまだまだ幼い子どもだ。突如、家宅に踏み込んだ警察に驚いて失禁してしまい、涙ながらに無実を訴える姿は殺人犯のそれとは到底思えない。しかし、それはただ映し出された一部分に過ぎず、SNSのように、表に見えているものが全てでなく、フレームの外側にはジェイミーの別の一面があるのだ。

大人たちには、ジェイミーの抱えている問題がなかなか見えてこない。警察は当初、ジェイミーとケイティがSNSを通じて接点があったことしか情報を掴めず、ジェイミーの両親も運動があまり得意ではなく、部屋にこもりがちな内気な子どもだと思っていた。実際には加害者と被害者という一言では片付けられない関係が明らかになる。
ケイティは、ジェイミーを「インセル(非自発的な独身者)」だと絵文字で表現した。恋愛や性的関係に対して女性に不満を抱く思想が過激化して、近年は、極端な行動に出る男性もいる。まだ13歳の子どもであるジェイミーをインセルとジャッジするのは残酷だ。それに、女性に対して攻撃的な考えになる引き金ともなりかねない。
ジェイミーは、自分のことを「醜い」と何度も言う。まだ身体の変化も心のバランスもままならないのに、男性としての強烈な劣等感が垣間見える。ジェイミーにとって絶対的な存在である父親はジェイミーの恥ずべき瞬間を目撃した際に目を逸らしてしまうし、ジェイミーは父親は暴力を振るわないと言うけれど、怒りを抑えられない様子も描かれる。

本作は、“1エピソード=1カット”で撮影されていることもすごさの一つ。事件の翌日(第1話)、3日目(第2話)、7か月後(第3話)、13か月後(第4話)と、物語が途切れることなく圧倒的な緊張感のなかで展開される。第1話では警察がジェイミーの家に突入し、警察署に移動して最初の取り調べが終わるまでを、息をのむような展開で一気に見せる。その緊迫感は回を重ねるごとに増大。学校が舞台となる第2話は、キャストが縦横無尽に移動し、群像劇のように次々と異なる人物に焦点が当たる。さらに、窓からの逃走劇、ドローンでの空撮など多彩な方法で撮影されており、次に起こることの予測がつかないスリルが生じる。
ジェイミーと心理療法士ブリオニーの面談を描く第3話は、部屋に2人きりというワンシチュエーションで、2人の心理バトルが鳥肌もの。ジェイミーは、マシュマロ付きのホットチョコレートを喜ぶという少年のあどけなさがある一方で、さりげない会話から事件に関連する話題になると警戒し、人を試すような邪悪さを見せ、拒絶されたと感じると攻撃的になり……と、それまで見えなかった側面が噴出。つとめて冷静に振舞おうとするブリオニーも動揺を隠せない。

時には大人さえも圧倒するジェイミーを演じたのは、イングランド出身、2009年生まれの新星オーウェン・クーパー。約500人の中からオーディションで選ばれたオーウェンは、撮影当時14歳(!)で、本作が映像作品デビューながら、いくつもの感情を内包する演技で存在感を示した。ちなみに、撮影初日が第3話だったそうで、あの強烈な演技がキャリアの始まりだとすると、今後の活躍が末恐ろしい。
ちなみに、オーウェンはすでに今後複数の作品が決まっており、マーゴット・ロビーとジェイコブ・エロルディ共演の映画『嵐が丘』(公開日未定)では、若きヒースクリフを演じる予定だ。監督を、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネルが務める。
「アドレセンス」の監督を担ったのは、90分全編ワンショット撮影で話題を呼んだ映画『ボイリング・ポイント/沸騰』(2021)のフィリップ・バランティーニ。同作で怒れるシェフを演じたスティーヴン・グレアムは、「アドレセンス」でジェイミーの父親を演じている。なお、スティーヴンは、「アドレセンス」の企画、製作、脚本(ジャック・ソーンと共同脚本)も担当。
たった4話でジェイミーや彼の父親など、登場人物の印象が驚くほど変わる緻密な脚本は、結末を知ったうえで、もう一度最初から物語を追いたくなる。それぞれのセリフの真意に震撼して、思わず語らずにはいられない本作は、すでにNetflixのグローバルランキングで3週連続1位を獲得し、93の国と地域でトップ10を獲得した(4月2日時点)。(梅山富美子)