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主人公は楽園そのものが
一つの錯覚だということを悟るんだ |
─ |
何年か前、お金を貯めたら、島を買いたいと言ってたけど、もう実現した? |
D |
レオナルド・ディカプリオ(以下D)
全然。目標にも近づいていないよ。若かりし頃 のはかない夢さ。 |
─ |
この映画がそんな夢を打ち砕いてしまったの? |
D |
楽園とか、ユートピア的な発想に関して言えば、その通
りかも。 |
─ |
『タイタニック』の後だけに、次回作を決めるのに苦労したのでは? |
D |
他人から素晴らしいストーリーだ、きっといい映画になるなんて聞かされたから
、やるんじゃないんだ。自分が心底惚れ込むことができる企画を選ぼうとすれば、自
分の心の琴線に触れるものを見つけ出すなんて大変なことじゃないだろ? 問題は、
自分が気に入った企画を見つける時間が、あるかどうかなんだ。 |
─ |
『ザ・ビーチ』で演じたキャラクターのどのあたりに惹かれた? |
D |
これまでに読んだ脚本に描かれた、どんなキャラクターよりも複雑で、現代的だ
と思ったんだ。リアルな感情とか、現実に向き合っていない僕の世代とか、一つ前の
世代の人間が抱える、多くのテーマを描いていると思うよ。
テレビやゲームなんかで 僕らは現実から完全に隔離されている。僕がこの役を選んだのは、このキャラクター
がこうした背景を感じていて、旅に出たことに共感したからさ。彼は遂に海賊の根城
みたいなユートピアに辿り着く。
そこは外界の常識や法則から完全に守られているよ うに見えるし、彼が長い間、探し求めていたものへの一つの答えのようにも思える。
だけど結局、彼は楽園そのものが一つの錯覚だということを悟るんだ。そのような場
所を存続させるためには多くの犠牲を必要とするし、自らも利己的になって、自分た
ちの安寧のみを追求する集団にならなければいけない。
もし誰かを傷つけてまでも保 持しなければならないとしたら、果たしてそれを楽園だなんて呼べるかな? |
─ |
リチャードはあまり好感の持てるキャラクターじゃないわよね。 |
D |
確かに。
だけどすごく共感を誘うよ。リアルなキャラクターだと思う。常に矛盾
を抱えながらも、真実を追求するタイプの人間さ。多くの点で利己的だけれど、いつ
も前向きで、一つの目標を達成すると、さらなるものを求めて、すぐにも次の目標へ
と向かってしまう人間なんだ。だから彼はヒーローでもなければ、悪党でもないんだ。 |
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リチャードは死に値するか? 答えはノーさ |
─ |
あなたが純粋なヒーローを演じないと聞いて映画会社が怒ったという噂は本当? |
D |
聞いてないけど。多分、僕の耳には届かないようにしていたんだろうね(笑)。 |
─ |
『ザ・ビーチ』の撮影中、ボート事故で危うく溺れるところだったというのは本当? |
D |
監督がくわしい話をしていたと思うけど、結構、恐ろしい体験だったよ。僕らは
沖合まで流されたんだ。波が次々とボートに覆い被さってきて、次の瞬間、ボートが
沈み始め、装備が船外に放り出された。 |
─ |
あなたにとっても恐ろしい体験だった? |
D |
僕自身は怖くなかった。人間の体が水に浮くことは知っていたから、パニックに
陥るようなことはなかったね。 |
─ |
『タイタニック』の再現だとは思いませんでしたか? |
D |
映画と実生活とをそんな風に混同することなんてないさ。あれはただの撮影だっ
たんだから。 |
─ |
あなたにも放浪癖はあるの? |
D |
出会った翌日に自殺した、狂った老人がいたとするよね。彼から楽園への地図を
手渡されたからといって、自分で探しに行く度胸なんて僕にはないさ。それにタイの
農夫たちがあそこまで強硬であることを知ってしまった今となっては、なおさらね……。 |
─ |
すると、あなたはリチャードなんかよりも用心深いってこと? |
D |
遙かにね。 |
─ |
彼は死に値する? |
D |
いい質問だね。ダニー・ボイル監督の偉大な点は、僕のことを自分のパートナー
として迎え入れてくれたことなんだ。
彼は議論をすることを望んでいたし、あらゆる ことを皆の前に披露していた。そういったやり方が、彼流の一つの演出法に思える。
リチャードは死に値するか? 答えはノーさ。だけど彼は自分に秘められた邪悪な面
と、自らが犯した過ちとともに最後まで島に踏みとどまっているべきだったんじゃな
いかな。
彼のしたことすべてが、誰でもが実際に取ったかもしれない行動ばかりだ。
周囲のなりゆきが変化していけば、僕はついには聖域と呼ばれる場所は出現するんじ
ゃないかと思う。自身の内側にいるもう一人の自分、あるいは真の自己へと近づくこ
とで、様々な経験が積めるような場所がね。 |
─ |
あなたにとっての聖域は一体どこにあるの? 話を聞いていると、どうもあなた
は自分自身のことを語っているように思えるけど。 |
D |
ああ、確かにね。興味深いね! 強いてあげれば、車に乗ってドライブしている
ときが、一番それに近いかな。運転が好きなんだ。だって LA から離れていられるもん。 |
─ |
『スター・ウォーズ』に関するオファーがあるという噂もあるけど、興味を持っ
ているの? |
D |
ジョージ・ルーカス監督とも話し合っているけど、まだ脚本を見せてもらってい
ないんだ。 |
─ |
彼はなんと言っているの? |
D |
話してもいいのかどうか聞いていないけど、僕の知ってる限り……(沈黙)。あ
あ、そうだ。この件に関してはさんざん言われていたんだっけ(爆笑)。だめだ、は
っきり思い出したよ。いずれにせよ、僕は『スター・ウォーズ』の大ファンさ。大好
きだよ。 |
─ |
タイという国についてはどう思うの? |
D |
地球上で最も想像を絶した場所さ。まったくユニークなんだ。ローマ帝国さなが
らにね。何が起きたって不思議じゃない。それにやろうと思えば何だってできるし、
どんなものだって見つけることができるんだ。 |
─ |
今でも喫煙を? |
D |
いいや。やめたよ。 |
─ |
どうして? |
D |
他の人たちと同じ理由さ。健康に良くないからね。 |
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Robin
Lynch
訳:黒川健吉
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FLiX4月号(2/26発売)に、さらに詳細なインタビュー掲載中 |