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レクター博士は10年間、何をしていたのか |
D |
ディノ・デ・ラウレンティス(以下D) 今日は本当に皆様に来ていただいて、嬉しく思っています。日本語ができないことを本当に残念に思う。私ができるのはイタリアのナポリ地方の言葉だけなので。
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M |
マーサ・デ・ラウレンティス(以下M) 私たちは東京に来れて、嬉しいです(日本語で)。 |
A |
アンソニー・ホプキンス(以下A) おはようございます(日本語で)。私も日本語がダメなので、本当にごめんなさい。 |
Q |
前作から10年の間、レクター博士は何をしていたのでしょうか? |
A |
年をとっていたのでしょう(笑)。パスタを食べ過ぎて、ちょっと髪も寂しくなったかな。 |
Q |
数多くの企画の中から、どういう規準で作品を製作することを決めるのですか? |
D |
非常に簡単です。いいシナリオ、いい監督です。映画界というのは、刻々と変化している。特撮ありCGあり、テクノロジーがどんどん入ってくる。でもいい話といい監督がいなければ、お客は来ない。ですから、私はシナリオと監督、これです。 |
Q |
10年ぶりにレクター博士を演じたわけですが、それは難しかったですか? また、新しく何か考え方を変えて役に挑戦したのでしょうか? |
A |
10年ぶりでも何も難しいことはなかった。同じ質問をよく受けるのですが、私の仕事は俳優です。だから全然難しいことはない。
この10年間、ずっと「続編はあるのですか?」と聞かれたが、「それはトム・ハリスに聞いてくれ」と私は答えてきた。彼が本を書かなければ始まらないわけですから。そして今回彼は本を書き、監督が決まり、ジュリアン・ムーアが出演することになった。そういうお膳立てが出来た上で私は演じるわけですから、それはとても簡単なことなのです。 |
Q |
レクター博士にとって、クラリスはどのような存在だと考えていますか? |
A |
また同じことの繰り返しになりますが、私はただの俳優です。だから、ライターがシナリオに書いた通
りのことを、自分で分析して役を作り上げていくということに徹しているだけだ。
まあ、私が感じるところではレクターはクラリスの力強さ、勇気、そして正直であり、絶対に汚れない道徳観を持っているという点に惹かれているのだと思う。 |
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レクターの人物像について |
Q |
スコット監督とレクター博士の人物像について話し合いはされたのですか? |
A |
ディスカッションはしていません。私はラウレンティスから、「リドリー・スコットに決まったよ」と聞いたときはとても嬉しかった。前回はジョナサン・デミというすばらしい監督だったが、よい監督というのは俳優を信頼する。スコット監督も非常に私を信頼してくれて、全面
的に自由にやりなさいという感じだった。もちろん、細かいアイディアについては少し話し合ったが、基本的には私の好きにしていいと。だから、私は今回とても自由を満喫することができました。
だからといって、俳優がセットを支配するという意味ではありません。セットを支配するのは監督、デミやスピルバーグやスコットのように非常に頭のよい、俳優や撮影監督に自由にさせていいということを理解している寛容な監督だ。それがいい監督なのです。スコットは私にとって、とてもやりやすい監督でした。 |
M |
アンソニーはそう言うけれど、彼のアイディアはこの映画の全編にたくさん活かされています。例えば「オーケー、ドンキー」とか、口笛を吹く、「グッディ、グッディ」という言い方など、レクター博士が非常にリラックスしている感じを上手く出すためにいろいろなことを考え付くんです。そういう点でも、やはりアンソニーは天才なのだと思います。
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Q |
たくさんのオファーがある中で、2度もレクター博士を演じたというのは何か特別
な思い入れがあるのでしょうか? |
A |
確かに2度演じたというのは、自分にとってとても意味のあることだ。ハンニバル・レクターというキャラクターは、前作によって全世界に知られる人気者になった。お客さんが惹かれるキャラクターであれば、私も惹かれる。それが、私がいつも考えていることです。
3度目はあるのかと聞かれたら、シナリオと監督さえよければ有り得ます。 |
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ジョディ・フォスターの降板 |
Q |
ジョディ・フォスターが降板したことについては? |
A |
そのことを聞いた時、私は少しだけ失望しました。でも、それで眠れなくなるというほどではなく、「まあいいさ、なるようになる」という感じで受け止めました。 |
Q |
原作とラストが違うことについて。 |
D |
その映画の結末がそれで正しいか正しくないのか、それを判断することを任されるのがプロデューサーの仕事です。原作はとにかく長い本で、これをその通
り全部映画でやるのはよくないと私は判断しました。 結果的にはあの非常にショッキングな結末があるわけですが、映画的にはあのシーンで終わりにすることが必要だと私は感じたのです。結末をどうするかについては、監督、主要なスタッフと何回もミーティングを重ねました。そうしたらある日、スコットが「いいアイディアを思いついた」と。やはりあのショッキングなシーンを最後に持ってこようと彼は言いました。でも私は、念のために2通
り撮ることを提案し、あのシーンがあるのとないのを用意しました。そして2バージョーンの映画を比べたときに、あのシーンがある方が衝撃的であるということで、今のようなエンディングになったわけです。 |
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リドリー・スコットが監督することになったいきさつ |
Q |
リドリー・スコット監督に決めた理由を教えてください。
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M |
この経緯に関してはとてもラッキーでした。最初はデミがやると言って、私たちは握手を交わしたのですが、その一週間後に突然電話で降りると言ってきたのです。その時私たちはマルタ島で『U-571』の撮影をしていたのですが、その隣でスコットが『グラディエーター』を撮っていました。私たちは知り合いなので、お互いのセットを訪ねては一緒にコーヒーを飲んだりしていました。
ある日スコットが私たちのセットに来ていた時に、ちょうどデミから連絡を受けたのです。そこでディノがスコットに『ハンニバル』のシナリオを全部渡して、「これをやってくれ」と頼んだのです。スコットは、“ハンニバル”というかつてアルプス越えをした有名な人がいるのですがそれと勘違いして、「私は今ローマ時代の映画を撮っていて、その後にまた象がアルプス越えするような映画は撮りたくない」と断りました。ですが事情を説明すると、彼は非常に驚いていました。
ディノはとにかくシナリオを読んでくれと言いましたが、スコットは大変ハード・ワーキングな監督で、ウィークデイは全部撮影していて日曜日には編集をするため、とてもシナリオなど読む時間がないのです。ところが、どこで読んだかわかりませんが、ウィークエンドには彼はシナリオを読み終わっていて、「とてもすばらしいシナリオだ、僕がやる」と言ってくれたんです。ですから、とても私たちはとてもラッキーでした。彼は、非常にすばらしい仕事をしてくれたと思っています。
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3作目の構想はすでに具体的に……(舞台は東京?) |
Q |
以前に「レクター博士は動物に例えるなら猫だ」とおっしゃっていましたが、今回はどのようなイメージを持って役に臨んだのでしょうか?
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A |
シナリオを読んだ時に、私はレクターという人物がとてもパワフルで衝撃的な力を持った人物であると認識して、そういう役作りをした。それは原作やシナリオに基づいたものです。
具体的に言うと、この人物は非常に影がある、暗闇の中にいる、普通の人々の手の届かない場所にいる男だ。そういう男というのは、お客さんにはとても興味深く感じ取られるわけで、従って私も興味を持った。非常に謎が多い人物なのです。
彼は『羊達の沈黙』では狭い牢屋に入れられているわけだから、非常に動きが限られている。そこで猫のような限られた動きをする人物ということが、第1作目で確立された。私自身、猫は大好きで、豹やチーターなどの猫科の生き物も好きだ。見ていて非常に美しい動きをするのが猫科の動物であり、私はレクターをそういうイメージでやることに決めた。そして猫科っぽい動きプラス、レクターという男は非常に女性っぽい、自分の中に女性の持つクリエイティブなパワー、女性と共通
する要素をたくさん持っていると感じた。だからそういう風に演じたわけだが、元々はシナリオにあったものから自分で少し解釈を付け加えたという感じて、演じたまでです。
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Q |
3作目は考えていますか? またラストに出てきた少年は日本人だと思うのですが、3作目の舞台は東京ということは有り得ますか? |
D |
3作目は考えています。嬉しいことに、アンソニーもやるよと言ってくれたので次もできると思います。『ハンニバル』のラストでレクターは飛行機の中で少年と出会いますが、あれは日本人です。ですから着陸地は日本かもしれませんが、それはまだわかりません。
具体的な内容はまだ考えていません。ただ、私は東京という街が大好きですし日本の方も大好きなので、ここで映画のために数ヵ月過ごすのも悪くないなと思っています。できることなら、自分の希望としては東京が舞台になるように話を進めて行きたいなと思っていますが、とにかく全然何も決まっていないので、これからじっくりと話を詰めて行きたいと思っています。 |
Q |
共演者の印象について教えてください。 |
A |
ゲイリー・オールドマンは大変素晴らしい俳優です。10年ほど前に、フランシス・F・コッポラ監督の『ドラキュラ』で共演し、その時からずっとそう思っている。本人はものすごくユーモアがあって面
白い人だが、役柄にパワーを吹き込むという点において大変素晴らしいものを持っている。彼がクレジットを出してない理由はわかりませんが、本当にこの映画にすばらしい影響を与えています。
ジュリアン・ムーアについては、さっきジョディが降りて失望したが次のことはあまり深く考えなかったと言ったが、ジュリアンに決まったと聞いた時に、ジョディの後を継ぐというのは大変勇気がいることなので、私は彼女はとても勇気がある女性だと思った。
彼女は撮影の直前にフィレンツェにやってきた。撮影所に最初に現れた時には少しナーバスになっていたが、本当にプロフェッショナルで才能があり、またとても女らしい魅力を持った人だ。
俳優にしろ監督にしろ、私が最も仕事をしやすい相手というのは、プロであって、準備をきちんとしてくる、知識と力をちゃんと備えている人物だ。準備をしてくる、才能がある、そして時間どおりにきちんとセットにくる。ジョディもジュアリアンもゲイリーも、この映画に出た俳優全員がプロに徹した方ばかりだったので、私は非常にやりやすかった。
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