K |
ニコール・キッドマン(以下K):こんにちは(日本語で)。日本にまた来ることができて大変幸せです。日本に来るのはこれが3回目ですが、いつも楽しみにしています。今回は特に『ムーラン・ルージュ』のことを話せるので、とてもエキサイトしているわ。記者会見もとても楽しみにしていました。今日はよろしくお願いします。 |
- |
映画の中で素晴らしい歌声を披露していますが、歌手として活動することは考えていますか? |
K |
キャスティングの際に、監督のバズ・ラーマンから「映画の中で歌うんだよ」と言われてとても恐かった。今までプロの経験は一度もなかったし。だからたくさん練習を積んだんだけど、今では歌うことが大変好きになったわ。世界中でサントラも大変ヒットしていて、アメリカでは私にアルバムを出さないかという話もあったぐらいよ。だけど私の情熱の向くところは演技なので、それはお断りしました。もちろん映画の中で歌ったり踊ったりするということはこれからもあるでしょうけど、それだけをキャリアの一部にしようとは考えていないわ。ただ、シングル盤はひとつ出したのよ。欧米ではとても人気があるロビー・ウイリアムズとのデュエットで、ナンシーとフランクのシナトラ親子の歌を歌ったの。 |
- |
どういう経緯でラーマン監督の作品に出演することになったのですか? |
K |
ニューヨークのブロードウェの芝居に出ていた時に、バズが観に来て楽屋の私に赤いバラを数ダース贈ってくれたの。そして「あなたのために素晴らしい台本があります。歌って踊って死ぬ
役です」と話してくれたのが最初よ。
|
- |
ラーマン監督のきらびやかでゴージャスなセットや衣装を見た時に、どんな感想を持ちましたか? |
K |
まず言っておきたいのは、この素晴らしいデザインを生み出したのはバズのイマジネーションの力よ。それを昇華したのが彼の奥様で、衣装だけでなくセットのデザインも全て彼女が手掛けているの。二人は夫婦で一つのチームなのよ。バズの持っているビジョンを二人で具体化していった。これは本当に驚くべき世界よ! これだけたくさんの映画を観てきても、「こんな映画観たことない」と思わせるのはとても大変なこと。だけど私は初めてセットを見た時に、文字通
り開いた口がふさがらないという感じでびっくりしたわ。 衣装については、まさにこの衣装そのものがキャラクターを作っていくという感じだった。大抵メイクと衣装をつけるのに3時間ぐらいかかったんだけど、その衣装を着け終わると私はまさにサティーンそのものに成り切っていたわ。 |
- |
歌とダンスのレッスンは具体的にどのようにやったのですか? |
K |
歌とダンスのレッスンは、いつもユアンと一緒にやっていた。一日3~4時間、歌が終わったらダンスの練習するといった具合で、二人で一つのレッスンが終わるとタバコを吸う、また練習する、タバコを吸うというのを繰り返していたの(笑)。バズは完璧主義者で、彼の作品に出演のサインをするということは、撮影の全期間自分の生活全てを捧げるというぐらいの決意がないとダメ。彼はあらゆる人にそういうことを求めるし、絶対に妥協はしないから。
歌に関しては、ユアンと同じ素晴らしいコーチがついたの。その彼がくれたものは“自信”よ。歌というのは自信がないと絶対に上手く歌えないの。だけどバズのリクエストは、ただ単に上手く歌うということではなくて、歌を通
して演技をする、歌に感情を乗せるということだったわ。
|
- |
『ある貴婦人の肖像』のジェーン・カンピオンや『アイズ・ワイド・シャット』のスタンリー・キューブリックも、ラーマン監督と同じく撮影中は俳優の生活の全てを捧げることを求める監督だと思います。そういった監督と仕事をするのがお好きなんですか? |
K |
ここ数年、とても惹き付けられる監督というのは、一言で言うならビジョナリー、自分が何を言いたいのか、どういう映画にしたいのかということを明確に頭の中に描いている人。そういう監督は非常に自分の世界観をしっかりと持っているけれど、同時にとても協力的で、人の意見を聞く耳を持っているの。キューブリックもそうだったしカンピオンもそう。自分のビジョンはあるけれど、ちゃんと人の意見も聞く。そこが本当に素晴らしいと思うわ。私はそういう監督と一緒に仕事がしたいと思っているの。 |
- |
サティーンという役はマリリン・モンローやマドンナなど、さまざまな女性のアイコンを兼ね備えています。そういった役を演じることに対してはどうでしたか? |
K |
非常に恐かったわ。この映画は、いろんな過去の映画のイメージを取り込んで作られているの。例えば最初にサティーンが空中ブランコに乗って出てくるけれど、あれはバズの説明によれば『嘆きの天使』のマレーネ・ディートリッヒのイメージだそう。私は役作りのために、マリリン・モンローやリタ・ヘイワース、シド・チャリシーたちの昔の映画をたくさん観たわ。それで、こんな素晴らしい女優たちのように私はできるかしらと心配になってしまった。だけどバズは、「そういう女優たちのようになれと言っているのではない。そのアイコンたちが持っているイメージをお客さんは皆知っているから、きみは彼らが映画の中に溶け込むための糸口になればいいんだ。きみが過去の大スターとイコールになる必要はないんだよ」と説明されて安心したの。
それから使用している曲も皆が知っている曲を使っているけれど、それもお客さんを映画に引き込むきっかけにするために使われているのよ。
|
- |
あなたは、ラブシーンを本物っぽくするには、女優との特別
な接点も必要だ と思いますか? |
K |
撮影中にケガをされたそうですが……。 |
- |
ということは、ほとんどの部分でフリをしているんですね。 |
K |
リハーサル中に脚を骨折したのよ。ユアンの抱き方が悪かったからなの!(笑) 治療には3週間かかったわ。ボキっと折れたというのではなくて、ヒビが入ったという程度だったけど、すごく痛かった。
そのケガよりも歌うことに支障があって大変だったのは、衣装のコルセット。あれはヒモでものすごく身体を締め付けるから、歌うのに息を吸ったりはいたりするのがとても苦しかった。
|
- |
映画の中でいちばん好きな歌を教えてください。 |
K |
私がいちばん好きなのは、ユアンが私に歌ってくれるエルトン・ジョンのラヴ・ソング。とってもロマンチックで、彼は500回も歌ってくれたのよ(笑)。今でもあの歌が大好き。もう一つは、バズはジェラシー・タンゴと呼んでいるんだけど、あのタンゴのシーン。下の階でタンゴが踊られていて、上で私が侯爵に誘惑されていくという場面
で、編集も素晴らしいし撮影の画も美しいし、本当にユニークないいシーンよ。どちらも私自身は歌ってないけれど(笑)。
最近友人が教えてくれたんだけど、テーマ曲でもある“Come What May”が結婚式に使われていたというの。とてもびっくりしたけど本当に美しい曲だから、そんな風に使われているのを聞いて嬉しかったわ。
自分で歌った歌に関しては、特に難しいということはなかった。曲は全て私の声に合わせて編曲されていたから。現場で収録したけれど、映画では使われていない曲もたくさんあるのよ。バズはよくライヴで録音するということをやったの。ユアンと私は二人でビクビクしたものだけれど、それまでにリハーサルを積み重ねていて自信を持っていたから、大きな問題もなく上手くできたわ。
|
- |
ラース・フォン・トリアー監督との新作について教えてください。 |
K |
スウェーデンで1月から撮影に入る予定よ。彼の監督作品は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』をはじめ全て好きだし、新作は彼が私のためにシナリオを書いてくれたの。だけど周りの皆には、「彼には注意しなさいよ」と言われているわ(笑)。 |
- |
テロのために来日を中止するスターが多いのですが。 |
K |
私が来日を中止しなかったのは、一つはそういう約束をしていたから。そして今のこういう時期に旅を中止して、恐怖を現してはいけないと思ったの。恐怖に支配されずに、決めたことはちゃんとやりこなすということを見せることが重要な時期だと思っているわ。本当に来てよかったと思っています。
東京には2~3日滞在して、すぐまたオーストラリアへ帰るのだけれど、私は世界というのは一つのコミュニティだと考えているの。そして、今こそ世界のコミュニティは結束する時。
私のような立場にいる人間は、そういうことを態度で示さなければならないのよ。私は日本に来る前はドイツに行ってチャリティをしたけれど、そういうことを行うのが正しい態度だと思っているわ。
|
- |
連日のテロ関連のニュースをみて、どのように感じていますか? |
K |
もちろん、悲しい気持ちがしているわ。今までとは違う世界に行ってしまったよう。そういう時期にこの映画が封切られるわけだけれど、この映画のテーマは“愛”。ついこの間ロンドンに行った時に、見知らぬ
方が私に向かって本当に情熱的に「あの映画は良かった」と言ってくれたの。それは皆がこういう時期だからこそ“愛”ということについて考えていて、だからそういう反応になったんじゃないかと思う。「人の一番の幸せは、愛し、また愛し返されること」というメッセージがこの映画では語られているけれど、これは本当に今必要なこと。人々はなぜこんなことが起こったのか? ということを考えながら、いろんなことを再評価している。2001年という年は、そういうことが起こった年として永久に記憶されることでしょう。 |