まほの[子連れ]ハリウッドへの道42
ホームシックと音痴な黒人おやじの巻 |
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私アメリカに行って1ヶ月…、「いえーい、アメリカだぜっっ」な妙なテンションも落ち着いたころそれはおそってきた。 日本帰りてえよお。そう、ホームシック。 おいおい、一ヶ月でホームシックかい。って思うでしょ? それがなっちゃったんだなー。 だんだんアメリカになれてきた→ハンバーガーにあきた→アメリカ人にもなれてきた→そういえば、思ってたほどかっこいい人がうじゃうじゃいない(私の頭の中ではハリウッドは、モデルみたいのばっかが町を闊歩していたはずだったのさ)→いてもゲイ→ストレートの男はなぜかださい。(失礼)→なんか日本人の男の子の方が全体的におしゃれだわ→そういやあ表参道でかわいい男の子を見物したいなあ→お茶もしたいなあ→しっかし友達できねえなあ→日本のみんなにあいてえなあ→カラオケしてないなあ→モー娘メンバー変わったかなー→あああああ、日本帰りたいいいいい!!! こんな、思考回路が頭の中に突如浮かんできちゃって何かいやなことがあるとすぐに「日本に帰りたいよお」。 ぜんっぜんファンでも何でもなかった、モー娘のことすら気になってしょうがない。人間って不思議なもんですな。 どうしてこんな、おかしなメカニズムが作られたのか。それはきっとサンタモニカにあるサードプロムナードのせいだ。 私は、行った当初全く友達もできず、車もなく、移動はもっぱらバスのみだったんでおひまがあればサードプロムナードっちゅう、いわばちょっと有名な商店街チックなところをてくてくしていた。始めの頃はこのプロムナードも、「独りぼっちで寂しいわあ~」なんてこともなく自由気ままに歩いていたくせに過ぎゆくカップルや家族や友達連れなんかを見ているうちに、視界がぼやけてきてよお。彼氏ほしーぜ。友達ほしーぜ。ってなるわけさ。 みんなにノイローゼ気味のFAXを山ほど送って、心配をかけはじめたころ、そんな私の寂しい心をいやしてくれる音人物に出会ったのです。 サードプロムナードには、休日になるとさまざまなストリートパフォーマーがうじゃうじゃ発生して、楽しげな人たちをいっそう和ませているのだけれど そこに一人だけ、確実に人々をいらだたせているミュージシャンがいた。 彼は、一人ブルースバンドをしている黒人のおっちゃんで、片足と、両手でドラムをたたきながら歌っている。でもこれが、日本人の私にもわかるほどの音痴おやじ。普通黒人のおっちゃんっていうのは、レイ・チャールズみたいに感動するほど歌がうまいんじゃあないのか!!と、信じ込んでいた私は彼に新鮮な驚きを感じてしまった。 ズンチャッズンズンチャッ。リズムはこれのみ。多分これをキープするのでいっぱいいっぱいなのでしょう。歌はといえば、「アンワダーベーラー、アンワダベーラー」。このフレーズのみを洗脳的に繰り返しているだけなのだ。このおっちゃんの歌が、聞こえまくる隣の靴屋の店員はきっと発狂気味だろう。その姿は自信に満ちあふれているのだけれど、どっからどう聞いてもお経にしか聞こえん。 これが、私に日本の何かを思い出させた。あれ??なにかな?このくすぐったい感じは。 そう、このかんじは、うちのお父ちゃん。肌の色は違っても、この自信あり気に歌う音痴おやじはまさしく恋しやお父ちゃん。お経具合といい、何から何までそっくりなのだ。 私は、誰も足を止めやあしないこのおっさんの前でしばし立ち尽くしてしまった。そうして、浮かんでくるかすかな慈愛の念。おっちゃん見ているとどのストリートパフォーマンスより心が和むわ。 この不況で、うちの父ちゃんもリストラされたら新宿で太鼓でも叩かせるか…。そんなことを思い出したら、人事とは思えなくなってきてとりあえず、5ドル入れてみた。 するとそれまで、傀儡人形のようにお経を唱えていたおっちゃんが私に向かってにっこり笑ってくれたー。 う、うれしい。 それからというもの、私はすっかりこのおっさんの虜になり、ホームシックを感じては彼に、父の面影を見るためにサードプロムナードへと出かけていったのでした。
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