『バニラ・スカイ』記者会見
トム・クルーズ、ペネロペ・クルス、キャメロン・クロウ 来日記者会見 | ||||||||||
ペネロペ・クルス(以下P):いつも日本に行きたい、東京に行きたいと思っていました。とても人々が優しくて、絶対また戻ってきたいわ。次回はもっと自由な時間を作ってね。 トム・クルーズ(以下T):また戻って来ることができたよ。日本は大好きだから、とても嬉しく思っている。今日は本当にどうもありがとう。 キャメロン・クロウ(以下C):今日は本当にありがとうございます。大分以前にあるバンドに付いて来日したことがあるのですが、日本はそれ以来ですね。 Q:プロデューサーとしてペネロペ・クルスを抜擢したいきさつを教えてください。また、女優としてどこに魅力に感じますか? T:『オープン・ユア・アイズ』を観た時に、これはすごい映画だと思った。そしてすぐにキャメロンに見せたんだ。この映画をリメイクすることは可能なんじゃじゃないかと、二人で長いディスカッションをした。そして僕らは、これはハリウッドで娯楽作に作り変えることができるという結論に達したんだ。特にキャメロンはポップ・カルチャーに興味を持っていたので、それを前面に出した作品にしようと言った。また、彼は今日活躍している映画監督の中で、男と女の関係を描くことに理解があって、それを描くことがとても上手い。僕も彼と同じくロマンチストなので、そういうテイストも入れようということになった。究極のテーマは“愛の永遠性”だ。 観客はまずこの映画を、ポップ・カルチャーのローラーコースターに乗ったように感じるだろう。そういう映画を作るのは楽しいし、観る人も楽しいよね。だけどそれだけじゃなくて、観終わった後に男女の関係はどういうことが正しいのか、カジュアル・セックスとはどういうものなのか、人間は人生の中でどういう選択をするべきか、それを行った時に他の人に対してどういう影響があるのか、それに対して人間はどういう責任があるのか、といういろいろと深いテーマを持っている。それを娯楽というパッケージの中で描くとことを基に、キャメロンはこの映画のデザインをしていったんだ。アメナバール監督の『オープン・ユア・アイズ』からは彼の声が聞こえてきた。同じように『バニラ・スカイ』では、キャメロンの声が聞こえてくるはずだ。だが、それはこの2つの映画が互いに全く違うものであるという意味ではなく、お互いが呼応して話をしているんだよ。同じテーマを扱かいながら二人の監督は違う結論に達していく、という関係性が成り立っているんだ。 『オープン・ユア・アイズ』に出演していたペネロペを同じ役にキャストしたのは、キャメロンだよ。彼女は当時既にスペインでは大変有名な女優で、スペイン国内ではアカデミー賞に匹敵する賞をたくさん受けていた。ぴったりのキャスティングだと思ったよ。 僕はこの映画を大変誇りに思っているし、今まで僕が作った映画の中でベストだと思っている。内容が深いので、お客さんはきっと必ず2度観たくなるはず。そして、2度目は前とは全く違う体験をするだろう。非常に細かいところに手がかりがたくさんあって、次から次とああいうことだったのかと、だんだんと明確になっていく映画なんだ。 (長い通訳が終わった戸田さんに対して日本語で)どうもありがとう! Q マンハッタンの街中をたった一人で歩き回るという現実ではありえないシーンがありましたが、その撮影に際してはどのように感じましたか? T:一切CGは使ってないんだよ。本当にニューヨークで撮ったんだ。日曜日の朝、タイムズ・スクエアの40ブロックを遮断してね! この場所はポップ・カルチャーのアイコンである場所だから、そこで撮ろうという話を最初キャメロンとしていたんだけど、でもまさか現実になるとは思わなかったな。ニューヨークにあるフィルムコミッションに行って市長さんに会ったら、すんなりOKになったんだよ。 ニューヨークに行った人はどれぐらいいる? 行った人はわかると思うけど、ニューヨーカーっていうのはそんなに辛抱強くないよね(笑)。40ブロックも止められたらみんなものすごく怒るはずなんだけど、それを我慢してちゃんと協力してくれたんだ。とってもエキサイティングな撮影だったよ。 Q ペネロペさんはアメナバール版と同じ役を演じることを切望したと聞きましたが。 P:『オープン・ユア・アイズ』をアメリカでリメイクすると聞いた瞬間から、ぜひ出演したいと思ったわ。同じソフィアという役を演じているけれど、全く違うキャラクターなのよ。監督は2つの映画が会話をし合っていると言ったけれど、私は二人のソフィアもお互いに会話をしていると思うの。二人は友人にはなれるでしょうけど、同じ人間ではない、という風に自分では解釈したわ。だから今回のソフィアは、クロウ監督のソフィア。前とは違うという認識で、全く違う感覚で役作りをしました。それはとても楽しい経験だったわ。 Q 音楽が大変すばらしいですが、それについて話を聞かせてください。 C:この映画に関わった我々3人は、ものすごい音楽好きなんだよ! 『ザ・エージェント』でもそうだったけど、トムが演じて僕が演出する、そこにはいつも音楽があった。俳優によっては気が散るから止めてという人もいるけど、トムはもっとボリュームを上げてくれてって感じさ(笑)。ペネロペもそういう感じで、スクリーンから聞こえてくる音楽は現場でもかけていた。それで演技をしていったんだ。 いつも使いたいと思っていたバンドも使うことができたし、夢も実現したよ! 「バニラ・スカイ」という曲をポール・マッカートニーが歌ってくれたことは、非常に嬉しいね。だってこのタイトル、ビートルズっぽいなと思ってたんだ。それをポールが歌ってくれたんだから、これでもうパーフェクトになったって感じだよ。 Q デイヴィッドは顔と心の両方が傷つく役ですが、どのようにアプローチしましたか? T:「顔が破壊される」ということに関しては、綿密なリサーチをしてリアルに見えるようなメイクを考案した。何度もテストを繰り返したよ。僕はいつも役作りをする時はそうなんだけど、内側から取り組むというプロセスを踏むんだ。リサーチを重ねて、まず人物像を内側から納得していく。その後、そこから外見を作っていくんだ。 僕はいつもすごくセット入りが早いんだ。今回も毎朝早く入って、キャメロンとその日の打ち合わせをいろいろとした。ディスカッションするということはとても重要で、撮影の間一時期『アザーズ』という映画の撮影のために、プロデューサーとしてスペインへ行っていたことがあったんだが、その時もキャメロンとは何時間も電話でストーリーやキャラクターの話しをしたよ。映画に直接関係ないこともね。だけど映画っていうのはそういうふうにして作っていくものなんだ。シナリオを書いて、撮影して、編集すればいいってものじゃない。二人で愛撫して慈しみながら、いつもその映画のことを頭から離れない状態にして作り上げて行くものなんだ。 キャメロンは、本当に俳優のことを考えて演出してくれる人。だからキャスト全員が彼を尊敬していたし、前作『あの頃ペニー・レインで』ではアカデミー賞のオリジナル脚本賞を獲得したシナリオライターでもあるわけだから、俳優に対してのテイクケアも完璧だった。その点でも、俳優たちは非常に素晴らしい時を過ごしたと言えるね。 Q 映画の中のデイヴィッドはカジュアル・セックスを楽しんでいますが、そのことが悲劇的な結果につながっていきます。そうした展開は、若者に対してのある種の警告と受け取っていいのでしょうか? C:まず最初に、今回東京に来て皆さんとこんな風に話しができることがとても嬉しい。というのも、この映画には本当にいろんな切り口があるんだ。だから、そのことについていろんな人と意見を交換する機会が持てたことは、本当に良かったと思う。 私はライターでもあるわけですが、これはモラルのお説教をしている映画ではない。結論を押し付ける気はないんだ。ただお客さんに考えてもらう題材として、一つの提案をしたかった。つまり、「カジュアル・セックス」と言うけれど、「カジュアル」というのはどの程度のものをいうのか? 実際にそういう人たちの本音を聞くと、カジュアルを「装っている」場合が多い。キャメロン・ディアスが演じている女性も、カジュアルっぽい顔をしているけれどただ演技しているだけ。そういうフリをしているんだ。友人にもそういう人は多いよ。 友だちや家族と、ぜひそういうことについてディスカッションして欲しいな。そういう素材として、この映画を楽しんでもらいたい。それがこの映画を作った理由でもあるわけだしね。アメナバール監督のオリジナルは素晴らしい映画だ。だが、我々はそこにこういった要素を加え、さらにアメナバールが問い掛けた質問に少しだけ答えてあげようかなという感じで作っていったんだ。 T:もしこの映画を2度観たら、いかに巧妙な手がかりが各シーンに残されているかに気づくと思う。例えば僕が囚人になっているシーンで、別の部屋で警備員がテレビを観ているよね。あのテレビで放送している古い映画が何であるかとうことにも意味があるし、音楽の選曲にも全部意味がある。Tシャツの文字にも意味があるんだよ! そういう風にちょっとしたことに手がかりが隠されているから、何回観ても新しい発見があるはずなんだ。 ジグソーパズルに取り組むような感じで、スリラー、ラブストーリーなどいろいろな形を作っていく。僕はそういう非常に頭のいい監督によって作られたこの手の映画の大ファンで、今回それを自分で手掛けることができてとても嬉しいと思っているよ。観た後に友だちとディスカッションするような映画は、とても楽しいものだからね。 Q 俳優からベストの演技を引き出すコツ、演技観について教えてください。また前作でのケイト・ハドソンや、今回のペネロペ・クルスなどハリウッドでは新人である女優さんの発掘が上手だと思うのですが、それについてはどのように考えていますか? C:スペインではちゃんと名を成していたので、ペネロペを発見したという手柄は私のものにはできないよ! そういうフリはできるけどね(笑)。私は子供の時からこの子は才能があるって見抜いてたんだ。それでまずアメナバール監督の映画に出て、それから私の映画に出ろって言ったんだよ、というのはもちろん、全部冗談だよ(笑)。 私はいろんな俳優と仕事をしているわけだけど、気の合った人と仕事ができるのは本当に楽しいことだよ。どういう俳優が好みかというと、キャラクター作りということを主眼にしている人が好きだね。つまり自分じゃない別の人物を作り出す、そういうことをしてくれる人が好きなんだ。ペネロペもそうだし、ケイトもそう。だけど、一番の根源的なものはその人の中にある。だから私は、いつも使う俳優のファンなんだ。そしていつも彼らには、何かまだ引き出されるべきものがあるんじゃないかという姿勢で仕事をしている。 Q 今回のデイヴィッドはアメナバール版に比べて、観客にとっては感情移入しやすいキャラクターだったと思うのですが、お二人の間でどのようなディスカッションをされたのでしょうか? C:トムが演じたデイヴィッドの方が、今本当に恋をしていて、本当に愛を必要としている男なんだ。その切実なものが出ているから、身近に感じられたのでは? T:2つの映画を比べると、キャメロン版では最初の頃のデイヴィッドは、人生に虚しいものがあるという部分に気づかずに過ごしている。だがソフィアに会って、深い愛を知ることになる。この映画が提示しているのは、我々人間というのは日々何かを選択しながら生きている。でも今日した決断が、ずっと長い尾を引いて影響を持っていくんだということに気づくべきなんだ。今の自分というのは、かつて自分が下した決断の延長にある。そういうことに気づかせてくれる映画なんだ。 この映画の中で大好きなセリフがある。それは「もしやり直そうと思えば人生はいつでもやり直せる」というもの。単にロマンチックなのではなく、本当にリアリスティックな人生観に根付いていると思うし、とても美しいと思う。 Q 監督から観た俳優としての二人の魅力はどんなところにありますか? T:ぜひ聞かせて欲しいな(笑)。 C:二人ともとっても素晴らしいよ(笑)。彼らにはハートがあるんだ。僕はライターだから長いセリフを書くだろ? それでリハーサルに入って彼らをカメラの前に立たせると、セリフなんていらない、二人が見つめあうだけで言葉以上のものがあることがよくわかった。 その一つの例が、デイヴィッドのお葬式の晩に部屋にペネロペが入ってくるシーンがある。あそこは最初は長いセリフを予定していたんだけど、彼女の表情に彼との思い出が全て出ていた。その表情だけでいいと思ったんだ。だから彼女は一言もあそこではしゃべる必要はなかったんだよ。ペネロペはそういう素晴らしい女優なんだ。 トムについては手短に話すよ(笑)。『ザ・エージェント』で仕事をした時にも思ったんだが、彼の素晴らしさはセリフを読む時の“リズム感”にあるんだ。本当にリアルに読むので、書かれたセリフを言っているという気がしないんだよ。これは『マグノリア』のポール・トーマス・アンダーソン監督も、同じことを言っていたね。そういう一流のクラスの俳優と仕事ができることは、本当に素晴らしいことだと思っている。 Q ペネロペさんから見た監督とトムさんの印象を教えてください。 P:監督は私にとって本当にスペシャルな人。人生観も素晴らしいし、小さなものにも美しさを見出して、それをきちんと画面に乗せるというその天分は本当にすばらしいと思うわ。そしてライターとしては天才ね。 映画を作るプロセスにおいて、私はいかに監督の言葉を聞いて、いろんなことを学んだか、毎日毎日いろんなことを宿題みたいにして提示されて、それに取り組むことによって、自分がいかに成長したかというインスピレーションを与えてもらったことは、一生忘れないでしょう。本当に最高の監督よ。 トムについては、私は彼の映画は全て観ているぐらいファンだったの。だから、その才能やスペシャルなスターだということにはもちろん敬意を払っていた。そして現実に会ったわけだけど、彼はとても長い間映画作りに携わってきているので大変知識が豊富なの。それなのに、とても謙虚なのでびっくりしたわ。尊敬の念をますます強くしました。今回の映画は、彼のキャリアの中でファンの目から観ても最高の出来だと思うわ。 共演者としては非常に寛大で、またプロデューサーとしてはどこからあんなエネルギーが出てくるのだろうと思うほど、セットにいる全員がちゃんと仕事ができるようにと耐えず見ていた。それに費やす時間とエネルギーの凄さには、本当に敬意を表したいと思います。 Q キャスト、スタッフ共に理想のメンバーが揃ったと評判ですが、今回のチームについての感想を教えてください。 T:僕が映画が好きなのは、一つの現場を経験すると、まるで一つの家族が出来たみたいな気持ちになるからなんだ。今回はプロデューサーも手掛けたわけだけど、監督のビジョンを実現できるような環境を作るためにはどんな努力、ヘルプも惜しまないという気持ちで作品に臨んだ。その一貫として、スタッフを集めるという仕事があった。これに関しては、キャメロンと二人で綿密な話し合いをしながら決めていったので、非常に素晴らしいメンバーが揃ったんだ。 現場は、お芝居好きが集まってやるワークショップといった雰囲気があったね。キャストもスタッフも、全員が何かを分担しているという充実感があって、そういうエキサイティングな経験が僕は一番好きなんだ。俳優としても人間としても、得るものが大きいと思うね。 僕はものすごいハードワーカーで、映画を作るというのはとてもハードな仕事。だけど同じゴールを目指してみんなが一体となって突き進むというその緊張感は、大変楽しいものなんだよ。『ザ・エージェント』の時もそうだったが、今回改めてキャメロンには指揮官としての素晴らしさを感じたね。 ペネロペは本当に素晴らしい女優だ。一緒に仕事ができて本当によかったと思っているよ。 P:素晴らしい雰囲気だったので、とても楽しかったわ。監督もプロデューサーもみんなに気を使って、仕事のしやすい状況を作ってくれていた。それにみんなユーモアがあったから、とっても和気あいあいとしていたの。もちろんハードな仕事ではあったけれどね。 C:本当に素晴らしいチームだったよ。トム、ペネロペ、カート・ラッセル、そしてキャメロン・ディアス。みんなすごい経験を持っているのに、この現場にはとてもフレッシュな気持ちで臨んでくれた。それが素晴らしいと思ったね。 観客には、この映画を観た後は本当にいろんなことを語って欲しいと思っている。現場でも、スタッフがこの場面は夢なの? 現実なの? とディスカッションしていたんだよ。楽しいゲームのような映画として捉えてもらって、それぞれのシーンについて話をして欲しいと思う。 最後にもう一つ。ラスト・シーンで、デイヴィッドの頭の中でいろんな場面がフラッシュバックするけど、あの場面にもいろんな手がかりや意味があるんだ。ぜひ見逃さないで、あそこから何かを読み取って欲しい。 (今 祥枝) |