ケヴィン・スペイシー独占インタビュー
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準備やリハーサルの余裕のない映画だったよ |
『ユージュアル・サスペクツ』でアカデミー賞助演男優賞、『アメリカン・ビューティー』では主演男優賞を受賞し、そのほか、『セブン』『L.A.コンフィデンシャル』『交渉人』などで印象的な演技を見せたケビン・スペイシーは、ハリウッドを代表する演技派スターだ。
「『光の旅人』の撮影が終わったのが金曜で、週明けの月曜にはカナダのロケ地に飛び、火曜日にスクリーンテストして、水曜にそれを観て、木曜には撮影がスタートした。準備やリハーサルの余裕のない映画だったよ」とケビンは切り出した。原作を以前読んだことのあった彼は、主人公クオイルにとても親近感を感じたという。
「彼は、自分を周りにどう合わせていけばいいのかを必死に考えるタイプなんだ。私もそうだから、彼をとてもよく理解できる。『シッピング・ニュース』は、クオイルの心の旅を描く作品で、彼がどういう風に変化していくのかをうまく表現できればと思った。ただ、『アメリカン・ビューティー』のレスターよりも変化は少ないよ。映画の初めと終わりの変化の度合いを長さで示すと、レスターは30センチもあるけど、クオイルは3センチ。悲観的な性格だから、すべての現象は彼にとって小さく、そして静かに影響するんだ」と語る。キャラクター分析はバッチリだったようだ。
太っていることを演技で表現したんだ |
しかし、そんなケビンでもクオイル役をやるのにとても苦労した点がいくつかあったという。
「まず一つは、体重を増やすこと。本を読めば、クオイルがどんな風貌がばっちり書いてあって、それになるべく近づけるよう努力した。顔は整形することはできないけどね、体格は若干変えることができる。クオイルは私よりも太っていたから、『光の旅人』から『シッピング・ニュース』までの5日間でとにかく太るように努力した。
それでも十分ではなかったから、太っていることを演技で表現したんだ。体が重い感じを出し、移動する時ももっさりした動きにして、島の漁師たちのような筋力のある男とは正反対の鈍くさい男の動作を心がけた」と、ロバート・デ・ニーロやラッセル・クロウの向こうを張る演技派の根性をかいま見せる。
次に苦労したのが「演技」だという。オスカー俳優で、演技派として有名な彼が演技で苦労するというのも何だか変だが、「クオイルはとにかく静かでおとなしい性格。監督のラッセ・ハルストレムもそれをとてもよく理解していた。だから、常に『もっとおとなしく、静かに、力を抜いて……』と言われ続けた。
最後に『演技らしい演技はしていない。何にもしてないけどいいのかな』と思っていると、『OK』が出た。どうやらカメラを通すと、演技が派手だったり、活動的すぎに写ってしまうようだったんだ」とのこと。しかし、映画を観ると「演技していないようで、演技している」芝居に驚嘆する。
映映画の撮影はどのシーンをやるかは直前になるまで分からないんだ |
オスカー俳優はまた、「天候」にも悩まされた。「主なロケ地だったニューファンドランド島とハリファックスは、とにかく天候不順な場所でね。だから撮影スケジュールがとてもフレキシブルなものになった。『雪が降ったらこのシーン、吹雪だったらこれ、晴れたらこれ、日差しが強くなったらこのシーン』という風にね。だからまったく心の準備や演技の予習なんてできなかった。これにはとにかくまいったね」と言いながら肩をすくめた。
「私は舞台出身だから、9週間近くリハーサルをして、いざ開演すると台本の1ページ目からスタートするというのに馴れていた。ところが映画は平均2週間のリハーサルで、撮影は台本のページ番号とはまったく関係なく進む。それでも、スタートするまでにリハーサルとか、準備の時間とかがあるけど、この映画はそれもほとんどなく、すぐ撮影が始まり、しかもどのシーンをやるかは直前になるまで分からない。
朝起きて、『今日は天気がいいからこのシーンをやります』とくる。予習どころか心の準備もほとんどできなかったよ」そんなケビンの助けは監督の的確な演出と、クオイルの性格だった。前述したように監督は、抑えた演技を要求したから、あまり派手な動きをしなくて良かった。
また、「彼は、リアクション・キャラクター」とケビンが分析するように、クオイルは相手の反応を見て動きを決める性格。だから共演者がいないとどんな演技をしていいのか分からず、1人で練習することは不可能に近かったという。共演者もそれぞれ別の映画撮影の合間を縫ってロケに来ていたようで、それぞれバラバラにロケ地に来ては去っていったそうだ。主に映画の冒頭に登場するペタル役のケイト・ブランシェットは、実は撮影期間の最後の方にやって来た。また、叔母のアグネス役ジュディ・デンチは撮影期間の中盤を抜けて、"IRIS"を撮った。
島の未亡人ウェイビー役のジュリアン・ムーアは1週間しかスケジュールがなく、新聞社の社長を演じたスコット・グレンも一瞬来てすぐ去っていったという。おまけに、クオイルの娘バニー役は、3つ子の子ども俳優(アリッサ、ケイトリン、ローレンのゲイナー姉妹)がシーン毎に分担して出演したため、「娘と仲良く会話するシーンの後、彼女を探すシーンを撮った時、10分前に共演した子と違う子を捜さなければならなかった」そうだ。しかし、映画を観るとそれぞれの共演者との息はぴったりだからスゴイ。
映この10年温めてきた企画があってそれをやろうと思ってる |
1996年に『アルビノ・アリゲーター』で監督デビューしたケビンだが、次の監督作の製作はまだ具体的には進行していないと言う。「この10年温めてきた企画があってそれをやろうと思ってる。でも今はまだ言えないね」とはぐらかした後、「自分が監督して作るよりも、今は、私の製作会社で若い監督の作品を作ろうと思ってるんだ」と答え、「次回の出演作は有名な大学教授の役なんだ」と締めくくった。
映画の中でクオイルが"I am not water-person"と言うシーンが出てくるが、ケビン本人は超“water-person”だそうで、「海も船も大好き!!」と明るく笑った。これまでの出演作の役柄からは想像できないが、冗談好きでとても親切な性格。寂しくなった後頭部の髪にフケを発見した私は、オスカー俳優の素顔は気のいいちょっと上品なオヤジ?! と親近感を持った。