Q:ヘイデン・クリステンセンを、若き日のダースベイダー、アナキン役にキャス
ティングした経緯を教えてください。
リック・マッカラム(以下M):全てのキャスティングにおいて、かなりの時間を割いてる。まずは、キャスティング・ディレクターのロビン・ガーランドと、入念な打ち合わせを何ヶ月も重ねる。
そして、バンクーバーの方にいい俳優がいるとか、そういった情報が入ると、僕の代わりにロビンに行ってもらうんだ。セリフを読んでもらったりしたものをビデオに収めて、それを2~3週間かけて検討する。その中で、見どころがある俳優の様子を収めたフィルムをまとめてルーカスに見せて、キャラクターに合っているかどうか、これまでの経験、スケジュールがどうだから使えるとか使えない、などを判断する。ヘイデンの場合は、なんと1,100人の候補者がいたんだ!
それを全部見て、大体10 人に的を絞った。そして、彼らをスカイウォーカー・ランチに呼んで、ナタリー・ポートマンと一緒にスクリーン・テストをやった。
ヘイデンは、テープを見た時はいいなと思ったんだけど、実は実際に会った時は「こりゃ、ダメだ」と思ったんだ(笑)。なぜかというと、彼はすっごく緊張していて、気分が悪くなったんだよね。だけど、部屋に入ってもらって、僕がスタートと言ってカメラが回り始めると、まるで別人のようなんだよ! 更にナタリーとは不思議なほど息が合って、2人の間にあケミストリーが急に発生したんだ。カットって声を聞いた途端に、また元の緊張しているお兄ちゃんに戻っちゃったんだけどね(笑)。カメラが回っている時とそうでない時が、これだけ違う俳優っていうのも珍しいなと思ったよ。後2~3人候補が残ってたんだけど、その時点でヘイデンしかいないと思った。
それと、彼の目を見ると、なにかを秘めているという感じがするんだ。悩みを抱えていて、隠し事をしているような感じ。彼の目にそういったものを感じたのも、いいなと思った理由のひとつだ。
Q:エピソード1の時のユアン・マクレガーに関しては?
M:ルーカスとテレビ・シリーズの『インディ・ジョーンズ』の仕事をしていた時に、彼の奥さんのイヴがプロダクション・デザイナーで、スタッフの一員として一緒に働いていたんだ。
それで、彼女のことはよく知っていたし、当然彼女の旦那さんということでユアンのこともよく知っていた。そういうこともあって、僕の中では最初からオビ=ワン役にはユアン、とイメージが決まっていたんだよ。それと彼の写真を撮っていた時に、たまたまなんだけどちょうどアレック・ギネスがユアンと同じぐらい若い時の写真を見つけたんだ。それを比べたら、びっくりするぐらい似ていたよ。
Q:撮影現場にはいつも張り付いてたんですか?
M:そうだよ。
Q:ヘイデンは『スター・ウォーズ』の大ファンで、特にライトセーバーがお気に入りだったとか。撮影中はライトセーバーの音を真似て声を出してしまうので、ルーカス監督にも注意されたそうですが、その現場を目撃しましたか?
M:そうなんだよ! 彼はものすごく『スター・ウォーズ』のファンなんだよね。ライトセーバーの音は、後でスタジオで入れればいいんだけど、確かに彼は撮影中に、自分でブンブン言ったりして音を付けたりしていたよ(笑)。
Q:エピソード3では、ダースベイダーのあの黒ずくめの扮装をできるかどうかが気になっているようですが、次回作でヘイデンはあの衣装をつける可能性はありますか?
M:もちろん、そのことは考えているよ! 少なくとも、あの黒いヘルメットのようなものだけは被るということだけは言っておくよ。
Q:ルーカス監督とはどのような経緯で一緒に仕事をするようになったんですか?
M:一番最初にルーカスに会ったのは、80年代の初め。僕はイギリスにいて、インディペンデント映画を作ってたんだ。彼はその当時ももちろん、すばらしい映画を沢山ヒットさせている偉大な監督だった。その後、90年代に入って再会した時に、「君はちっとも成功を収めていないプロデューサーで僕は成功している監督だから、意外といいコンビになるかもしれないよ」なんて、冗談まじりで仕事に誘ってくれたんだよ。それで、テレビ・シリーズの『インディ・ジョーンズ 若き日の冒険』を手がけることになったんだ。それがルーカスとの最初の仕事だよ。
Q:一緒に仕事をした感想は?
M:ルーカスとの仕事では、スタッフ全員が誰が上とか下とか、年功序列とかそういう上下関係は全然なくて、本当にファミリーのようなオープンな関係なんだ。彼は僕に何かをやって欲しい時に、こうして欲しいとかこうしたいとかは絶対に言わない。「聞いて聞いて。これって面白いアイディアだと思わない?」とか、「これが出来たらスゴイと思わない?」とか、そんな風に言うんだよ(笑)。「僕はこういう風にやったらいいと思うんだけど、みんなはどう思う?」みたいな感じで、コラボレーションを上手く取ることがルーカスは抜群に上手いんだ。
Q:ルーカス監督と仕事をする上で、最も困難だったことは何ですか?
M:ヨーダを戦わせたいといわれた時は、正直言って大変だなと思ったよ(笑)。だけど、もちろん可能にしたけどね。『スター・ウォーズ』シリーズでは、大道具や衣装を借りたりするのではなくて、一から全部作らなきゃならないだろう? そうなると、ものすごく多くの人間がこのプロジェクトに関わることになる。僕は彼らが一番いい状況で仕事ができるように配慮する、そういった環境を作ることが、僕の一番重要な仕事なんだ。マーケティングからディストリビューションまで統括してハンドリングする中で、僕は製作費を最低限におさえて、いかにしていい環境を作り出すかってことをにいつも頭を悩ませている。無駄遣いはできないしね。それが最も難しいところだ。
Q:記者会見ではルーカス監督は、マッカラムさんに不可能はないと言っていました。不可能だと思ったことは、本当に一度もないんですか?
M:いいや。実はちょくちょく思ってるよ(笑)。そういう時には、ウィスキーをガーっと飲んでタバコを吸って、落ち着いてよく考える。そうすると、大抵のことはできるんだよ!
Q:『スター・ウォーズ』はすごく特殊なシリーズだと思います。先に4~6が出来ていて、観客はこれから起こること、新3部作の結果を既に知っています。そういった意味で、これから公開されるエピソード2、3というのは、旧作へつなげるために何かつじつま合わせのようなものが必要だったのではないかと思うのですが?
M:その通りだ。結果として、アナキンがダークサイドへ落ちてダースベイダーになるということはみんなが知っている。だが、観客が知りたいことは、その理由だ。本当の『スター・ウォーズ』のファンというのは、そこへ至るまでの結果を知りたくて仕方がないんだと思う。
実際、人間というのは悪の道に一歩足を踏み入れると、止まらなくなってしまうんだ。そして、人間は他人の悲劇を目撃すると、どうして? という興味をそそられてしまうもの。だから、観客のそういった興味の部分を満足させるように、と考えている。それと同時に、全6部作が完結した時に、1本のサーガになるようにという点も、いつも頭に置いているよ。できれば、全作を一度に上映したいと思ってるんだ!14時間以上になっちゃうけどね(笑)。
Q:今はインターネットで、瞬時にしてさまざまな情報が行き交う時代です。ファンの中にはプチ・ルーカスのような人がいて、ネット上で今後の展開についていろんな予想を披露したりしています。マッラムさん自身は、そういうファンの意見を読むことはありますか? 彼らの意見でこれはスゴイとか、それは違うよ、とか思ったりするんでしょうか?
M:よく読むよ。中にはとても面白いものもある。僕がインターネットって面白いなと思うのは、例えば日本とニューヨークにいる人が瞬時に情報を交換できたりすることだ。それは、今まで声を持たなかった人が声を持つようになったということだと思う。
エピソード1を公開した時のことなんだけど、映画館の興行主には大体2週間前ぐらいに作品を見せるんだが、たまたまお父さんが興行者であるという12歳の男の子が、父親と一緒に映画を公開よりも早く観た。その子供がホームページに、なんと10頁にも渡る批評を書いたんだよ! その批評はよかったはよかったんだが、その世界初のレビューを250万人のファンが読んだんだ。で、そのほとんどの人々が映画を観に行ったわけだよ。
普通、「ニューズウィーク」などの雑誌の読者が10万人いるとして、そこに『スター・ウォーズ』の記事が載っていたとする。だが、それを読んでも実際に観に行くのは半分か25%ぐらいなもの。そう考えると、インターネットの力というのは恐ろしいぐらい大きいものだと、その時に実感したね。
(今 祥枝)
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