Q:今回の役柄、エドワードは、平均的なアメリカ市民。映画のなかで平凡な男の役を演じることは、難しかったですか?
ギア(以下G)「まず、普通、という言葉の定義は何?一般的に見える人間でも、引っ掻けばきっと違う面が出てくるはず。例えば、ルールに従って歩く人をノーマルだとすれば、エドワードはそれまでの人生をずっとルールに従って生きてきた人間。多くの人は、ルールに従って生きていれば幸せだと考えるけれど、この作品ではそうでないことが起こってしまうんだ。確かに、ノーマルな人間を演じるのは難しい。特徴のないキャラクターは、デリケートに人物を組み立てていかなくちゃならない。最初は普通の男であるエドワードがだんだん自分を失って行く様子を、際立たせすぎないよう、観客にそれとすぐに判らないように、種を蒔いていくんだ」
「ギア様」と呼ばれて、「どうしてサマを付けるの?僕が年寄りだから?」と笑みを浮かべ、さらに幸せな夫婦生活を保つ秘訣を聞かれると、「このなかで、子供のいる結婚生活を送っている人は?」と会場に質問を投げかける。まばらに挙がった手を数えながら、
G「9人?10人?これは嘘なのか、それとも皆さんがシャイなのかな…?子供が出来たら、本当に何もできないんだ。この映画でも、夫婦がベッドにいると子供が入ってくるシーンがあるけれど、私の生活もまさしくこの通り。エキサイティングなことは、すべて日常に追われてしまうんだ」
Q:チベット仏教を熱心に信仰していますが、その信仰が役に影響することはありますか?
G「仏教は僕の人生の一部。宗教や心理は人格の一部だから、離して考えられるものじゃない。でも、脚本を読みながら仏教について考えることはないし、役を選ぶ時はもっと本能的だね。まるで、恋に落ちるときのように、ピンとくるものがある。どうして閃くのかは、ミステリーだけどね」
Q:移り変わりの激しいハリウッドで、20年以上にわたり主演俳優として生き残っている秘訣を教えて下さい。
G「僕は多分、映画業界から去りたくないだけだよ。映画の仕事は大好きで情熱は強いけれど、それをキャリアに結び付けて考えることはしない。キャリアへの思いが強すぎないから、生き残れているんじゃないかな」
Q:妻のコニーを演じたダイアン・レインとは、『コットン・クラブ』以来18年ぶりの共演となりますが、彼女の印象は変わりましたか?
G「本当に才能のある人は、最初から芽があるもの。彼女は8、9歳から子役として演技をしてきたけれど、その頃から才能は形作られていた。今も高い質を持ち続けているし、18年間で、結婚や離婚や出産などの経験を積んで、さらにクオリティを得たと思う。それが、彼女の個性を豊かにしているんだ。お互いの歴史をよく知っていることは、その映画にプラスになると思う」
Q:この夫婦には不倫が起こってしまいますが、夫婦間の忠誠心についてどう思いますか?
G「大変な質問だね…。人の行動を判別するのは難しいよ。人間は、何か行動したらそれに責任を持つべき、ということしか言えないな。それが良いか悪いかは自分自身が決めるべきだと思う」
Q:エドワードを演じるうえで、エイドリアン・ライン監督に要求されたことは?
G「この撮影はたまたま僕の家の近くで行われて、ランチには自宅に帰っていたんだ。これはとても珍しいことなんだけど、妻が衣装を着た僕を見て「あなた、なんて普通の男なの」って言うんだよ。それを聞いたライン監督は喜んでいた。それこそ、彼が求めていたエドワード像だったんだ。僕は時々、活発に演じたりユーモアを言ったけれど、その時は監督から落ち着くように言われたよ」
Q:ダンディズムの代表ともいえるイメージがありますが、その秘訣は?
G「20年前なら、かっこいいと言われたけれど…もうレザージャケットは着れないよ(笑)。歳をとると、若い頃に大切だったものが無意味になる。今は、人間自体がクールになることを望んでいるよ。あとは、姿勢を正すことかな」
Q:もしも、実際に浮気されたらご自分はどうなると思いますか?
G「それは実際起こるまでわからないよ。この映画はまさにそんな心理を描いているんだ。自分ならどうするか?ってね。不倫という事実を知ってどう対応するか、その後どうしていくかを問いかけている。監督は、視点をうまく切り替えながらこれを描いていったと思う。ある時点ではコニー、ある時点ではエドワード、そしてまたポールの視点を色々な角度で取り入れて、それぞれに共感できるようにしているんだ。妻の不倫で、自分がどうしていいのかわからない迷いが、ドラマ性を掻き立てていると思う」
Q:これまで演じた役のなかで、最も自分が好きなものはどれですか?また、今後はどのような役を演じていくつもりですか?
G「それはあまり、重要じゃないな。役は常に変わっていくし、26歳で初めて演じたときと53歳になった今の自分を比較はできない。俳優は、役のキャラクターになることは不可能だ。自分はその役をはるかに超えるものだと思うし、自分のなかのかけらを集めてキャラクターを仕立てていくのが、僕なりの役作りなんだ」
取材/文 竹内詠味子
9月24日(火) パークハイアット タワーホールにて
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