トム・クルーズ
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しかし別の側面では、そういう社会になったとしたら人間には基本的に、この手の重荷は扱いきれないんだ。悪い部分を隠して不正に使うようになる。それから、この設定は映画として、大きな可能性を秘めているんだ。素晴らしい登場人物たちも、実にスクリーン向きだしね。ある週末、スティーヴンとスコット・フランクは科学者たちと過ごした。
みんなで「どうなるんだ? 未来はどんな風だろう?」と話し合ったそうだ。誰もが一緒に仕事をしたいと思っているスティーヴンが加わることになって、彼がこの仕事をやりたいと言ったとき、こう思ってとても興奮した。「スティーヴン・スピルバーグは未来をどう描くんだろう?」とね。2054年というのは、そう遠い未来ではないから、社会はどこへ向かっているのか、じっくり考えたよ。それにしても、こういった作品は大いに価値があるね。スティーヴンが練りあげたイメージとスコット・フランクが書いた魅力的な登場人物だけでも、大作映画の魅力に溢れていると思うよ。
「君と仕事をしたい。君を監督したいんだ」とスピルバーグは言った
――あなたとスティーヴン・スピルバーグは『マイノリティ・リポート』で、初めて一緒に仕事をしたわけですが……。
C 僕が駆け出しだった頃、『卒業白書』の直後に彼と会った。だが彼について知っていたのは、偉大な人物だってことだけ。スティーヴン・スピルバーグだよ(笑)!
確かケンタッキーに住んでいたとき、『JAWS/ジョーズ』が初めて映画館に掛かったのを観にいったと記憶している。『E.T.』の試写で新人の僕の隣に座り、「君と仕事をしたい。君を監督したいんだ」と彼は言った。『卒業白書』のすぐ後の話だ。そのとき僕はこんな感じだったよ。「それはすごいな。どうもありがとうございます」。
そういうわけで、あと一歩で仕事をしそうな機会は数回あったんだ。何度か話し合う機会もあった。しかし今回は実現した。この作品でね。
この作品をスティーヴンとやるために、何年もかけてきたんだよ
――スティーヴンとあなたは、ハリウッドでもっとも力があります。お2人ならどんな作品でも、作りたい映画を作れるのではありませんか? 実際のところ、どうなのでしょう?
C 確かに僕は恵まれている。作りたい映画を作れる力がある。だが、いつも「これだ」と思う作品を探しているんだ。作りたければ何でも、と言うのは簡単だが、何が成功するかは分からない。僕に分かるのは、自分は何を作りたいのか、自分が面白く感じるかどうか、ということだけだ。
脚本の変更から実際の撮影の手順まで、プロジェクトを育てるには時間や努力が必要なんだよ。それでも先はどうなるか分からない。だからこそ「自分がやりたい作品か、自分が関わっていたい作品か」ということだけは、ハッキリさせておかないとね。それには腰を据えて取り組む必要がある。自分が面白いと感じる作品に出会うのには、本当に時間がかかるんだ。座っていたら、目の前に素晴らしい脚本がポンと現れればいいと思うよ。でも、そうはいかない。ラクできるなんて期待してない。時間がかかるものなんだ。この作品をスティーヴンとやるために、何年もかけてきたんだよ。
スピルバーグは本当に素晴らしいストーリーテラーだ
――あなた自身が監督したい作品はありますか?
C 監督をしないかという話はたくさんあるよ。でも「これ」という脚本に出会ってないんだ。ともかく、俳優業でも十分楽しみはあるしね。
――あなたは、きっと素晴らしい監督になるでしょうね。
C ありがとう。さて、どうだろうね(笑)。スティ
ーヴン・スピルバーグと仕事をすれば、この人物がいかに優れているかが分かる。彼のアイディアを理解するのは、時にとても困難だ。そして「一体どうするつもりだ?」と思う。それは彼にしかできない。彼がスピルバーグである理由なんだ。彼は本当に素晴らしいストーリーテラーだ。
この作品を見れば、ひとつの世界を作り上げたのが分かるだろう。しかし彼は「これが僕の世界だ。ほら、これだよ」と吹聴したりない。当然の事と思っているんだ。彼の興味の対象は登場人物とストーリーで、目を奪われるような世界も、すべてストーリーをよりよくするため。「僕の仕事を見てくれよ」とはなりえない。作品の1要素に過ぎないんだ。『マイノリティ・リポート』で、最初に築き上げられた世界観は、すべて100パーセント、スティーヴン・スピルバーグだよ。現代社会に通じるストーリーを、とても洗練された、みんなが理解し楽しめる作品に作り替えた。
知識を要する部分もある。それを分かった上で、彼はこの活劇に取り組んだ。ここにあるサスペンスは『マルタの鷹』や、他の昔の素晴らしいフィルムノワールと共通点がある。そういった作品のスタイルを取り入れているんだ。彼は登場人物を理解し、進行中の事柄から一瞬たりとも目を離さなかった。すごい集中力だよ。
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ハニー・スティーヴンス/訳 吉田恵子
とても興奮した「スティーヴンは未来を
どう描くんだろう?」とね
――『マイノリティ・リポート』の話があなたのところへ来たのは、いつ頃ですか?
トム・クルーズ(以下C) 確か僕が『アイズ ワイド シャット』をやっている最中だったよ。まず初期段階の脚本を読んで、それから短編小説を読んだ。その短編に心を捕らえられたんだ。僕は小説をスティーヴンに送って、それから脚本家のスコット・フランクが参加してきたよ。
――物語のどういう部分に引き付けられたんですか?
C 発想が素晴らしいんだ。実に今日的だと感じたね。事件が起こる前に殺人犯を特定できるというアイディアと、予知を扱ったストーリー全体が気に入った。じっくり腰を据えて考えさせられた。
「こういう状況になったら僕はどうするだろうか? 社会に、こういうものは必要なんだろうか?」という風に。この国や世界中で犯罪発生率が上昇しているのを知っているから、ある側面ではとても引かれた。現在の世界の状況を思えば、犯罪予知の能力があるというのも実に興味深いよ。 |
マイノリティ・リポート
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(C)2002
TWENTIETH CENTURY FOX and DREAMWORKS L.L.C. CR: DAVID
JAMES
2054年、ワシントン。犯罪予防局の設置で今や殺人事件はゼロ。事件は、予知能力者(サマンサ・モートン)の脳を通して映写される。ある日、主任刑事のジョン(トム・クルーズ)は、その映像に見知らぬ男を殺す自分の姿を発見する。
監督: スティーブン・スピルバーグ
脚本: スコット・フランク / ジョン・コーエン
■キャスト■トム・クルーズ/コリン・ファレル/サマンサ・モートン/マックス・フォン・シドー
製作国: アメリカ
日本公開: 12月7日
(日劇1他全国東宝洋画系)
上映時間: 2時間25分
配給: 20世紀フォックス映画
公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/minority/index.html
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