『日本映画界の巨匠・篠田正浩が構想10年、監督作36本目にして自らが引退作品と公言する『スパイ・ゾルゲ』がついに完成した。日本とドイツの最高機密をモスクワに送り続けた実在したスパイ、リヒャルト・ゾルゲを通して見える激動の<昭和>を描く歴史超大作だ。篠田夫人でもあり、本作のメイキングを初監督した岩下志麻はじめ、主役のイアン・グレン、本木雅弘ら主要キャストによる完成披露会見が行われた。
【9・11アメリカ同時多発テロ、イラク戦争などが続いている時期にこの作品を公開する意義】
篠田監督:私は満州事変の年に生まれて、ベトナム戦争の時に監督になった。そしてイラク戦争の起きた今年、監督を引退します。私の人生はずっと戦争と一緒だったんです。私にとってゾルゲ事件を紐解くということは私の生き方を振り返るということでもあったんです。
アメリカの「グランド0」などと言うけれど、日本にも「グランド0」はあります。それは広島であり、長崎であります。
無差別爆撃は今も続いています。いつまでたっても戦争は終わらないんです。人間は何も学んでいないんです。この映画の最後にイマジンのインストゥルメンタルが流れます。私のメッセージは、このイマジンの歌詞に込めています。
イアン・グレン:僕が今回の戦争について意見を述べるのは控えたいと思います。なぜなら、僕はこの戦争の内容がよく分かっていないからです。
監督のおっしゃることについては同感です。ゾルゲと尾崎は戦争のためではなく、平和のために闘ったんです。話はとても複雑ですが、彼らの願いはとてもシンプルです。平和を求めて命を投げうった男の話なのです。
本木雅弘:この映画がクランクインした時はワールドカップの開催中で、渋谷のハチ公の前で沢山の人達が盛りあがっていました。今は同じ場所で戦争反対のデモをしています。まさに自分の前で時代が動いていると感じました。この作品は個人の感情がどうのこうのではなく歴史が主役です。大きく目を見開いてこの時代を見つめることが、尾崎やゾルゲの心に近づくことだと思いました。
岩下志麻:この作品は反戦がテーマだと思っています。戦前、戦中、戦後、その中に常に人々の反戦の気持ちがあったということです。
【イアン・グレンについて】
篠田監督:インターネットでイアン・グレンを見つけてから、すぐに彼に連絡を取り、彼と会いました。その時、彼こそがゾルゲだと確信したんです。それから4時間、私の拙い英語でミーティングをしました。その時に彼の人柄にとても感動しました。
本木雅弘:持っているエネルギーが僕とは違うと思いました。やはり外人は違うんだと妙な納得をしたりしました(笑)。
【本木雅弘について】
イアン・グレン:本木さんは俳優として、とても繊細な人です。そして、彼はとても努力家です。英語のセリフを何百回も練習していました。彼のこの作品に対する姿勢は素晴らしいと思いました。
篠田監督:本木雅弘くんについては、脚本を書き始めて2、3行で本木くんを尾崎にしようと決めました。本木くんは一見コミック・キャラクターの要素も持っていて尾崎のキャラクターからは、ほど遠く見えました。しかし、彼と一緒にいて気が付いたのですが、彼は理づめで役を作り込んでいくんです。尾崎は同じようにして政治を理解しようとする。その点に共通点があると思いました。
【篠田監督について】
イアン・グレン:篠田監督が日本で有数な監督だということは知っていました。この話があった時、すぐに出演を決めました。俳優は常に豊かで複雑な役を求めています。監督はとてもやさしく僕に接してくれた。そして、歴史に対する知識が私を優しく導いてくれました。僕は篠田監督、最後の作品に出演できたことをとても誇りに思っています。
本木雅弘:これだけ複雑な歴史を忠実に再現しながら、それを楽しんでやってしまう監督のパワーには本当に感心しました。監督の尽きることのないエネルギーを目の前にしてただ、ただ驚くばかりでした。そんな監督に奥様である岩下さんはよくついていかれたと、それも改めて感心しました。
岩下志麻:篠田最後の作品ということで私自身カメラを担ぎメイキングも兼ねてメモリアルビデオを作りました。私が全部を撮れなかった部分はありますが、テープは全部で80本にもなりました。去年の8月から編集しているのですがまだ終わりません。
篠田とは共に「表現社」を立ちあげ、一緒にやってきました。篠田がこれを最後の作品にするというのは色々な苦労を側で見ていますので、ある意味ほっとしているところもあります。
【篠田監督から岩下志麻に】
篠田監督:岩下志麻は、私のよき伴侶です。42年間のつき合いです。今迄、どうもありがとう。この場を借りてお礼をいいたい。最初、脚本に彼女の役はなかったのだけど、どうにかして役を作ろうと思い、最後の方にしか登場しませんが役を作りました。
『スパイ・ゾルゲ』は6月14日(土)全国東宝系にて公開
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