人気ヒップ・ホップアーティスト、エミネムの初主演映画『8Mile』の監督で97年に9部門のアカデミー賞にノミネートされた、『L.A.コンフィデンシャル』のカーティス・ハンソン監督が来日した。FLiXムービーサイトでは今回、エミネムの大ファンでもあり当サイトでも人気連載、「まほのハリウッドへの道」のまほちゃんに通訳なしの突撃インタビューを敢行してもらった。まほちゃんの鋭い質問に監督もノリノリ! ここにその一部始終を掲載する。(Yahoo!ムービーにも同様の記事を掲載しましたが、一部過激(?)な発言があったため部分的にカットしました。こちらはノー・カット版でどうぞ)
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全米で大ヒットし、本年度のアカデミー賞では見事最優秀主題歌賞を獲得した人気ラッパー、エミネムの半自伝的映画『8Mile』のカーティス・ハンソン監督が来日した。97年に製作した『L.A.コンフィデンシャル』では、アカデミー賞脚色賞を受賞したハンソン監督は、多忙なスケジュールにもかかわらず終始おだやかな笑顔で答えてくれた。
Q ハンソン監督、日本へようこそ! 実は、『L.A.コンフィデンシャル』の時にあなたの好きな黒沢監督作品からインスパイアされたシーンがあったと聞いたのですが。
A そうだね。厳密にいうと少し違うんだけど、確かにまだ私が映画少年だったころ、黒沢監督、それから小津監督はとても尊敬していた。でも、実際あの映画で彼らの作品から直接影響を受けたシーンがあるというわけではないんだよ。実はあの映画が完成した後に、黒沢監督の『野良犬』という映画を見て、私の作品ととてもよく似たシーンを見つけたんだ。その時、私は彼との絆をとても強く感じたんだよ。
Q それでは、今回の作品ではどうでしょう? オープニングでエミネムがヘッドホンを付けて集中している「静」の場面から、ラップバトルの「動」へとうつっていくところに私はとてもサムライ的なものを感じたんですが。
A 面白いね。それはとても面白い指摘だ。
いや、意識的ではないんだ。でも、黒沢や小津からはいかに音楽を活用するかということを学んだ。映画において音楽というのはとても重要だということをね。そしてこの映画にはスコアつまり楽譜があって、オーケストラがあってというようないわゆる映画音楽というものが存在しなくて、全てソングスのみで構成されていて、その音楽が、映画ととてもリンクして素晴らしくクールな出来だった。
その一方で『L.A.コンフィデンシャル』には18分という長いオリジナルのオーケストラ(スコア)が使われていたんだ。その音楽を手がけたのはジェリー・ゴールドスミスというハリウッドでもとても有名な作曲家なんだけどね。その、オーケストラのみで作られた18分もまたとても素晴らしかった。
そういう点で、どちらの映画でも音楽というものを最大限に有意義に使えたのは彼らの影響のおかげだったのかもしれないね。
Q 舞台となったデトロイトには以前に行ったことが?
A ああ、何度かね。あの都市はとても面白いところだということはいつも感じていたんだけど、今回この映画を作るまではそれほど長い間滞在したことはなかったよ。
Q なぜこのような質問をしたかというと……この映画はまさに“デトロイト”の話で、撮影もデトロイトで行われた。その点で、地元の人間ではなかったあながこのデトロイトを完璧にとるというのに不安はなかったんでしょうか?
A それはあまりなかったね。どんな撮影でも初めての土地というのはよくあることだし。確かにこの映画では、リアルなデトロイトを描かなければならなかった。ただ、この魅力的な都市を……というのも昔はとても栄えていて住民達は約束された未来に大きな夢をいだいていた。それが今では衰退して、すっかり退廃的になってしまっている。あの町にいるとゴーストが見れるんだよ。
昔は、幸せな家族が住んでいたような家が、今は廃屋になってたくさん残っている。 まさにロケ地としても、ぴったりのロケーションだった。
そして、その時に感じたんだ。この町は若い人たちに、たとえ夢を持てないような現実でも自分の道を探すんだというストーリーを伝えるのにピッタリだ! ってね。将来に悩む若者たちは、デトロイトだけじゃなく世界中にいるでしょう? ロスにも、ニューヨークにも、ロンドンにも、もちろん東京にも!
デトロイトでの撮影は大変ではあったけれど、それだけの高い目的意識を持てたおかげでとても頑張れたんだよ。
Q 確かにそうですね。実際地元の子供たちとも話したんですか? 彼らは、この映画に満足したと思いますか?
A そう願っているよ(笑)。 それに、地元の子供たちとはとてもいい関係を持てたんだ。何しろ私たちには、エミネムという強い味方がいたからね。彼が自分の育った場所を案内してくれたし、実はキャスティングもかなり地元のヒップホップキッズ達を使ったんだよ。ラッパーや、その辺の若い子をつかまえてきて、オーディションもしたしね。作品を作るうえでのリサーチにもずいぶん協力してもらったよ。
Q まだ、若いころのエミネムのような子供たちはいましたか? 絶望的な状況でも夢に対しては、ハングリーでしたか?それとも、夢なんてもうあきらめてしまっていましたか?
A リトル・エミネムはたくさん、本当にたくさんいたよ。みんな精いっぱい夢見て生きていた。
Q それはデトロイトからエミネムというビッグスターが出たことと関係してると思いますか?
A 直接の原因になってるとは思わないけど……彼の成功が子供たちのエネルギーにはなっていると思う。特にデトロイトはもともと音楽のとても栄えていた土地ということもあって、音楽での成功を夢見ている人が多いんだ。ジャズや、モータウンとか、音楽的歴史の長い土地だからね。
Q なるほど。それでは作品の話に戻りますが、エミネムが彼の住むトレイラーから流れるレコードに合わせて、親友とふざけながらライムをのせて行くシーンがありましたね。あのシーンは、全体の中でも特に自然で私のお気に入りでもあるんですが。一体どうやってあんな素敵なシーンを撮ったんですか?
A それはね。僕はあの映画を全体的にドキュメンタリー調にとりたかったんだ。例えば、ラップバトルのシーンでも観客が実際あのステージに一緒にたってるような臨場感を出したかった。君のお気に入りのシーンも、リハーサルをしながらエミネムの口から自然に出てくるライムと、このシーンでは何を表現したいのか、などということを話し合いながらリリックをつくっていったんだ。あのシーンも、私たちはリハーサルの時点から、とても楽しめたんだ。マーシャルとスタッフみんなで。
Q その楽しさは、スクリーンからも十分伝わりましたよ。
A レコードに合わせて大笑いしながら、うたっててね。ホントに子供のようにはしゃいでいた。あの親友のような、ブラザーのような関係である二人だからこそ、母親がトレーラーでくずのような男と暮らしていることを冗談めかしてライムできる。そんな感じがとても出せたと思うよ。
それにしても(急に思い出したように)、それを君が指摘したのはとても興味深いね。今までだれ一人として指摘しなかったんだけど、実はあのシーンはとても重要なシーンなんだ。 ジミーが自分自身をバカにしているっていうのはまさに…。
(二人で一緒に)エミネムのスタイル!!
そうそう。そして、それが彼の1番の魅力で、あのシーンをきっかけに観客は彼に好意を抱いてくれると思う。
そしてそれと似たシーンが『L.A.コンフィデンシャル』にも実はあって。ケビン・スペイシーとガイ・ピアースがバーに行って、自分は裏切り者だっていって笑うシーンがあっただろう? あれも、観客に主人公を好きにさせる。という効果を出していたんだ。二つの映画で、共通してまた、すごく似ていたとても重要なシーンだったと思うよ。
Q なるほど!
先程、あなたが「ドキュメンタリー調」と言ったときに、私はあのSEXシーンを思い出したんですが。あのもっていきかたはずばり適切で最高にリアルでした。あのシーンは一体誰の責任下にあったんですか?
A (爆笑)私のアプローチは、やはり同じでドキュメンタリー調。とてもリアルにとりたかったんだ。ロマンティックにしたくなくてね。だから君の言った通り確かにあれは、ラブシーンではなくて、SEXシーンなんだよ。それから、シーンに使われた歌もリアリティあふれた生々しい音楽で包みたかったんだ。
ブリットニーと、マーシャルはとても素晴しい仕事をしてくれた。普通、あのテンションまでもって行くのはとても大変だからね。それにとてもホットだったろ?
Q 本当に、ホットでしたね!!! エミネムファンの私としては、かなり興奮してしまいました。まあ、彼ちょっと早かった気もしましたが……。
A (爆笑)そうだったかい? それは申し訳なかったなあ(笑)。
Q 最後に、私は二年間ハリウッド……といっても役者希望や、監督志望の貧乏人達がすむハリウッドに住んでいたのですが、私たちにとっての8Mileはハリウッドヒルズ(ハリウッドのスター達がすんでいる)と、私たちの地域の間を通っているハリウッド大通りでした。……つまり、人それぞれが心の中に8Mileというものを持っていると思うのですが、あなたにとっての8Mileとはなんだったでしょうか?
A 私にとっての8Mileは。終わらない長い旅。自分自身をひたすら向上させていきたい。そう思っているから。そんな思いを込めて、あのラストシーンもビッグになることより、自分の生きる方向を探すということに重点を置いたラストにしたんだよ。
Q あのシーンは私もとても、ぐっときました。ハリウッド的な安っぽいエンディングになるかと思っていましたが。さすが、ハンソン監督!!
本当に本当にいい映画でした。ありがとうございました。あのやんちゃっ子のエミネムが、よくぞまあ一つの問題もなく撮影を終えたなあ。と思っていたのだけれど、監督に会ってみて納得納得。一つ一つの質問に丁寧に答えてくれ、sexシーンのことを質問したときも照れながら「hotだったろ~?」と自信満々。何しろ若い!! うちの父ちゃんとおない年なんて到底思えん! それにしても、あのおおらかさと、誠実さでエミネムの天才的な演技力を引きだしたカーティス監督には脱帽です。
ロスの話をしていたら、「まさにクロサワの天国と地獄だよね」といたずらっぽい笑み。さっすが監督、わかってらっしゃいます。私もついつい「そうなんですよ。ルームメイトはヤクチュウだし」なんて余計なことまでいっちゃって。こんなすてきな人だったら、エミネムだって心を開くはずだわ。私なんて3秒で開いちゃったもの。
50代にはなかなか理解不能なはずのEMINEM相手だって若い感覚のある、彼だからこそ、この『8Mile』というクールな作品が出来たのでしょう。
映画にゃ厳しい、うちのだんなさんもおすすめのこの映画!! リアルなラップバトルシーンは最高です。ヒップホップ好きも、あんまり興味ない人もレッツゴー!
(インタビュー:森田まほ)
『8Mile』は5月24日日比谷スカラ座1他にて公開
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