ハン・ソッキュ
「グリーンフィッシュ」「八月のクリスマス」「シュリ」と、彼の出演作は必ずヒットするというジンクスを作った韓国のスーパースター、ハン・ソッキュが「二重スパイ」で再びスクリーンに復活。99年の「カル」以降、長い充電期間に入っていた彼が復帰第一作として選んだのは、亡命を装い韓国に潜入した北朝鮮のスパイというハードな役柄だった。拷問シーンやアクションも体当たりで演じた力作だ。
「一生を通して自分の信念を貫き通すという役を一度やってみたかったんです。その信念が正しいかどうかというのは問題ではありません。それはその人自身の生き方そのものであって、他人が口を挟むことではないのですから」
ワンシーンだけでも目と心に残る映像を! そんな彼の役作りの方法について尋ねてみた。
「今回の作品で9本目になるのですが、いつも演じる役と自分の共通点を探して膨らませることから役作りが始まります。
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今回は北朝鮮の人々がどんな日常生活を送っているのかを想像することから始めました。5年前韓国に北朝鮮の潜水艦が侵入したという事件がありました。
その時一人だけ生き残った方に話を聞いて指導を仰いだり、朝鮮戦争当時韓国側の捕虜なり、40年たっても思想を変えなかった、イ・インモ氏の本を読んだりしてリサーチを進めたんです。
私にとって一番大切なことは、物語の中の人物がリアルで、そこに存在しているという現実感を観客の方々に感じ取ってもらい、共感してもらうことなんです。一本の映画の中でワンシーンだけでも目に焼きつけて帰ってもらえれば幸せですね」
南北分断の歴史を世界に知ってもらいたい
「最近の戦後生まれの韓国の若い世代の人たちは“南北統一”という大問題を、どこか遠い国で起きていることのように感じているんです。まるで“空気”のようにいつもそこにあることのようにね。だからこそ今彼らにそのことについてもう一度考えてもらい、この主人公の生きた、南北の諜報戦が激化し、民主化運動で揺れた韓国の80年代という過去をきちんと受け止め、そこから彼らがこれから作る、新しい未来を見据えてもらうきっかけになればいいと思ったのです」
「二重スパイ」は過去、「JSA」は現在、そして「シュリ」は未来の映画だと語る彼の瞳には、南北統一の希望の光が宿る。
「『二重スパイ』では過去の苦い歴史を描き、『JSA』では現在の民族分断の苦悩に泣き、『シュリ』は未来への希望を予感させる映画として、私達の南北問題の三部作がようやく出来上がりました。映画はその国の文化そのものですから、その統一への平和の願いは、必ずや国境を超えてくれると信じています」と、話だけを聞いているとまるで聖職者の演説のような内容である。実際のハン・ソッキュ氏は一つひとつの質問にもきちんと真摯に答える姿勢を決して崩さない、とても誠実で真面目な人柄に誰もが好感を持つだろう。彼が口にするからこそ、現在忘れられかけている南北統一の問題が現実味を帯びてくるのだ。
最後に、これまでの役柄を考えると、デジタルとは縁遠そうな彼にインターネット歴をこっそり聞いてみると「家にはパソコンもないし、自分も活字を読んでいた方が落ち着くアナログタイプの人間なんです。でも今どきこんなんじゃダメですよね。私の3歳と5歳の娘が大きくなる頃までには考えます」と、子煩悩な良き父親の顔を覗かせた。韓国の大スターは、本当にどこまでも素晴らしく“いい人”なのである。
(文・取材/平野敦子)
「二重スパイ」は6月7日より全国東映系にて公開
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