Q ボクサーという役になりきるため、厳しいトレーニングを積んだと聞いていますが、どんな内容だったのでしょう?
A この作品は昨年の10月にクランクインしたんですが、それまでにトレーニングできる時間はわずか4ヵ月しかなかった。だから、10数年も真剣にボクシングをやっていたキム・ドゥックその人と同じ体になれるわけはない。でも、何とか近づきたいから、1日5時間、週6ペースでトレーニングしましたよ。トレーニングメニューは5
種類の種目(1、ランニング 2、縄跳び 3、ミット 4、アクション 5、ウェイトトレーニング)を3分やって1分休憩、で15回繰り返す。ちょうどボクシングが15ラウンドやるように、5セットを15回。さらにストレッチもやりました。今はもう70~72kgぐらいだけど、撮影している時は体重78kgになってましたね。でもね、実はホンモノのキム・ドゥックはもっと痩せていたらしいんです。ただ、それに合わせてしまうと、カメラには弱々しく映ってしまうから、逆に増やしたんです。
Q 韓国ではヒーローとして知られる実在した人物を演じる上でプレッシャーはなかったんですか?
A プレッシャーより、むしろぜひ挑戦してみたいという気持ちの方が強かったですね。実は『友へ チング』が大ヒットした後、非常にうがった見方をされたんです。たとえば、「たまたま運がよかったんだ」とかね。そういった評価をどうしても覆したかった。「役者としてしっかりやっているんだ」と。だから、とても辛い役づくりになることぐらい覚悟しても、やってみたい役だったんですよ。
Q ところで実際に、キム・ドゥックという人は韓国ではどんな存在ですか?
A 韓国では世界チャンピオンにならないと、有名にはなれなくて。そういう意味でもドゥック選手は不幸でした。しかも、当時の韓国は独裁政権下で、軍部から「世界タイトルマッチに出るなら、最善を尽くせ」とプレッシャーがかかっていたようです。で、結局、彼は亡くなった後にヒーローになった。僕にとっては、んー、ドゥック選手はヒーローではなかったな。僕は子供の頃サッカーが好きだったんですよ。だから、ヒーローといえば、チャ・ブンクン(車 範根)。ドイツで活躍していたサッカー選手でした。今、メジャーリーグで活躍しているイチローや松井のような存在ですね。その後チャ・ブンクンは韓国代表監督も務めて…。あれっ?なんでサッカーの話になったんでしたっけ(笑)。
Q 撮影中の印象的なエピソードは?
A 感情移入といえば大袈裟ですが、ラスベガスでの運命の試合前のシーンを撮ったとき、3000人ものエキストラ前でふと、「キム・ドゥックはこのとき、どう思っていたのだろう?」と考えたんです。自分は今、演技をしようとしているけれど、実際彼は、8000人はいたといわれる観衆の前で、生死をかけていたのだということを感じた時、とても複雑な気持ちになりました。
Q 『アタック・ザ・ガスステーション』ではコミカルな役柄を、『友へ チング』ではシリアスな役柄を演じて、本作へと続いていますが、あなたの作品選びのポイントは何でしょう?
A 私は一切、ジャンルも問わないし、もちろんキャラクターでも選ばない。あくまでもストーリーで決めます。そして、どういった作品であれ、ヒューマニズムにあふれた要素があるかどうか。そして、逆境から立ち上がるような人間が描かれているものに出たいと、常に思っています。
Q 今後、挑戦してみたい作品は? たとえばラブストーリーはどうですか?
A 実は次回作の『星』はラブストーリーなんです。平凡な男が恋に落ちる…という話。ラブストーリーといえば、美男子が主演と決まってる。僕が演じることで、その常識を打ち破って、社会に貢献することになればいいんですけどね(笑)。
演じてきた役柄のせいか、ユ・オソンに対して、男っぽいイメージを抱いていた。実際、そう思われることが多いらしい。だが、「ちょっとボーっとしてヌケてる」ところがあるといい、『チャンピオン』のキム・ドゥックとは「田舎者というところが似てる」と笑った。しかし、真摯に、そして純粋に一つの道(ボクシング-俳優)を極めようとする、そこが一番、似ているように私には見えた。
(文・インタビュー/前田かおり)
|