クエンティン・タランティーノと、ユマ・サーマン。
『パルプ・フィクション』以来、世界中でいったいどれだけのファンがこのコンビの復活を待ち望んでいたことだろう。9年という時を経て実現したその夢の作品『キル・ビル』は、もともとタランティーノが「パルプ・フィクション」を撮っている時からもっていた構想だった。
「『パルプ・フィクション』の撮影中に、彼は私を主演にした次の映画のアイデアだといって、この映画の構想について話してくれていたのよ。数年前、あるパーティで久しぶりにばったりクエンティンに会った時それを思い出して、‘ねえ、あの映画について、その後何も聞かないけど、あれはどうなったの?’と聞いたの。その会話がきっかけで、彼は再び、そのままになっていた脚本の執筆に乗り出したみたい」
サーマンがこの映画で演じるのは、結婚式の当日に、自分のかつてのボスであるビルとその手下から暗殺されそうになり、昏睡状態に陥るという、その名も“ザ・ブライド”。そもそも、このキャラクターを花嫁にしようと提案したのは、サーマン自身だったという。
「この役は、クエンティンと私の共同作業の中で出来上がっていったもの。常に意見交換をしていたから、どこまでが私のアイデアで、どこまでが彼のものだったのか、もう分からないぐらいよ」
しかし、そこまで二人が情熱を注いだ映画の撮影がようやく始まろうという時、ひとつの大きな問題が生じる。サーマンが夫のイーサン・ホークとの間に、2人めの子供を妊娠したのだ。その知らせを受けたタランティーノは、サーマンの出産が終わるまで撮影を延期するという異例の決断を下す。
「クエンティンがそう決めたことについては、今でも心から感謝しているわ。あの役について私は最初からあまりにも深く関わっていたから、ほかの女優がやることになったとしたら、すごく妙な気持ちになったと思う。この映画に出演することは私の運命だったの。それと同じくらい、この子を産むことも私の運命だったのよ」
役者のために開始直前だった撮影を1年以上も延期するという監督は、ほかにはいないだろうとタランティーノも自認する。そこまでしてくれた彼のために、無事男の子を出産したサーマンも、全力をもって努力した。彼女にとっては珍しいアクション満載のこの映画に備え、出産が終わるやいなやトレーニングに励んだのだ。
「出産直後の体は、元どおりに戻すだけでも大変。それなのに、毎日8時間、週5日のトレーニングを3か月もこなしたんだから厳しかったわ。でも、今となってはいい経験になったと思っている。私には絶対できないと思っていたようなことが、訓練の結果できるようになるって、いい気持ちよ」
監督と主演女優の情熱と努力の結果が集約された『キル・ビル』。その出来にサーマンは心から満足しているようだ。
「エキサイティングでスリリングで、ユーモアもあって。そして何よりも、今まで誰も見たことがないようなオリジナリティにあふれている。こんな映画を作れるのは、クエンティンしかいないわ。彼のことを、ほめる人もいればけなす人もいるのはわかっている。でも誰が何と言おうと、彼は生まれながらのフィルムメーカー。私にとっては文句なく、最高のディレクターよ」
(文・インタビュー:猿渡由紀)
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