ソフィア・コッポラ『ロスト・イン・トランスレーション』
■ホテルに一歩足を踏み入れるとまるで空中に浮かんでいる島にいるよう Q:ソフィア監督自身の東京の思い出についてお聞かせ下さい。 S:初めてパークハイアットホテルに滞在したとき、素晴らしいホテルだと感心したわ。それ以来日本に来たときは必ずここに泊まるのよ。新宿の街中はとてもごちゃごちゃしているのにもかかわらず、ホテルに一歩足を踏み入れると、まるで空中に浮かぶ島にいるような美しい静寂に包まれるのよね。その対比をとても興味深く感じたわ。今回の映画には、私が東京で一番好きなホテルやレストランを撮ったのよ。それに東京の友人たちにも出演してもらって、主人公たちに東京を案内してもらったの。この映画は私自身が東京で体験したことや、感じたことが投影されていてとてもパーソナルな作品ね。 Q:カリカチュア(風刺画)と現実との線引きはどのように引かれたのですか? S:あくまでも登場人物の目を通した日本の印象を描いたつもりよ。主人公たちは異国の地に来た全くの旅人で、彼らどのように感じるかを描きたかったの。つまり簡単に言うと旅行者の視点から描いたわ。そしてお互いが心を開き知り合うと共に、東京に対しても心を開いていくという設定なの。 R:初めてソフィアの書いた美しい脚本を読んだとき、とても感動したよ。僕は東京に行ったことがなかったんだけど、脚本に描かれた東京は美しい印象派の絵画のようだった。さらに人間の孤独感や絆について、とてもうまく書かれた物語だと感じたよ。誰もが経験したことがあると思うけど、普段の生活から離れて1人で見知らぬ土地に行くと、感覚が研ぎ澄まされるんだ。まさにソフィアも素晴らしい観察力と洞察力を発揮して、東京や京都を描いたと思うね。 ■東京の友人の助けが無かったらこの映画は作れなかった Q:ソフィア監督の東京にいる友人たちにメッセージをお願いします。 S:実は何人かの友人とはさっき一緒にランチを食べたばかりなの。彼ら東京の友人の助け無くしては、この映画を作ることは難しかったからとても感謝しているわ。彼らがいなければ、隠れ家的なバーや古典美術館の存在は到底知りえなかったでしょうからね。何人かは実際に映画に出演してくれたり、ロケ班に加わってくれたりしたのよ。この映画がこんなにも大勢の人々に受け入れられたことに、私の友人たちも本当に喜んでくれているわ。明日、明後日と再び友人たちに会えるのをとても楽しみにしているわ。 Q:東京ロケで使った場所でカットしたシーンや使わなかったが好きな場所があれば教えて下さい。 S:ロケで使いたいバーやクラブがあったんだけど、東京は店の入れ替わりが激しくて無くなっていたのよね(笑)。他にも撮影したけどカットしたシーンもいくつかあったわ。 Q:ヒロインのスカーレット・ヨハンソンとご自身との違う点はどういったところですか? S:彼女の年齢だった頃なら似ている点もあったけど、今はそれより10歳も年上なのでだいぶ違うわね。シャーロット役というのは大学を出たてで、これからどうやって生きていけばいいのか解らず自分を見失っている女性なの。私にも経験があって、いろいろな人生の選択を迫られ、その重圧に押しつぶされそうになっていたものよ。でも今は全く違う段階にいると言っていいと思うわ。あと、私の場合は東京に来ると街に出たくてしょうがないから、ヒロインのようにホテルでボーッとしているなんてことはないわね(笑)。 ■いままで描かれなかった東京を撮りたい Q:舞台を日本にしたこだわりについてお聞かせ下さい。 S:初めて日本に来たのは大学出たての時だったんだけど、日本は今まで行った場所とは全く違う所だと強く感じたわ。例えばヨーロッパに行くと、同じアルファベットを使う国だから看板とかは読めるわけよね。でも日本は言葉も通じなければ、外見だって違うし、看板すら読めなかった。それから何度も来日するうちに日本が大好きになったわ。だってとてもエキサイティングで刺激的だし、とても美しいんですもの。私が感じた東京の印象は、今までアメリカ映画で描かれてきたものとは違うわ。だから「今まで描かれることのなかった東京を撮りたい」と思って、この映画を作ったのよ。 ■西洋と日本の良いとこ取りの映画 Q:アメリカ人と日本人との混成チームでの撮影で大変だったことはありますか? R:この映画をカナダで撮るわけにはいかないだろ? 実際東京を基点に企画が作られたと言っても、過言じゃないんだ。東北新社の皆さんがどうやって東京で撮影すればいいかを、とても丁寧に教えてくれたんだよ。まず僕らがしたことは、日本の映画製作のスタイルを学び、理解することだったんだ。「アメリカの撮影方法を押し付けるなんてことはしたくない」というのが、ソフィアの哲学だからね。だからこの映画の作り方は西洋と日本の良いとこ取りになったんじゃないかな。確かに言葉の問題はあったから、言葉以外の方法でコミュニケーションを取るように気を使ったよ。そして本当に才能豊かなスタッフと共に、映画を完成させるという目標に向かって、一丸となって努力した。だからとてもハイブリットな映画に仕上がったと思う。 Q:今回のすばらしいサウンドトラックの選曲についてお聞かせ下さい。 S:『ヴァージン・スーサイズ』でも一緒に仕事をしたブライアン・レイチェルが、プロデューサーを務めてくれたの。彼とは脚本の段階から話し合って、まるで夢を見ているようでロマンチックな雰囲気を大切にしていこうと決めたわ。だから映像と音楽の相互作用が楽しめるはずよ。また、サントラを作る際にいつも気を付けていることは、映画とは関係なく、そのCDだけで十分音楽を楽しめるようにすることね。 Q:ケヴィン・シールズさんが楽曲を提供された経緯についてお聞かせ下さい。 S:彼の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン」のころから大ファンだったから、一緒に仕事が出来てうれしかったわ。今回は音楽プロデューサーのブライアンを通して、打診したのよ。まずビデオテープを送って、映画の雰囲気や表現したい感情を伝えたの。そして彼のスタジオにも行って、お互いに意見を交換し合ったわ。 Q:現在の東京を描くのに、70年代日本で活躍した「はっぴいえんど」の音楽を使用した理由を教えて下さい。 S:私自信彼らの曲が好きだからよ。そしてブライアンと日本のアーティストであるコーネリアスとも話し合った結果決めたというわけ。日本の人なら誰もが知っている歌でしょうから、カラオケで合唱しているシーンを撮ったのよ。だけど、長すぎたからカットしちゃったの。でもその撮影がとても楽しかったから、映画のラストに少し入れたし、サントラにも入れたのよ。 ■ビル・マーレイがスタッフを担いで回りだした Q:撮影中のエピソードを教えて下さい。 S:ホテルでの撮影は、宿泊客に迷惑にならないように時間などの制限があったの。ホテル側のスタッフが1人、撮影に立ち合っていたんだけど、彼女は生活指導の先生のように厳しかったわ。ある日ビル・マーレイが彼女の心を開かせようと、背中に担いでくるくる回ったのよ(笑)。そしてもう少し撮影させてくれるように、交渉していたわ。他には、実際の人々が映画に出演してくれたことがうれしかったわ。「ニューヨーク・バー」で歌っているジャズ・シンガーは、以前私が滞在していたときに歌っていた人で、ホテルを通して探し当てたのよ。ホテルのスタッフも何人か出演しているしね。 R:ソフィアは映画を作る前に3つの条件を出したんだ。1つは「日本で撮影すること」、次に「主演はビル・マーレイ」、最後は「パーク・ハイアット東京で撮影すること」。これらには交渉の余地はなかったんだ。ホテルで撮影なんて、普通だったら「何か壊されるン出はないか」と不安になると思う。でも、パーク・ハイアットは協力的だったので、とても感謝しているよ。今回プロモーションで日本に行くとビル・マーレイに言ったら「あのパーク・ハイアットに泊まるのか!」と羨ましがっていたよ。 Q:映画の終盤にヒロインが「東京に満足したからもう二度と来ない」というような台詞がありますが、その意図することは? S:それは東京での滞在があまりにも楽しくて、もうこれ以上満喫することはないだろうから、「二度と来ない」という意味で言ったのよ。 Q:好きな日本語は何かありますか? S:私は怖気づいちゃって、なかなか話せないのよ。でもロスは日本語を話すのが大好きで、発音がいいのも自慢みたいよ(笑)。 R:「カット」。(日本語英語の発音で) S:今日は会見に来てくれて、本当にありがとう。 (取材・文FLixムービーサイト) |
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