ベニチオ(以下B):ハロー。アリガトウ。今回初来日することができて、とてもうれしい。日本の映画をたくさん観たよ。ぜひ『21グラム』を楽しんでほしいな。
アレハンドロ(以下A):オラー(スペイン語でこんにちはの意味)。こんなにたくさんのカメラを見たのは生まれて初めてだよ! 僕の子供たちに見せたいからちょっと写真を撮らせてもらうよ(笑)。東京に来るのは2度目なんだけど、なぜか僕の故郷のメキシコ・シティを思い起こさせるからこの街が大好きさ。この街の人からは懸命に生きているという、強い力を感じるんだ。また戻って来られてうれしいよ。
Q:1番大変だったシーンを教えて下さい。
B:ドラマチックで緊張感があるシーンは、難しそうに見えるかもしれないけど、初めから心積もりができているから大丈夫なんだ。でも何気ないシーンや一見シンプルなシーンというのが、実は難しいものなんだ。例えば映画の中で、トラックで家に帰ってきて妻と子供に声をかけるシーンなんかは、とても難しかったよ。
A:子供を使うシーンは、彼らの集中力を持たせなくてはいけなかったから難しかったね。
Q:好きなシーンは?
B:ショーンやナオミのシーンではたくさんあるんだけどな……。僕は自分自身に対して非常に厳しい批評家だから、どうかなぁ……わからないよ。
A:子供を使ったシーンで気に入ったのがあるよ。"ブッシュ・シーン"と呼んでいたんだけど、ベニチオが子供を叩くシーンだよ。あのシーンはベニチオ演じるジャックの矛盾に満ちた人格が表現されていると同時に、家族の関係性が出ているんだ。なぜ"ブッシュ・シーン"と名づけたかって? 平和のために暴力を使うからさ。映画のせりふに「この家には暴力を振るう人間はいないんだ」といいながら子供を叩くだろ? そういう矛盾が共通しているからだよ。
Q:ショーン・ペンとナオミ・ワッツのシーンの中でお気に入りを具体的にお願いします。
B:まずショーンのは、バスタブでタバコを吸っているシーンだね。自分が侵されている病魔に対する痛みが、非常に伝わってきたよ。ナオミに関しては僕の演じるジャックを殺したいと言うシーンで、「私の手足が切断されたような気持ちだわ」と叫ぶんだよ。あれはものすごく良かったよ。彼女自身は小柄でとてもいい人なんだけど、演じ始めるたとたんにすごい存在感を出す女優だと思う。彼らはとても寛容で気前がよく、特別な能力を持っているんだ。それは自分の役のみならず、すべての登場人物の視点を理解できるということなんだ。そんな彼らと一緒に仕事ができて、とても光栄だったよ。
Q:監督はラジオのDJ出身ですが、その経験が監督業に与えた影響を教えて下さい。
A:DJ時代、毎日3時間観客を楽しませるのが仕事だったんだけど、それがいい訓練になったと思うよ。ラジオはメディアの中で最も力強いコミュニケーションが取れる方法なんじゃないかな。
Q:役への具体的なアプローチ方法を教えて下さい。
B:何したっけ……何度か監督と会って後は……。脚本は映画の通りに書かれていたんだけど、目で見えるものは何もなくてとても複雑だった。だから読むのが遅い僕には大変だったよ。そして監督が何を求めていて、僕がどこに行こうとしているかを話あった。他には僕の役の宗教的な考えや、うつ状態になる心理などもリサーチしたね。だからあとは時間通りに現場に行って、ベストの演技ができるよう祈っていたよ。そうだ、子役とその両親とも楽しい関係が築けるよう努力したんだ。映画の中でかなり暴力的なシーンがあったから、それはただの作り事だと理解してもらえるようにしたよ。1週間かもうちょっとかかったかな。
Q:監督はベニチオさんにどのようなアドバイスをされたのですか?
A:彼は非常に探究心のある俳優なので、彼からの質問に答えることに力を注いだよ。その過程で脚本により詳細なシーンを書き加えることもあったね。
Q:それは具体的にどのシーンですか?
A:1つはベニチオの「息子との関係はどういったものなのか?」という質問がきっかけに、より深く掘り下げることになったんだ。例えばベニチオが刑務所から帰ってきた父親に、子供が近づけないでいるというシーンがあるんだ。あのシーンは親子の距離関係がいとおしくて、涙ぐんでしまうんだよ。もう1つオリジナルの脚本で、ラストにベニチオがナオミに謝るシーンがあったんだ。でもベニチオが、言葉ではなく沈黙の中、目だけでそれを伝えたいと提案してきたんだよ。きっと彼はその日二日酔いで、怠けたいだけだったのかもしれないけど、結果的には良かったと思うよ(笑)。
Q:この素晴らしいキャスティングが実現したわけを教えて下さい。
A:英語圏である米国メンフィスで撮影すると決めたから、世界1の俳優たちの出演が可能になったんだ。彼らはそれぞれ国籍が違うが、映画を作るためには皆が一体となり、夢を共有する必要がある。この作品ではそれができたと自負しているよ。
Q:ベニチオさんはご自身から出演を望まれたのですか?
B:出演を依頼されたんだけど、まるでパーティに招待されたような気分だったよ。監督からショーン・ペンもナオミ・ワッツもすでに交渉済みだと聞かされたから、僕もすぐさま承諾したよ。まだ脚本も読んでいない段階だったのにね(笑)。でもどんな俳優だって、これだけのフィルム・メーカーが揃っているなら「ノー」と言う人はいないよ。
Q:撮影は脚本通りに進んだのですか?
A:撮影は物語の筋通り行なったんだけど、実は脚本は3つあったんだ。1つは映画と同じ時間軸が入れ替わるもの、もう1つは登場人物それぞれの脚本、最後に僕が撮影する順番通りに書かれた脚本。そして観客を混乱させないためには、自分の言いたいことを明白にするというのが1番良い方法だと思うよ。
Q:ハリウッドで活躍する際、バリヤーを感じたことはありますか? また、米国以外の俳優が成功する秘訣とは何でしょう。
B:どの役者だってバリヤーを感じるんじゃないかな。僕がバリヤーを感じたときも、ラテン人だからだろうかと、自問自答したことがあるよ。でも俳優だけでは映画は作れないから、他の作り手たちと一緒にそのバリヤーを破ればいいんだ。若い俳優たちへのアドバイス? 昔演技指導の先生から「人の2倍いい演技をしろ」と言われたのを覚えているよ。周りと同じぐらい良くてもだめなんだ。よく役者の卵たちと話す機会があるんだけど、彼らになぜ役者を目指したかと聞くと、「映画が好きだから」という答えが返ってくるんだ。確かに役者やこういった記者会見は目立つかもしれないけど、映画作りには色々な側面があるんだよ。だから映画界に入りたいのなら、映画のあらゆる側面に触れることが大切だね。これが答えになるかはわからないけどね。
(取材・文:FLiX ムービーサイト)
『21グラム』は5月下旬より丸の内ピカデリー2他にてロードショー。
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