監督は美術の博士号を持つ若手映像作家で、今年の初夏に公開されるイザベル・ユペール主演作『いつか、きっと』を手がけたオリヴィエ・ダアン。さまざまなミュージシャンのPVの演出でも知られている。
「実を言うと、オリヴィエの過去の映画は観ていないんだ。僕にとって映画は常に現在進行形のもの。かつて良い映画を撮ったからといって、また良い映画ができるという保障はないからね。むしろオリヴィエ本人を見て、僕は彼を信頼することができた。彼は小柄でベレー帽をいつもかぶっていて、平行感覚が悪そうなんだ。昔、重い筋肉の病気を患ったことがあるからだと思う。そんな彼を見たとき『こいつはいろいろなことをわかってる』って直感した。すばらしい監督だとわかっていても、その人と通い合うものがなければ、ぜったいに仕事はしない。結婚と同じだよ。相手に本能的なシンパシーを感じるかどうか。結婚したらパートナーと一緒に人生を作っていくし、映画監督にシンパシーを感じたら一緒に映画を作る。出発点は同じなんだ」
共演者には前作でチームを組んだヴァンサン・カッセルに代わって、フランスの人気若手俳優ブノワ・マジメルがニーマンス警視の新しい相棒、レダ役に選ばれた。
「ブノワは地に足をつけているタイプだ。ある種の道徳観念と深みがあるね。彼が演じたレダはニーマンスの人柄に近いと思う。今回は刑事が3人登場するのも前作と違うところだ。ニーマンスとレダと、カミーユ・ナッタが演じる女性刑事マリー。彼女はカソリック宗教学の専門家で、ふだんはデスクワークをしている。刑事だから肉体訓練も受けているだろうが、銃の扱いに慣れているわけじゃない。そのへんのニュアンスは現場でときどきアドバイスしたこともあった」
あいかわらずハードなアクションシーンも満載。特に第一次世界大戦の終わりに北海からスイス国境沿いに建設された巨大な地下要塞マジノ線での撮影は、50代半ばのジャン・レノにはかなりきつかったようだ。
「深さ50メートルの地下道だから、酸素が少なくて虫も植物も生息できない。肉体労働は本当に大変で、小さな照明器具を運ぶだけでひと苦労だったね(笑)。ただ、このマジノ要塞線は、善と悪の闘いという映画の物語のメタファーでもあるんだ。当時フランスはドイツ軍の侵入を防ぐためにマジノ要塞線を造ったんだけど、結局ナチは迂回してフランスに入ってきた。つまり悪に対して、モラルや宗教といった砦を造ることはできるけれど、悪はいつだってそうしたものを迂回して入ってきてしまうんだ。だからこそニーマンスは闘い続ける。そこが演じがいのあるところだ」
フランスで最も古いといわれる勲章、レジオン・ドヌール賞に続いて、昨年の暮れにはシラク大統領からフランスの国民功労賞も授かったジャン・レノ。今や名実ともにフランスを代表する国民的ヒーローになったわけだが、彼自身は「僕はアンダルシアの血を引くモロッコのカサブランカ生まれだから、移民の子が完全にフランスに同化したってことだね」といたって飄々としている。
「勲章はありがたいことだけれど、僕はフランス人だけに決して留まりたくはない。フランス人であると同時に、もっと世界に開かれたコスモポリタンでありたいんだ」
(取材・文:石塚圭子)
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